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最強の神

「美月!」

イサヤの声が聞こえる。美月は目を覚ました。隣りで寝ていたイスリークがフッと笑って起き上がった。

「…来よったか。」

イスリークは手近な着物を羽織ると、障子を開いて縁側の方へと出て行った。

それに気付いた、イサヤがすごいスピードで舞い降りて来る。

イサヤは、イスリークの後ろ、奥の寝台の上で、美月が起き上がってシーツを引き寄せて胸元を隠しながら、こちらを見ているのを見た。

「イスリーク、お前、美月を…!」

「もっと早いかと思うておったが」イスリークは言った。「案外と主はおとなしい気質のようよの。」

「うるさい!!」

イサヤは、イスリークに向けて力を放った。

その眩しさに、美月は目を瞑った。イスリークはその大きな光を、事もなげに片手で凌いだ。

「やめておけ。主では我には勝てぬ。」

美月は驚いた。力の差は、歴然としている…イスリークの力は、想像も出来ないほどに強いのだ。それでも、イサヤは気を放った。

「美月を返せ!」

イスリークはため息を付いて、その攻撃の力を難なく凌ぐと、もう片手で光りを出して、イサヤを掴んだ。

「落ち着かぬか。主と争うつもりはない。主を殺してしまうのでな。」

イサヤは暴れた。

「離しやがれ!美月…!」

「既に我がもの。今更に騒いだところで取り返すことは出来ぬわ。我は、主に機を与えたであろう…父の結界は、なぜに破れた?」

イサヤは、ふっと思い出した。そうだ、イスリークが触れた髪…こいつは、オレに力を残して行ったのか。こうなることを、知っていて…。

「あれは、お前の力がオレを助けたから破れたのか。」

イスリークは頷いた。

「そう。ギリシュに調べさせておったゆえの。主がそれを早くに抜けようとしておったなら、こうはならなんだ。だが、主の決断は遅かった。そういうことだ。主はの、甘いのだ。それが王子たるゆえんよ。我は王であった。主がここで遊んでおる間、ずっとの。」

美月はそれを聞いて、下を向いた。イサヤは、そうやって私の傍に居てくれたのだもの。でも、イスリーク様の言っていることも、わかる…。判断の遅れが、取り返しのつかない事態をも起こすことがあると。王になるなら、それを間違ってはいけないと。それが言いたいのだ。

イスリークは、イサヤを下へ降ろした。

「我が美月を妃にしたとて、主もそうであろうが。ならば同じ。これで同等ぞ。文句は言わせぬ。」

イサヤは、美月を見た。

「美月…。」

美月は、下を向いた。イサヤに、合わせる顔がない…。イスリークとこんなことになってしまって、どんな顔をしてイサヤを見ればいいのか分からなかったのだ。

「…連れて帰る。ご両親が心配する。」

イスリークは首を振った。

「ギリシュに連絡させてある。美月はこちらへ滞在するとの。我の妃に取り決められた女であるから。」

イサヤは、美月に手を伸ばした。その手は、縁側で何かの膜に弾かれた。

「我の守りから、美月を取り戻せるだけの力は、主にはない。諦めよ。」

「…なんだって、お前だけこんなに力があるんだ!」

イサヤが吐き捨てるように言うと、イスリークは暗い顔で言った。

「…母の命と引き換えに生まれ出た命であるから。」美月が、驚いたようにイスリークを見た。「我の気が強すぎて、母は我の誕生と共に死んだ。赤子の我を世話することが出来たのは、父とこの軍神筆頭ギリシュだけ。気を制御できるまで、我は誰にも触れられなかった。その代償の上にあるのだ、この力はの。」

イスリークは、踵を返した。

「…そうよの、いろいろと、準備もあろう。一度家に帰って来るが良いぞ、美月。」

美月は、とてもそんな気にはなれなかった。イサヤのことも気になるが、イスリークも…。聞けば聞くほど、なんと孤独な道を歩んで来たことか。そんなことを知ってしまったばかりの今、とてもお一人にしてここを出て行くことが出来ない…。

「イスリーク様…では、明日参ります。」

イスリークは驚いた顔をした。

「美月?」と、涙ぐんだ美月の顔を見て、フッと微笑んだ。「良い。我を気遣わずともの。これからはずっと共ぞ。主が傍に居ってくれるのなら、我は良い。案ずるな。行って参れ。」

美月は頷いて、手早く服を着た。イスリークの結界が消える。

「…こっちへ。」

イサヤが、手を差し出した。美月は、下を向いてその手を取った。イサヤ…本当にごめんなさい…。でも、私はそんなイスリーク様も、放って置けなくなってしまっている…。

イサヤはぎこちなく美月を抱き上げると、月の出た空へと舞い上がった。

それを見送ったイスリークの背に、ギリシュの緊迫した声が言った。

「王!ドミナス王が動いている由!恐らくはミリオ王を狙っておるのではと…!」

イスリークは目の色を変えた。

「イエン殿は今、あの屋敷で無防備なのではないのか。」

ギリシュは頷いた。

「何やら帰られる手配をされてはいたようですが、まだ屋敷のほうに居られたかと…もしかして、今…」

イスリークは歯ぎしりした。そうと分かっていたらなら、そんな屋敷に美月を連れては行かせなかったものを!

