2019/12/09『悪魔』『雨』『傲慢』
悪魔がいた。
「それ」は、変身すると青年の姿になる奴だった。
目は半眼で銀色。それを隠しそうなほど長い、同じ色の髪。ワイシャツに、裾が長く黒い上着、同色のスキニーパンツ。艶やかな靴も黒だ。そして、背中に生える蝙蝠のような翼も忘れてはいけない。
そんな「彼」は、今日も人間界にやってくる。
誰かが、何者かを見下している。
誰かが、何者かを苦しめている。
そんな「誰か」を探している。
普通なら悪に突き落とすため。
けれど良き方に導くために。
「それ」は「誰か」を探している。
——「ひと」を愛してしまった。
——だから不幸になって欲しくないのだ。
——悪に染まって欲しくないのだ。
それに気付いたのはいつだっただろうか。
分からないが、気付いた時には「それ」は、ひとを良き方に導こうと動いていた。
そして、それを知った他の悪魔に、嫌われた。
確かに「それ」は悪魔だった。
昔は「ひと」を悪の道に突き落としていた。
悪に染まる「ひと」が好きだった。
不幸を笑っていたはずだった。
なのにいつしか、嫌になった。
「ひと」を愛した「それ」のことは、いつしか悪魔の王の耳にも入った。
『もうそのものは悪魔ではない。そんなもの、追放してしまえ』
「それ」は人間界へと追い出され、黒い翼は銀色になった。
王の怒りが伝播したのか、人間界では雨が降った。雷が轟き、豪雨になり、「それ」の愛するものを押し流そうとしているかのようだった。
「ひと」を愛した悪魔のことは、羽の色にちなんで「銀の悪魔」と呼ばれるようになったという。




