第二十六五章 亮太、告白される
ある日、秋山官房長官より、「先日の話だが、島谷外務大臣から息子の友達になってほしいと自宅に招待されました。週末、私と一緒に来てくれないか。当日、島谷外務大臣の自宅で、本場京都から芸者を呼んで個人的なパーティーを開くそうです。」と依頼された。
亮太は、またパーティーかと思いつつも、断る理由もなかったので、乗り気ではなかったのですが、父親の顔をつぶさないように了承した。
パーティー当日、本場京都から、人気No.1の売れっ子芸者、鶴千代を呼んで、島谷外務大臣の息子の善一と亮太を主役として開催された。
亮太は、何故俺が主役なんだ?聞いてないぞ。とダンスもできない慣れないパーティーにおろおろしていた。
そのような亮太の様子に気付いた島谷外務大臣が、チャンスだと息子の善一の背中を押した。
ダンスなどは善一がエスコートしてなんとかなっていた。
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善一は亮太とダンスしながら、「陽子さん、ダンスは苦手のようですね。」と話しかけた。
亮太は、「ダンスというか、このようなパーティーにはあまり興味がなく、出席した事がないので勝手がわからず苦労しています。」と雑談していた。
善一は、「そうですか。先日も誘拐犯を追跡したと聞きました。お淑やかでお上品なお嬢様なので、てっきり箱入り娘のお嬢様だと思っていましたが、意外に活発なのですね。まるで時代劇の、お転婆姫のようですね。」と笑っていた。
亮太は、「私は曲がった事が大嫌いで、卑劣な誘拐は許せないので。」と追跡した理由を説明した。
ダンスが終わると善一は、「陽子さん、ご結婚は考えていますか?誰か付き合っている男性はいるのですか?」と陽子の事が気にいった様子でした。
亮太は、「私は一生結婚するつもりはありません。男性の友達はいますが、特定の付き合っている男性はいません。」と善一のプッシュをかわした。
善一は、「その友達の一人に私を加えて頂けませんか?来週の週末、横浜に船など見に行きませんか?」と、まずは友達からと誘った。
亮太は了承して、その後もパーティーを楽しんだ。
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そんな亮太が、たまたま鶴千代と話をした時に、聞き覚えのある声だったので、「以前、どこかでお会いした事はありませんか?」と確認した。
鶴千代は、「はい、私服でお会いした事があります。帰るまでに思い出さなければ私の控室に来て下さい。」と以前会った事があると説明した。
亮太は、パーティーを楽しみながら、鶴千代の事を京都出身の女子大時代の同級生かな?とか色々考えていたが、思い出せませんでした。
パーティー終了後、亮太は秋山官房長官に、鶴千代との話の内容を説明して、一緒に鶴千代の控室にいった。
しばらく雑談しても亮太は思い出さなかった為に、鶴千代はカツラを外して白粉を落とした。
鶴千代の素顔を見て亮太は思わず、「あっ!鬼だ。」と呟いた。
秋山官房長官は、「陽子、こんな美人に鬼はないだろう。」と亮太の反応に疑問を感じていた。
鶴千代は、「いいえ、私は鬼と呼ばれています。先日は娘の愛美を救って頂き、ありがとうございました。」と改めて御礼した。
秋山官房長官は驚いて、「えっ?先日陽子が助けた娘の母親は、たしか、京都府警の鬼軍曹だと記憶していますが・・・」と不思議そうでした。
鶴千代こと広美は、「ええ、だから、私は鬼と呼ばれていると申し上げましたでしょう?でも陽子さんが、秋山官房長官のお嬢様だったとは驚きました。先日京都でお会いした時とは異なり、お上品でお淑やかなお嬢様なのですね。」と笑顔で挨拶して心の中では、隆のやつ、こんな、お嬢様に抱きつきやがって、と不愉快そうでした。
亮太は、泉のブリッコ特訓が役にたったと安心して、「父親と私とは別人ですから、父親の名前を出して鼻にかけるような事はしたくなかったので、父親の事は何も伝えませんでした。」と父親の事を喋らなかった理由を説明した。
広美は、「先日も結婚詐欺師逮捕に協力して頂いて、お嬢様の事件簿なんて小説を出版すれば売れるかもしれませんね。」と亮太は世間知らずの箱入り娘ではなく、しっかりしたお嬢様だと感心していた。
秋山官房長官は、「しかし、公務員は副業禁止なのではないですか?上司はこの事をご存知なのですか?」と不思議そうでした。
