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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第4章
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July Story13

優樹菜と葵は、犯人の数を確かめるため、"みはらし"へと向かう。

 “みはらし”の前に到着した優樹菜は施設が外部から封鎖されている様子を目の当たりにした。


 だが、葵の能力にかかれば、その扉は簡単に開かれた。


 優樹菜は誰もいない待合室を見回した。たしかに、ここには人がいた気配が感じられる。


「行くよ、葵」


 葵の肩を叩き、優樹菜は管理人室に向かって歩き出した。


 地図の通り、左側の廊下の突き当りを目指す。


「ねえ、優樹菜」


 後ろから葵が呼んできた。


「何?」


 振り返らずに返事をすると、


「優樹菜も、2階行く?この後」


「流石に急に現れるのが二人もいたらマズいでしょ」


「そんなことないよ。あたし、全然怪しまれなかったし。それにさ、あたしがあっちに戻ってる間、勇人のこと見ててあげてよ」


「別に必要ないでしょ。小さい子じゃないんだから」


「えー、でも、心配じゃーん。優樹菜、冷たーい」


「まさか、あんた」


 優樹菜は葵の冷やかしを無視して振り返った。


「誰かに矢橋くんのこと任せてないでしょうね?」


「え!すごい!何で分かったの?」


 葵の答に、優樹菜は「はぁっ?」と足を止めた。


「何やってんのよ!見ず知らずの人に頼むことないでしょ」


「知らない人じゃないもん!」


 葵が言い返してきた。


「知ってる人だよ!勇人が知ってるって言ってたもん」


「あんた、嘘ついたら後でどうなるか分かってんの?」


 睨みつけるも、葵は動じなかった。


「嘘じゃないよ!けど、間違った。言ってないけど、知ってるっていう反応してたもん!それに、博士先生が言ってたんだもん、その子、1年1組の生徒だって」


 優樹菜はそこで「えっ」と声を上げ、目を大きく開けた。1年1組───?


「……私たちの、クラスメイトってこと?……どんな子?」


「髪の毛が、茶色いトイプードルみたいな、男の子」


 優樹菜は思い当たる節があることに気付き、


「湯川くん……?」


 その名を呼んだ。


「そう!その子」


 葵が大きく頷く。


「さっきの、施設長の放送の話とか、全部、その子に聞いたんだー。優樹菜はいなかったから知らないだろうけど、それは翼に頼まれてやったんだよ。勝手にやったことじゃないよ」


「だとしても……、湯川くんに矢橋くんのこと任せるのは違うでしょ……?」


 優樹菜が言うと、葵は「えー、何で?」と不思議さと不満が混じったような目をした。


「知らない人じゃないじゃん、何がダメなの?」


「ああ、もう……」と、優樹菜は頭を振った。


 葵は、学校での勇人と斗真の様子を知らない。2人が、席が前後だというのに、お互いに空気のように思っていそう───という優樹菜の考えを共有できないのだ。


(湯川くん、ごめんね……)


 妹の行いを、心の中で、特に親しいわけではないクラスメイトに謝罪し、優樹菜は気持ちを切り替えようと、大きく息を吸い込んだ。


「……過ぎたことは仕方ないし、今はそれどころじゃなかった」


 ここでいつまでも不毛な言い争いを続けていられるほどの状況に、この施設はない。


「葵、気持ち落ち着かせて。ここから先は、静かにね」


 そう言ったにも関わらず、「うん!」と大きく頷く葵に、優樹菜は「しーっ!」と人差し指を立てることになった。


 葵がちょこまかと動かないよう、優樹菜はその手を引き、奥まで向かった。


 “管理人室”───その部屋には、確かに、そう札が掛かっていた。


 優樹菜は息を吸い、ゆっくりと吐くと、目を閉じた。


 そっと開けると、能力によって、ドアの向こう側が見えた。


(人が……一人……)


 椅子に座り、こちらには背を向けている。


 優樹菜は再び目を瞑り、今度は素早く開けた。


 葵に瞬間移動を使うよう、目で合図を送ると、葵はすぐに察し、その瞳を青く光らせた。


 ※


「なあ」


 不意に、里道が振り返った。


 5人の視線が一斉に同じ場所に向く。


「お前だよ」


 里道は新一を見下ろしていた。


「私、ですか?」


「そうだ。お前だ」


 トランシーバーをズボンの後ろポケットにしまい込むと、里道は「お前」と、再び、新一を呼んだ。


「何者だ?」


 端的な問いに、蒼太はびくりとした。


 一方、新一はきょとんとした様子で、


「何者、とは?何のことですか?」


 と、首を傾けた。


(誤魔化してる……)


 新一が何者か知っている蒼太にとってだけではなく、里道を含めた4人にとっても、あからさまだと感じるような惚け方だった。


「ただの人間じゃねえよな、お前」


 里道は淡々と、新一を追い詰める。


「確かに、私は能力者ですが」


 新一はこの場に似合わず、苦笑した。


「能力で言うと、日常生活で使いどころのないものなんですよ。この場でも、役に立たないようなものです」


 それは真実なのだが、里道の目は動かなかった。


「職業は?何だ?」


 その問いに、新一は「ええと」と視線を上げた。


「一応、位置付けは、公務員です」


 銀行員3人が合わせて息を呑むのを、蒼太は聞いた。


「まさか、警察じゃねえだろうな」


 里道の言葉に、新一は「はは」と短く笑った。


「だとしたら、今、こうして黙って座っていませんよ。私は警察の方のようには動けないから、こうしているんです」


「だったら」


 里道の声に、苛立ちが目立ち始めた。


「何なんだよ、お前」


「“OPU”と言って、伝わりますか?」


 新一が言った。


 あまりに自然な受け答えに、蒼太は頭が追い付くまで、数秒かかって、目を広げた。


(そ、そんな……)


 そんなあっさりと、打ち明けていいのか───。


「何だよ、それ」


 里道が、声を上げた。


 怪訝の色が瞳に浮かんでいる。


「社会に貢献するための組織を作る団体です。信用ならないのなら、証明証をお見せしますが、いかがですか?」


 里道はじっと新一の目を見つめ、


「いらねえよ」


 急に興味を失ったかのように、背けた。そして、背を向けると、トランシーバーを手に握った。


 蒼太は張り詰めた息を、時間をかけて吐き出しながら、里道は誰かに新一の職業を知らせているのだろうと察した。里道は、誰かからの指示で新一を問いただしたのだ。


(誰……何だろう……?)


 蒼太は里道の広い背中を見つめた。


(それが分かれば、この人の目的が分かる気がする……)

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