2019/12/21 『黒』『時間』『魔王』
本来は2019/6/20のテーマですが、今日のテーマではどうしても思いつかなかったので、使わせていただきました。
「……もう、疲れたな」
魔王城の、一番奥まった部屋にいる、魔王。
彼は黒い鎌を手に、勇者を迎えようとしていた。
が、その表情は暗い。
「わたしは、何度部下をなくせばいい? 何度死にかければいい? 何回この鎌を振るえば、わたしは幸せになれるのだろう?」
彼は、魔王になるには優しすぎた。
だから、魔物と人間が共存する世界を望み、人間の王との対話を何度も試み、何度も失敗し、勇者をけしかけられ、部下を殺され、そして、自らの理想のために鎌を振るった。
この黒い鎌は、時を遡れる魔法具だった。
何度も鎌の力を借り、時を巻き戻し、対話を試み、上手くいかず、少しずつ心を壊してきた。
足音が聞こえる。
魔王には見なくても分かる。これは、人間の足音だ。もう何度となく聞いた、勇者たちの。
扉が、開く。
「——お前が、魔王か」
「……いかにも。何用だ?」
「そうか、お前が魔王か。ならば……お前を、倒す」
そう言って勇者が襲いかかっていた時、勇者の中で、何かが壊れた。
「——そうかそうか。わたしを倒すか。だが、お前には出来ぬ。次に会う時には、お前が強くなる前に、殺してやろう」
黒い大鎌を振るう。
再び、遡る。
しかし——。
「——今回からは、人間界を滅ぼす為に遡ってやる」
人間が好きだったからこそ、彼は狂ったのだった。




