-6-
「マーちゃん! 一人で飲んでたの? ここ、どうぞ。」
円と聡美がそろって席に戻るとご機嫌の恭子が自分の向かいの席を差し、自分は圭輔にもたれかかった。
「ちょ・・・重い、って恭子。」
圭輔が露骨に顔をしかめたあと、ナッツを持ったままの聡美を見て手を伸ばした。
「お、ナッツありがとな。 聡美も座れよ。」
「うん。」
聡美は素直にナッツを圭輔に渡すと、圭輔が軽く聡美の手首を引いて座らせてくれた。
そのはずみで圭輔にもたれていた恭子がバランスを崩して首がかくん、っとなる。
「痛いって、圭輔!」
「こっちこそ、重いっての。 眠たいなら先帰れよ。」
「冷たいなあ、ちゃんと連れて帰ってよね?」
二人のかけあいを見ながら、一番に円がナッツをつまんだ。
「あんたたちは悩みもなさそうでいいねえ。」
円のセリフに二人が暴れるのをやめて円を見る。
「どうしたの、マーちゃん。」
「・・・何、なんか悩みあんの。」
圭輔がストレートに聞くと、円が顔をしかめた。
「あんたの兄ちゃんにフラれてからこっち、いいことないわよ! 疫病神の孝誠め!」
「ヒドイ言われようだな、コウ兄も!」
あまりの言いがかりに思わず圭輔が吹きだすと、つられて聡美も吹きだした。
「あ、笑ったな、ケイもサトも! 腹立つ!」
そう言いながら円も一緒になって笑った。
最も、孝誠のことをこうやってネタにできるようになったのもつい最近のことだった。
孝誠が結婚した後は、やはり皆でそれなりに円には気を遣ってしゃべっていたことを思い出す。
「あんたたちトリオ、ほんと仲いいね! ヨウとカナも仲いいけど。 うちには弟が二人いたかと錯覚するくらい、ここんところ毎日ヨウの顔見てるよ。」
円のセリフにみんながちらりとカウンターの奏と陽一郎を見る。
カウンターの四人はなんだか楽しそうに盛り上がっていたが、静かな奏の隣で陽一郎が無邪気にはしゃいでおり、奏はそれをそっと見守っていた。
「陽一郎のあの無邪気な姿見てたらさ、悩んでるのがばかばかしくなったりするんだけどね。 だから毎日デカいのが来て鬱陶しいけど、ヨウもそれなりに今の私には効能あるみたいだ。 ・・・まあ、色々あんのよ、私も。」
円から直接今の恋愛の話を聞いたわけではないが、なんとなく誰からともなくその話は聞いていた。
円がそういうと「効能」という言葉にウケている聡美のダージリンクーラーを一口飲んだ。
「あ、大事に飲んでるのに、マーちゃん!」
聡美が慌てて取り返すと、勝手に飲んだくせに円が顔をしかめた。
「わ、甘い! なに、紅茶のお酒?」
「うん。 ダージリンクーラー。」
聡美が取り返したグラスにそのまま軽く口をつけると、圭輔が笑って言った。
「聡美は紅茶好きだからな。 酒まで紅茶かよ、って思ったけど、そのカクテルオレも意外と好き。」
言い終わる前に聡美からグラスを奪って圭輔がカクテルを飲み干した。
「あー、だからケイちゃんっ! カウンター忙しそうだから大事に飲んでたのに、もう!」
本音を漏らした聡美の姿に圭輔が笑いながら立ち上がり、恭子がまたバランスを崩した。
「いい子のサトのために、オレはちょっとリョウ兄んとこ行って皆の酒作ってくるかな。 サトは同じのでいいだろ? 恭子はまだあるな。 マーちゃんは?」
圭輔のセリフに円が思わず目を見張ると恭子がまるで自分のことのように胸を張る。
「圭輔、けっこうカクテル上手に作るよ。」
「へえ。 私、サイドカー頼んでるよ。」
「わかった、すぐ戻る。」
圭輔は途端にケーキの話を始めた三人を残してカウンターに入った。
「リョウ兄、端っこでこっそりオレらの酒だけ作らせて。 マーちゃんのも作るよ。 オレと聡美はお代わりな。」
「おう、助かる、ありがと。 ほら、ティフィン。」
圭輔たちの後にも3人組が来店し、ソレイユはほぼ満席だったので亮一も陽菜も対応に忙しかった。
あまり目立たないようにカウンターの端で自分にラムのお代わりを作ると、器用にサイドカーとダージリンクーラーを作る。
「へえ、サマになってる。 ケイ、カクテルとか作れんの。 それ、なに?」
円のカクテルを軽くシェイクしていると章穂が覗き込んできた。
「これはマーちゃんのサイドカー。 ブランデーベース。」
ショートのグラスに上手に注ぐと奏が唸る。
「圭輔、お前そんな隠れた特技あったのかよ。 リョウくんに仕込まれた?」
「家でリョウ兄がよくシェイカー振ってたから真似してたら覚えたね。 お前らにもなんか作ろうか?」
「後で・・・その姉ちゃんのカクテル。 キツイの?」
奏がこっそりグラスに口をつけた。
「これは気持ち薄めに作ったけど、オリジナルはそれなりに。 なんか、悪酔いしたら可哀相ってか・・・悩んでんだって、マーちゃん?」
またその話題に奏が眉根を寄せた。
「よくわからないけど、荒れてる。 いっそアルコール抜いてやってよ。」
「バレるっつーの!」
圭輔は聡美のカクテルを作るため、ティフィンのボトルを手に取った。
圭輔たちのやり取りを亮一と陽菜は黙って聞いていた。




