表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
天野亮一の場合
7/308

-5-

「リョウくん、姉ちゃんいつからいる?」

コロナをほぼ飲み干した奏が少し小声で聞くと、卵を溶きながら亮一がカウンターの下に隠してある時計を見た。

「1時間くらい前・・・9時前くらいからかな。 ・・・荒れてるな?」

亮一のセリフに奏がため息をつく。

「コウちゃんに大失恋して、もうかなり経つだろ? なんか、最近やっと前向けたように見えたんだけど・・・社内で最近知り合ったヤツとどうやらつきあってるみたいなんだけど、今度の相手はバツイチの42歳だと。 それもなんだかややこしいみたいで・・・。」

奏のセリフが途切れたら陽一郎が続けた。

「昨日カナの部屋にいたら、マーちゃんの部屋からすっごいヒステリックな電話聞こえてきたもんね。」

「な・・・。 この間なんて姉ちゃん泥酔して、その人がタクで連れて帰って来てくれて・・・そのバツイチ42歳の人の歓迎会の日に、だよ、本人が、だよ? びっくりしたっての。 ほんっと・・・周りが気遣うようなことばっかすんだ、あの人は。」

ため息交じりに奏がコロナを飲み干すと陽一郎が耳元で何かを囁いて、それから陽菜に

「カナにジンバックと、オレはアキくんと同じの。」

と注文した。


円は亮一の弟で圭輔の兄である孝誠(こうせい)に長年片思いをしていた。

その孝誠が高校時代からの恋人と結婚したのは二年ほど前のこと。

孝誠の恋人とは、孝誠が高校時代によく自宅に連れてきていたこともあって、円とも知合いになってから長い付き合いだったし、一度別れていたことはあったがそれでも復活してからはずっと仲よくつきあっていた二人だから、いずれ結婚するのかもな、とは円も思っていた。

円が抱く想いが本当に恋心なのか、少し年上のカッコいい幼なじみに対する憧れなのか、それすらも曖昧なまま円も自身の恋愛を何度か重ねてきたけれど、やはり何かと孝誠と自分の恋人を比べてはついダメ出しをしたり、幻滅したりしては自分から別れを切り出してしまって、長続きしなかった。

そんな中で本当に孝誠が結婚すると知った円は、いつかは、と覚悟はしていたもののあまりのショックで3日間も会社を休んでしまい、そのことで孝誠本人にも円の思いがばれてしまった。

当の孝誠は円の気持ちに気づいていたのかいなかったのか口にすることはなかったが、茶化すことも逃げることもせず彼らしく誠実に対応し、二人は幼なじみの壁を壊すことなく仲良しの仲間として縁が続くこととなり、孝誠はこじんまりとした式を挙げて生まれ育ったここ、森野塚を出て行った。

『マーの気持ち、すっごいうれしいよ。 ずっと大事にしてた円から好きだって言ってもらって、こんなにうれしいことって、ない。 恋人として円の気持ちに応えられなくてごめんな。 でも、今までもこれからも、マーはオレの大事な大事な人だからな。 それは変わらない。』

孝誠の結婚から数か月経った頃、亮一のバーに一人でやってきた円は、赤ワインを片手に孝誠が円にかけてくれた言葉を亮一と陽菜に教えてくれた。

そして、一筋涙を流して笑った。

「ふふっ・・・。 私ね、コウちゃんに『大事な大事な人だから』、って言ってもらえて、ほんとによかった。 ・・・『大事な妹』だから、って言われてたら、きっと立ち直れてないよ。 妹だなんて、思われていなくてよかった。」

孝誠がそこを意識したかどうかは、兄の亮一にも陽菜にもわからなかった。


「なー、陽一郎。 昨日もカナちゃんち行ってたのかよ。 相変わらず仲いいな!」

隆臣が陽一郎を見て笑うと、陽一郎も大きな口を開けて笑った。

「そう。 せっかく遊びに行ったのに、一昨日遅かったからオレいつの間にか寝ちゃってさ! 夜中に目が覚めたら、オレがカナのベッドで寝て、カナが毛布にくるまって床に転がってた! もう、11月だっていうのに、部屋の主は冷たくなって床で寝てた!」

「えー、お前何やってんの!」

隆臣が驚いた顔で陽一郎を見ると奏がメガネを外して目をこすりながらぼやく。

「お前、ゲームしながら寝落ちしたんだよ! 重たくって動かせなかったんだ、迷惑だった、っての!」

奏の容赦ないセリフに陽一郎が肩をすくめる。

「・・・で、お詫びにさっき居酒屋でご飯ご馳走したんだよ。 ここは割り勘だからね、カナ!」

・・・陽一郎が奏を『カナ』と呼び捨てにするようになったのも、いつからだったかな・・・。

亮一がふと思いを巡らせる。

昔から陽一郎は奏によく懐いていたけれど、いつからか2歳年上の奏のことを「カナちゃん」ではなく、「カナ」と呼ぶようになった。

・・・いつからか、じゃないな。

あいつらの親が離婚したあたりだったな。

亮一はそんなことを思い出しながら、本当の兄弟以上に仲の良い二人の姿を交互にみつめる。

静の奏と、動の陽一郎。

インドア派の奏と、超アウトドア派の陽一郎。

あまり共通点がないどころか、ほとんど正反対の性格の二人だが不思議ととてもうまくつきあっていた。

「バーカ、お前のおごりって日にオレが財布持ってくるわけないだろ。 おごれ、ここも!」

奏がメガネをかけ直しながらそう言う陽一郎が息を飲む。

「え、マジで!」

奏の大人げないセリフに章穂と隆臣が弾けたように笑って、陽一郎の顔が強張った。

「勝てると思うな、ヨウ! 奏の勝ち。」

章穂がグラスを傾けながら笑うと、奏を通り越すように体を乗り出して陽一郎が章穂にすがった。

「アキくん、オミのついでにオレらにもおごってよ!」

「何のついでだ、何の!」

章穂が大げさに陽一郎を引きはがそうとして、その姿に奏が珍しく声を上げて笑った。

仲良したちは賑やかに、まだじゃれあっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