7月8日 二人
一昨日に真紀に嫌気がさして、昨日、楓とよくない感じになってしまって、どこか気まずかった。いつものように、今日も学校に向かっていたが、罪悪感を感じてしまう朝だった。
いろいろ考えると、自分の考えがどれくらい正しいのかよくわからない。たしかに、真紀のことを考えると今の状況はよくないと思う。今、真紀をいじめるものはいないし、傷つけるものもいない。それが悪いと言えば嘘になる。でも、またいじめられるかもしれないと思うと、黙っていられなかった。
真紀は、周りからどう思われているのかなんて、わかっていない。だから、余計心配になるんだ。真紀は、ただ傷ついたという経験しか残っていないから、いつその心が折れてもおかしくない。私は、そばにいて真紀の心を支えていかないと。そんなことを言っている私だけど、自分が正しいかと言われると疑問が残るところもある。
そう思えたのは楓がいたからだ。楓は、冷静にいろいろな物事を見ている。私が思っていることを客観的に見て、アドバイスをくれる。それは、簡単なことに見えて、とても難しい。私や真紀に比べると、感情の浮き沈みも小さい。自分にとっては、理想の生き方だった。でも、楓は笑わなくなった。那奈がいなくなってからは、さらにひどくなっている。おそらく、那奈が楓の拠り所だった。私や真紀は、どんなに頑張っても那奈の代わりは務まらなかった。
真紀同様、誰かが楓のそばにいないと、本当に一人になってしまわないか不安だった。楓は、もともと一人でいることが多いし、ほっておいたら、もう誰の言うことも聞かなくなったしまうんじゃないかと勝手に考えてしまう。楓は、那奈の言うことしか聞かない猟犬のような子になっていた。
楓の気持ちもわからなくはない。ずっと一緒にいた那奈が突然姿を消したんだから。そりゃあ、私だって寂しいし納得いかないことはある。それでも、那奈がいなくても、一人でやっていかないと。なんか、母親が亡くなった時と似ている気がした。
私の母親が亡くなった時も、学校を休むことはしなかった。ただ、ひたすら悲しい気持ちを抱えて、登校した。それが消えることはなかったけど、少しでもその悲しい思いが分散されたらという感覚だった。当時、抱いた感情は、今となってはなくなっていた。それがいいことなのか悪いことなのかすらわからないけど、自分の中にある感情を取り払って生活することの大事さを知ったのだった。