広美は、「私の母は置屋を経営しています。子どもの頃から芸者の特訓を受けていて、高校生の頃から鶴千代の源氏名でお座敷に出ていました。公務員になってからは、ボランティアとして母の手伝いをしているだけですから、給料は一銭も頂いていません。捜査一課長も刑事部長もこの事は知っています。」と説明した。
パーティーも無事に終わり皆帰ると広美はスマホで、「パーティー会場には特に怪しい人物はいませんでした。」と連絡していた。
亮太が、「いくらボランティアでも、東京で芸者をしていれば、京都で事件が発生すればすぐに対応できないですよね。やはり事件絡みだったのですね。」と声をかけた。
広美は、亮太が近くにいる事に気付かなかった為に、「あら、陽子さん。特になにもなかったので、今の話は気にしないでね。」と苦笑いしていた。
帰宅した亮太から説明を聞いた泉は、「デートに誘われたの?入社時に私が選んであげたブリッコ服を着て頑張ってね。」と亮太が男性から告白されたら、上手く対応できるか心配していた。
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翌週の週末、亮太は善一と横浜で船を見ていた。
しばらくすると亮太は、京都府警の広美に気付いて広美に電話した。
広美は部下の刑事と、「デート中に、どこに電話しているのかしら?」と話をしていると広美に着信があった。
確認すると、秋山陽子と表示されていたので、「陽子さんからだわ。こっちを見ているわ。尾行に気付かれたようね。」と電話にでた。
「先週、善一さんの自宅でお会いした時は、特に何もなかったと仰っていましたが、何かあるのですか?」と何かあると確信して確認した。
広美は、「尾行に気付かれるとは私も刑事失格ね。実は、善一さんが京都のやくざに狙われている可能性があり、京都からそのやくざを追ってきました。私達は、この近辺の地理に詳しくない為に、捜査は地元警察に任せて護衛しています。」とやむを得ず説明した。
亮太は、「先ほどから、やくざ風の男に尾行されているようで、逃げるように場所を変えてもついてくるので気になって連絡しました。」と納得していた。
広美は、「実は、京都のやくざ銀龍会が人身売買している事を警察が突き止めました。その捜査の切欠は、島谷外務大臣からの通報なのよ。銀龍会がその仕返しをしようとしているようで、誰が狙われているか不明でしたが、どうやら息子の善一さんを狙っているようですね。」と説明した。
亮太は、「何故通報者が島谷外務大臣だとわかったのですか?」と不思議そうでした。
広美は、「島谷外務大臣は、秋山官房長官の人気が上昇して焦っていたようです。私も世間の為に協力していると自分で発表したのよ。」と通報者が特定できた理由を説明した。
亮太は、「それは仕方ないわね。」と納得していた。
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広美は、「やくざ風の男達の動きが慌ただしくなってきたわ。気を付けて!」と忠告した。
その次の瞬間、やくざ風の男数人が、善一と亮太を襲った。
広美は地元警察に連絡の上、部下と共に、「警察よ、やめなさい!」と警告しながら飛び出して襲撃を阻止した。
やくざ風の男達は、善一と亮太を人質にしようとした。
やくざは、ブリッコ服を着ている亮太を狙ったが、意外に強く、目標を善一に変えた。
善一は腰を抜かしたが、亮太が善一を助けて、空手と柔道で、やくざ風の男達を撃退した。
そこへ、広美からの連絡を受けた地元警察が、警官隊と到着して、やくざ風の男達は逮捕された。
広美は、「陽子さん、強いのね。今のは柔道と空手でしたね。」と感心していた。
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その日帰宅した善一は父親に、「お父様が警察に通報した事が切欠で、人身売買の捜査が開始されました。その関連やくざに私が襲われました。襲われる前に、陽子さんに君の事は僕が守るから付き合ってほしい、と告白していました。やくざ数人に囲まれて私は腰を抜かして陽子さんがやくざ数人を撃退しました。陽子さんの前で失禁までして大恥かいた。もう陽子さんに会わせる顔がない。」とションボリしていた。
島谷外務大臣は、「陽子さんは、そんなに強いのか。本物の正義の味方ですね。」と秋山官房長官の人気は娘の陽子さんらしいので、嫁として島谷家に迎えてその人気にあやかろうとしていたが、やくざ数人を倒してしまう陽子さんは、善一の手に負えないだろうと諦めた様子でした。
次回投稿予定日は、6月13日を予定しています。