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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第4章
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July Story11

新一 VS 立てこもり犯。全く臆する様子のない新一に対し、犯人は───?

「“えんどう”さん、ですか?」


 新一に突然話しかけられた男性は「えっ」と目を丸くした。


「すみません。名札が見えたものですから」


 男性は気が付いたように「ああ」と名札を抑え、苦笑した。


「よく、何て読むのかと、聞かれるんですよ」

 

 蒼太は覗くように名札を見つめた。


 “豌藤”───確かに、言われてみなければ読めない字だと、蒼太は思った。


「そちらは───二階堂にかいどうさんと、鶴岡つるおかさん」


 新一が手で示すと、2人の女性は揃って頷いた。


「おい、勝手に喋るなって、何度言ったら分かるんだよ」


 男が新一を睨みつけた。


「では、喋っても、良いですか?」


 穏やかに、新一は切り返した。


 男は苛立ったように舌打ちをし、


「よく喋る奴だな。こんな状況でよ」


 と、不審がるように新一を見下ろした。


「あなたはただ、お喋りをしただけで、人を撃つような人ではありませんよね」


 新一の言葉に、男が目を鋭くした。


 蒼太が見つめた新一の顔には、柔らかい笑みがあった。


「ほら、見ての通り、子どもがいるんですよ」


 蒼太の肩を両手で持ち、新一は言った。


「この状況が続くと、この子が泣き出してしまうかもしれない。そうしたら、あなたが連絡を取る時に、影響しますよね。それを避けるために、この子の心の負担を減らしておきたいんです」


 新一が急に自分のことを話に出してきても、蒼太は驚かなくなっていた。が、一方で男はこれに対してどんな反応をするのだろうかという緊張が、蒼太の中で膨らんでいた。


 男はじっと新一を見つめていたかと思うと、「俺は」と低い声で口を開いた。


「“あなた”と呼ばれるのが、大嫌いなんだ」


 蒼太は、新一を見た。


 横では銀行員三人が「何してくれてんだ、この人」という目で、新一を見つめている。蒼太は今、自分も同じような顔をしているのかもしれないと思った。


 ただ、新一は表情を変えなかった。


「それは、ごめんなさい。申し訳ない───謝ります」


 目を下に向け、頭を下げる。


 蒼太は「危ない……!」と心の中で声を上げた。突発的な焦りを感じた。


 下を向いていたら、何かされそうになっても、気付くことができない───。


 しかし───男は何もしなかった。


 ただ、新一に向けて、冷たい目を向けている。


 新一はゆっくりと顔を上げた。


「私は、源新一と言います。良ければ、あなたのお名前をお伺いしても、いいですか?」


 凍り付いた空気の中で、新一と男だけが二人だけ、別の空間にいるような錯覚に、蒼太は陥りそうにな

った。


 男が新一を見つめ、新一は男を見つめている。蒼太を含めた四人は二人を交互に見つめたまま、動くことができない。


「……里道」


 ぼそりと、言う声がした。


「“りどう”さん、ですか?」


 新一が穏やかに問う。


 男は目を逸らし、背を向けた。


「ありがとうございます」


 微笑んだ新一が後ろに手を組むのを、蒼太は見た。


 ※


「ただいま!」


 オフィスに戻ってきた葵は、「あ!」と声を上げた。


「優樹菜!戻って来てたんだ」


「あんた、何か余計なこと、してないでしょうね」


 優樹菜は即座に、妹をじっと見つめた。


「してない、してない!順調すぎててびっくりするくらいだよ!」


 葵は首を振ったが、優樹菜にとっては全く信用できなかった。


「どうだった?あおちゃん」


 翼が尋ねる。


「施設長が放送で、先生たちを外に呼んだんだって」


「指示されたんでしょうか?」


 英二が言った。


「子供と大人に分けたのは意図的なものだったという、妻からのメッセージも、それで説明がつきます

が」


 優樹菜はノートを開き、葵と河井の言葉を箇条書きにまとめた。


「殺し屋は自動ドアから入って来たらしいよ。それで、みんなに携帯とか、外と連絡取れるものは、ここ

に入れろって、ビニール袋取り出したんだって。あっ、その時に、シャッターが自動で閉まったみたい」


「シャッターを閉めたのと、監視カメラを切ったのは、誰なんだろう」


 翼がパソコンの画面を見つめたまま、言った。


「事務所に、それができる、ボタンみたいの、あるのかな?」


 光の言葉に、「うーん……」と翼は言った。


「流石に、事務所には僕も行った、ないからなぁ……」


「あったとしたら、事務所にいる男がやったってことになるけど、すみれ先生は、それが分かるようなことは言ってないんだよね」


 優樹菜の言葉に、英二は「うんうん」と頷いた。


「妻は、そのようなことを見ていたら、重要なこととして、連絡すると思います」


「だとしたら、まだ、共犯者がいるのかな」


 翼は言いながら、画面をスクロールし始めた。


「───あった、管理人室」


 全体の地図で見ても、小さい部屋だということが分かる。


「この中に入れるとしたら、数人───多くて、三人くらいかな」


「でも、そんなに多く、いらなくない?」


 葵が珍しく、的確なことを発言した。


「たしかに、監視カメラを止めたり、シャッターを閉めるくらいなら、一人で事足りる」


 優樹菜は頷いた。


「何人いるのか、知りたいな……」


 翼が視線を上げ、葵を見た。


 そして、直後に優樹菜を見た。


 すると───優樹菜の携帯電話から、着信音がした。


「あっ、お母さんから」


 優樹菜はすぐに、通話ボタンを押した。


「源くんから、新しい情報」


 母は早口に、そう切り出した。


 優樹菜は右手でペンを握った。


「立てこもり犯の名字は、“りどう”」


「“りどう”、ね。わかった」


 優樹菜は答えて、電話を切った。


 顔を上げた時には、翼がデータバンクに、その名を照合し始めていた。


「珍しそうな名前ですね」


 英二の言葉に、優樹菜は「そうですね」と同意した。


「もし、殺し屋なら、すぐに見つかるかもしれない」


 数秒後、検索結果が表示された。


 “当てはまる項目0”という文字が画面に浮かんでいる。


 優樹菜はほっとすべきなのか、犯人がどんな人物なのか分からずに残念がるべきなのか、分からず、そ

っと息を吐きだした。


 データベースに当てはまらないからと言って、殺し屋ではないと決まったわけではない。まだまだ気は抜けないが、"殺し屋である"という可能性が僅かに下がったのは確かだった。


 銀行の件は、再びの新一からのメッセージを待つことにし、優樹菜は「そういえば」と翼を見た。


「翼くん、さっき、電話の音で遮っちゃったけど、何か、言おうとしてた?」


 翼は「ああ」と声を上げた。


「してました。ゆきさんと、あおちゃんに、お願いがあって───」

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