March Story30
待ち望んだ再会の後に語られる、望まない真実───。
「……なん、で……?」
勇人が声を漏らした瞬間、「しっ……!」と、輝葉が、人差し指を立てた。
「私とここで会ってるところが知られたら、大変なことになる……!」
微かな声で───確かな力強さがこもった口調で、輝葉は言った。
その忠告に、勇人は、声を抑えて、問いかけた。
「どうして、ここに……?さっきの火の玉みたいなやつって、輝葉がやったの……?」
聞きたいことがありすぎて、溢れ出す言葉が止まらない。
2人がこうして顔を合わせるのは、4ヶ月ぶりのことだった。
「きっと……勇人なら気付いてくれるじゃないかと思って……でも、待って。ここで、全部は、話しきれない。場所を移動しないと……」
早口にそう答えた輝葉は、手を伸ばして、勇人の手を掴んだ。
「あのビル群に行こう……。私の能力なら、それができる……」
輝葉は、勇人の目を真っ直ぐに見つめて、
「……私……勇人に、伝えなきゃいけないことがある……」
勇人の指先を、強く、握った。
※
勇人が、北山からいなくなってから、最初の土曜日───私は、いつものように、あのビル群の、”待ち合わせ場所”に向かった。
その時は、勇人の家族が、突然引っ越したことを知らなかったから、その日一日、勇人が現れなかった理由が分からなくて、不安になった。きっと、何か理由があるんだろうと思ったけど……体調を崩したとか、急に用事ができたとか。
でも、その次の週も……1ヶ月後経っても、それから、どれだけの日にちが過ぎても、あの場所で、勇人に会えることはなかった。
その理由を確かめる術を、私は、持っていなかったわけじゃない……能力を使えば……勇人が今、どんな状況にいるのか知りたいって願えば、私はそれを、知れるはずだった。これまでの数ヶ月、何度も、やって確かめようと思った。
……けど、できなかった。答えを知るのが、怖かった。
勇人が、それまで関わっていた人たちにお別れも言えないまま、あの町を去ることになったなんて、その時は、考えてなくて……私の頭の中に浮かんでいたのは、全く違う想像だった。
……もしかしたら、何か……思っても見ないような出来事が、私の知らないところで起こって……勇人が、この世からいなくなったんしゃないか……そんな、最悪な考えが浮かんだ。
勇人が今、どこにいるかどうか確かめて───それで、どこにも存在しないことが分かったら……私は、どうしたらいい……?……そんなの、受け入れられないと思った……。
だったら……勇人が、何かのきっかけで私に会うことをやめて、そのまま、私の存在を忘れていった方が、いい。私は、勇人に会うことができなくても、勇人が私のいない世界で、幸せでいてくれたら……それでいいって、自分に言い聞かせた。
……そんな日々が、気付けば、4ヶ月、続いてた……。
……3日前。不意に、夜中に目が覚めた私は、喉が乾いて、水を飲みに行こうと、自分の部屋から、キッチンに向かったの。
普段なら、水が飲みたいだけでも、執事さんやメイドさんたちは、私に行かせてくれないで、「部屋で待っててください」って言ってくるんだけど、夜中となると、話は別。みんなも寝てしまっているから、こっそり、気付かれないようにしたら、自分で自分のことをすることができるの。
キッチンは、私の部屋の、一つ下の階にあるから、私は、音を立てないように、階段を下った。
そうして、下の階に辿り着いたとき……パパが、話す声が、聞こえてきたの。
廊下を覗いてみたら、すぐそこの部屋……普段は、誰も使ってない、物置部屋に、電気が点いているのが見えて……パパと、パパの部下がいるのが、気配で分かった。
パパが、お屋敷に部下を呼び寄せて、仕事の話をすることは、よくあることだったで、私は、盗み聞きにならないように、すぐ、部屋を通り過ぎようとした……。……でも……、"ある言葉"に……足を、止めた……。
"あの家族のことは、どうなってる?"
私が、ドアを通り過ぎようとした瞬間、パパが言った。
"清水から、滞りなく進んでいるという報告がありました"
"清水"───勇人と……同じ名字……。……私は、足を、止めた……。
"抜け出そうとする様子は、ないんだな?"
パパが、淡々と訊く声がした。
"ええ。あの女は、賢いですからね。勝手な動きをすれば、子供に危害がいくことを十分に理解しているんでしょう"
パパの部下が、静かに答えた。
"その子供の方は、どうなんだ?"
"兄の方が、精神的なダメージを負っているような様子が目立つそうですが、特に問題はないかと。家の中で暴れ出したり、清水に対して反抗的な態度を取ることはないようです。弟の方は、変わらず、清水に懐いているようですね"
"清水は、小さい子供が好きだからな。だから、あの家を監視するように頼んだんだ。あんな仕事、引き受けてくれる奴は、早々いない"
……震えがおさまらなくなった。
"清水"という名前の男がいること。その男が、ある家族を監視していること。その家族には、男の子の兄弟がいること。清水という男は、兄弟のうち、弟の方だけを可愛がっていて、お兄ちゃんの方には、愛情を注いでいないこと。……勇人の家と、あまりにも、共通点が多すぎたから……。
勇人が、北山を離れる前……最後に会った日、勇人が私に打ち明けてくれた話を、思い出した。
勇人のお母さんが、勇人がノートに書いていた、"殺し屋"の言葉に、反応して、激昂したこと……その理由を、勇人は、私に、"お母さんに聞いてみる"って約束してくれた……。
……私は、その理由を、聞けなかった。もう、聞けることは、ないんだと思ってた……。
……でも、わかった……。全部、分かったの……。勇人のお母さんが、勇人に怒った理由……。勇人が義理のお父さんから愛情を受けられなくて苦しんでいた理由……。勇人が突然、いなくなった理由……。
……それは全部……私のパパが……御神有馬が、関係した出来事だった……。
勇人の義理のお父さんは……勇人の"お父さん"なんかじゃなかった……。
彼……清水清隆は……。
……御神有馬の、部下……。
……殺し屋だった……。
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