6月6日 寺崎美桜
今日は、寺崎のガサ入れの日だった。どうやって、那奈の情報を仕入れるか、それで頭がいっぱいだった。昨日たてた仮説を思い出していた。昨日まで、定本と楓の話をふまえて、考えた仮説だった。
〈仮説〉
下田那奈
→ 休んでいる理由 体調不良?
→ 自宅にいない?
→ 誰が情報を知っているか?
・定本健太郎
・山川楓
・寺崎美桜
・林友紀
・世田優斗
私は、学校に着くと、いつものように蒼井と話していた。蒼井と話していると、蒼井は、日番のため、職員室に向かっていた。蒼井がいなくなった時、寺崎は、クラスの英語ノートを配っていた。そして、残り1枚の英語ノートを持っており、私のところにやって来た。私の机に英語ノートを置いた。置いたところで、すぐに声をかけた。
私 「ノート、ありがとう」
寺崎「大丈夫だよ」
私 「いつと、偉いね」
寺崎「先生に配れって」
私 「めんどうだね」
寺崎「そうそう」
私 「さっき、蒼井は、職員室に行ってたよ」
寺崎「今日は、蒼井が日番なの?」
私 「うん」
寺崎「もう、ちゃんとしてよー」
いつもの口調で寺崎が顔をしかめていた。今がチャンスだと思い、寺崎に那奈について話し始めた。
私 「寺って、高校1年生の時、何組?」
寺崎「えっと、1組」
私 「1組なんだ」
寺崎「ホナは?」
私 「私は、3組」
寺崎「懐かしいね。1年生の頃かぁ」
私 「今の4組の人で1年1組の人いる?」
寺崎「誰だろ?うーん」
私 「‥‥」
寺崎「あっ、那奈とか」
寺崎は、見事に私の罠にハマった。
私 「確かに。那奈も1組だったね」
寺崎「そうそう」
私 「那奈って今、家いないよね。早く戻れるといいよね」
寺崎「確かに。心配だね」
那奈が、家にいないことが事実になった。
私 「寺は、連絡とってる?」
寺崎「あんまり、とれてないかな。ホナは?」
私 「私も全然とれてないの」
寺崎「そうだよね」
私 「寺は、いつまで連絡とれてるの?」
寺崎「うーん?」
そう言って、スマホを取り出した。おそらく、那奈とのやりとりを見ているのだろう。
寺崎「5月10日かな」
私 「そうなんだ」
寺崎「ホナな?」
私 「私は、12日ぐらいだった気がする」
寺崎で10日まで、やりとりしていたということは、楓であればもっとやりとりしているんじゃないかと思っていた。問題は、那奈がどこにいるのか?だった。
寺崎「そっかぁ」
私 「那奈に会いたいなぁ」
寺崎「そうだよね」
私 「那奈って、今どこいるか知ってる」
寺崎「どこだろう。私が聞いたのは、東京だけど。ホントかな?」
またしても、よくわからない返答が返ってきた。那奈は、長野にはいない。東京にいる?頭の中が混乱してしまった。これ以上、話すと寺崎にバレてしまう可能性があったので、移動して考えようと思った。
私 「そうだよね」
寺崎「うん」
私 「私も東京って聞いたけど、どうかな?」
寺崎「那奈の親戚に東京の人なんかいるかなーって思う」
私 「だよねぇ」
寺崎も、那奈の返信には、違和感があったのだろう。
私 「私、心配」
寺崎「まぁ、もう少し待ってみようよ」
私 「うん。じゃあ、私、蒼井のところ行くね」
寺崎「うん」
私は、蒼井のところに行くふりをして、体育館に向かった。私は、誰もいない体育館裏のところでいろいろ考えていた。まずは、那奈が家にいないこと。この話は、おそらく、間違っていないだろう。東京にいることは、ホントかどうかわからない。問題は、那奈がなんで家にいないのかということだった。
寺崎から、その理由は、聞くことができなかったが、寺崎は、「親の理由」とか「誰かの体調不良」とか学校に来てない理由だと考えているのだろう。私が想定している「那奈の体調不良」という話ではなさそうだった。
寺崎の話が本当であれば、定本や楓の話は嘘になる。二人は、何か知っているという疑問から確信に変わった。
明日、林に話してみてから、また考えてみようと思った。