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圭輔が自分たちのカクテルを作ると一度席に持って行き、その後戻ってきてしばらくカウンターで章穂たちとワイワイ騒いで飲んだ。
圭輔と章穂と奏は同い年であることからもちろん仲もよく、話はかなり弾んだ。
途中でピザが焼けると圭輔は自分の席に戻って恭子たちと仲よくピザをつまむ。
「・・・なんか、あの一画だけ華やかだな。」
「あそこだけ見たらすっげえうらやましい絵じゃねえ? オトコ一人に女性三人。 三人ともけっこう可愛いし、ケイくんは文句なしでイケメンだし。」
章穂と隆臣が言うと奏が笑った。
「真実は、荒れながら酒飲んでるヤツと、酔っぱらってるうだうだやってるヤツがいるんだけどな。」
「マーちゃんとキョウちゃん!」
奏のセリフに陽一郎が実名を上げてケラケラ笑った。
「あ、このピザうまい! リョウくん、陽菜さん、これめっちゃ美味しいよ!」
笑いながらピザをつまんだ隆臣がひと口頬張って思わず声をあげる。
それを聞いて陽菜が手を腰に当ててふんぞり返った。
「横山家では定番なんだよね、お母さんが明太子とカマンベール大好きだから! 美味しい? よかった。」
亮一が陽菜をチラリと見ると、陽菜は本当にうれしそうな顔で笑っていた。
「なあ、奏、遠慮してたら食いっぱぐれるぞ。」
「わ、遠慮しろよ、隆臣! 章穂、弟の管理くらいちゃんとしろ!」
カウンターの四人も相変わらずにぎやかだった。
「じゃあね、リョウくん!」
「ごちそうさまでした!」
「また来るね!」
「わ、もう11時半だ! オレ明日早いんだよ、兄ちゃん帰ろうよ!」
隆臣の声に各々がスマホや腕時計を見ると、11時半を過ぎたところだった。
カウンターの四人がチェックをしていたら圭輔たちも帰ると言い出し、12時前にぞろぞろとみんなで店を出て行った。
タクシーに分乗して仲よく帰るらしい。
あの後さらにカクテルをお代わりした円も少し酔ったようで、陽一郎に腕を抱えられて出て行った。
恭子にいたっては途中から寝ていたらしく、聡美と圭輔が引きずるように連れて行った。
「あ、圭輔! 明後日の日曜、そっち帰るから母さんに言っておいて。」
亮一が全員を出口で見送りながらそう言うと圭輔が首だけめぐらせて振り返る。
「え、連休なのに陽菜ちゃんと・・・ああ、陽菜ちゃん、実家に帰る日か。 うん、言っておくよ! お疲れー!」
聡美と一緒に恭子を引きずりながらも、さっきからずっと聡美を気にしながら駅前に向かう弟の背中を苦笑いしながら見送り、亮一は大きなため息をつく。
・・・確かに、晴れる予定の連休だから陽菜と遊びに行きたいけど、今週は帰省の週だからな。
少し空いた店内を見渡し、閉店時間の1時までもう少しだな、と思いながらカウンターの中へ戻った。
「ふう、よし! 帰ろう、亮一。」
最後の客が12時半ごろに帰ってからキレイにシンクを拭きあげるまでちょうど一時間。
1時半に片づけを終えると、二人は店を出て徒歩10分のところにあるマンションへ向かった。
亮一の小指を陽菜がギュッと握るので、亮一がちゃんとつないでやる。
つきあって長いが、二人はまだまだ仲がいい。
「明日は雨の予報だから少ないかもね。」
陽菜が空を見上げながら呟く。
「ま、12時過ぎて客いなかったら閉めちゃうか。」
亮一も空を見上げた。
「日曜は晴れるみたいだし、お母さんたちとのんびりしておいで。」
亮一が言うと陽菜が途端に俯いた。
「うん・・・でも、晴れなら今週はリョウと遊びに行きたいな。」
オレと同じこと考えてんじゃねえよ・・・。
陽菜の呟きを聞いて、亮一が陽菜の肩を抱き寄せた。
「ダメ、一緒に住むときにあれだけオレが豪語したんだから、月に一度は帰ること。 のんびりして来いよ、送っていくから。」
「うん・・・。 お父さん、今回は亮一と会ってくれたらいいんだけどね。」
「あはは、まあ、焦っても仕方ないよ!」
陽菜が自分からも亮一の腰に腕を回してくっついてきた。
「・・・ごめんね、いつも・・・。」
「変な陽菜。 なんで謝んの。」
亮一が小さく笑うと陽菜の腕に力が入った。
「亮一もママの手料理たくさん食べさせてもらって!」
「何がママだ!」
二人はゆっくりと自宅へ戻って行った。
マンションに着いた途端、陽菜が亮一に抱きついてキスをした。
「早くシャワーしよう! やろう、今夜!」
「お前、もう少し包んだモノの言い方できないのかよ!」
ストレートな誘いに亮一が思わずつっこむと、陽菜が黙って亮一を見上げ、その視線に引きつけられるようにもう一度玄関で抱きあってキスをした。
そのまま靴を脱ぐのももどかしく、二人はまっすぐシャワーへ向かった。