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番外編2.ハロウィンの悪戯4

 今日の私は少し変だ。ときどきお兄様が殿下に見える。そんなことあり得るわけないのに。絶対、シシリーと昼間に二人が入れ替わる話をしたせいだと思う。

 

 寝る準備をしていると、シシリーが窓の外を覗く。

 

「早めに帰ってきて正解でしたね。今にも雨が降りそうな天気ですよ」

 

 シシリーのいう通り、風が窓を叩いていた。

 

「帰っているときはちょっと風が強いかなって思う程度だったのに」

「冷えるといけないですから、暖かくして寝ましょう」

「うん、風邪ひいたら困るしね。ありがとう」

 

 私は温められた布団の中にもぐりこんだのだけれど……。

 

 びゅうびゅうと風が吹く。部屋には一人きり。まるでオバケが笑っているようなのだ。

 

「やっぱりお兄様のところに行こう」

 

 私はこっそり部屋を抜け出したのだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 いつもと違う寝間着、ベッドの感触。窓とベッドの位置が慣れない。何より、身体が違う。

 

 夜になると、このまま元に戻らないのではないかと不安が渦巻く。しかし、今考えても意味はない。まずは明日、クリストファーと相談しよう。

 

 こんなに自分の身体を恋しく思う日がくるなんて考えてもしなった。

 

 いつの間にか外は風が吹き荒れている。ガタガタと窓を揺らす。眠りの妨げになりそうだ。長い夜になりそうなよかんに、思わずため息が漏れた。

 

 ため息と同時に、部屋の扉がギィと小さく鳴った。

 

「お兄様、もう寝ちゃった?」

 

 慌てて目を向ければ、ロザリーが扉から顔を出す。俺の顔を見るやいなや、顔を綻ばせサッと部屋の中に入ってきた。寝間着の裾がふわりと広がる。俺は目を見開いた。

 

「何かあったのか……?」

「風がうるさくて眠れないの。一緒に眠ってもいい?」

 

 ……は? 今、ロザリーはなんと言った? 一緒に? 男と女が一緒に……?

 

「だ、男女が同衾するのはよくないと……思う」

「なに? 次は誰の真似?」

 

 ロザリーは肩を揺らして笑うと、返事を聞く前に布団の中にもぐりこんできた。

 

「お……おいっ!」

 

 慌てて逃げるように奥に体をずらせば、俺の眠っていた場所にロザリーは丸くなる。

 

 騒ぐ心臓を落ち着かせる方法を知らない。

 

 しかし、彼女は悪びれもせず笑う。

 

 この年まで兄妹で一緒のベッドに入るのは想像ができない。しかし、クリストファーとロザリーは双子だ。その辺の兄妹とは違うのだろう。彼女の口ぶりや行動からするに、ときどきこうやって二人で眠っているようだし。

 

「風、強いね」

 

 ロザリーが俺の手を握る。先ほどまでうるさいと感じていたのに、風の音など耳に入らないくらい、頭は彼女のことでいっぱいだ。婚約者として隣を立つのとはわけが違う。

 

 無防備な姿、安心しきっている表情。暗くても見える距離。香りだって感じる。

 彼女は俺を兄だと思っているのだ。見てはいけないものを見ている気がして、良心が痛む。

 

 俺の心の内など知らない彼女は、微睡み始めている。このまま朝まで過ごすのか……? 彼女が隣に眠っている中、夢の世界に旅立つことなんてできるわけがない。

 

「お兄様が元気になってよかった」

「ロザリー?」

「神様に連れていかれなくて、本当によかった」

「神様?」

「お兄様が神様に気に入られて、連れて行ってしまうんじゃないかってずっと思っていたの」

 

 握られた手が少し震えているような気がして、思わず握り返した。いつもよりも手が冷たい。何度も手をさすった。

 

「大丈夫だ。クリストファーはロザリーを一人置いて消える男ではない」

 

 ロザリーが何度か目を瞬かせる。

 

「うん、そうですね。……アレク。ありがとうございます」

 

 微睡の中、ロザリーは微笑む。そして、小さな寝息を立て始めてしまった。

 

 彼女の寝息を聞きながら、自分の顔を確かめる。唇も鼻の形もクリストファーのものだ。なぜ、彼女は『アレク』と呼んだ?

 

 寝ぼけていたのか?

 

 びゅうびゅうと風が吹く。窓を叩く音はいまだに強い。それを感じることができるくらい、心臓は落ち着いてきたようだ。

 

 ロザリーの寝息が耳元で聞こえる。歴代の国王の名前を何度暗唱したら朝が来るだろうか。

 

 不思議なもので、眠れない眠れないと思っていても、夢は俺を誘う。最近忙しかったせいだろうか。それともクリストファーの体力がないせいかもしれない。

 

 

 

 次に目が覚めたとき、隣にロザリーはいなかった。見慣れた部屋の天井。

 

「夢……か」

 

 そうだよな。クリストファーと入れ替わるなんて不思議な現象。夢以外で起きてたまるか。

 

「殿下、おはようございます」

 

 二人の侍女が朝の準備を手伝うために部屋に入ってくるのも日常。変な夢を見たせいか、寝た気がしない。自然とあくびが漏れる。

 

 一人の侍女が準備の途中で、小さく声をあげた。

 

「素敵な仮面ですね。どうされたのですか?」

「……仮面?」

 

 侍女の視線はベッドの枕元に。俺は枕元に置かれた仮面を凝視した。

 

 白地に青で描かれた華やかな仮面。己の手をまじまじと見る。

 

 

 

 

 おしまい



ハロウィンの悪戯、お付き合い頂きありがとうございました!

評価等での応援もありがとうございます。

『偽りの青薔薇』書籍版は11月4日発売です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今まで読んだ男装モノの中で、一番楽しめました! 二日間かけて一気読みしちゃいました。
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