「参る!侍女と侍従を避難させよ。ここも来るぞ。」

「は!」

イスリークは飛び上がった。今頃はもう、着いておるはず。我が行くまで、美月を守れ、イサヤ!


イサヤは、美月と共に飛んでいた。美月は、じっと下を向いたまま顔を上げない。イサヤは、そんな美月の頬に唇を寄せた。

「気にするな。お前から行った訳でもないのに。イスリークは頭もいい。お前があいつに何を言われてあの屋敷へ行ったのか知らねぇが、オレはこんなこと、気にしねぇよ。」

美月は、イサヤを見て涙をこぼした。

「イサヤ…私、イサヤ達が神様だって聞いて。それすら知らなかったから、話してもらうために行ったの。でも、イスリーク様の生い立ちを聞いて、こんな私が忘れていたような約束が、ただ一つの心のよりどころだったと言われて、とても放って置けない気持ちになってしまったの。イサヤを愛しているわ。なのに、今はイスリーク様のことも気になって仕方がないの…。」

イサヤは、ため息を付いた。どうしたことか、遠い何かの記憶が告げる。美月がそうなることは、最初から分かっていたことだったのではないのか…。

「美月…。オレは腹なんて立ててねぇよ。なんだか分からねぇが、イスリークにも今は腹が立たねぇ。どうしたんだろうな。」

「イサヤ…。」

イサヤは、そっと美月に口付けた。美月はそれを受けて、イサヤの首に抱きついた。愛してる…こんなにも愛してるのに。何かの意思が働いているかのように、心の中が乱れておさまらない…。

ライナと三人で屋敷の敷地内へ舞い降りると、出迎えの侍従が出て来ない。いつもならすぐに出て来る…父の命で皆が自分に従わなくなったのだろうか?

「…様子がおかしい。気が、侍女や侍従達のものと違う。」

イサヤが、囁くように言った。ライナは頷いた。

「はい。見て参りましょうか。」

イサヤは、じっと気を探った。

「いや、今は離れない方がいい。オレの部屋のほうへ回ろう。気配を消せ。」

イサヤは美月を抱いて、自分の部屋のほうへ回り込んだ。そして、そこへ美月を降ろすと、言った。

「いいというまでここに居ろ。決して声を出すんじゃねぇぞ。」

美月は息を飲んで頷いた。イサヤは、ライナと共に、そっと屋敷の廊下へ出た。

屋敷の中は、驚くほどシンとしている。二人が進んで行くと、しばらく行ったところで、何かの気が一所に集まって、一斉に屋敷から飛び出して行くのを感じた。

イサヤはそちらを手近な窓から見上げた。

「あれは…ドミナスの軍神!」

イサヤは悟って駆け出した。父上は?!

階下のホールに出た時、そこには侍女や侍従達が、血を流して倒れていた。皆、息がない。

「父上!父上ー!」

イサヤは必死になって叫んだ。ライナが、奥から出て来た。

「イサヤ様!こちらへ!お早く!」

その部屋へ駆け込むと、セレスが剣を握り締めたままこと切れて、その傍に、イエンが虫の息で倒れていた。

「父上!」

イサヤは慌てて駆け寄って、父親を抱き上げた。イエンは、荒い息の中、目を開けてイサヤを見た。

「イサヤ…」イエンはニッと笑った。「主に譲位することにした途端、命を落とすとはの。あの女は刺客であったわ。本当なら、主を狙って来て居った様子。だが、飛び出した途端に、軍が攻撃してきおった…これからは主が王。我のように判断を誤らず、良い王になるのだぞ。これで、正式に妃にしたいと言うことが出来るの。主は運が良い。」と、咳き込んだ。「もう、疲れた。美奈を置いて逝くのはつらいが、あちらで会えると伝えてくれ。」イエンは、ふーっと長いため息を付いた。「長かった…。王座に1000年であったからの…。願わくば、美奈に一目会いたかったものよ…。」

父の気が抜け去って行く。イサヤは叫んだ。

「父上!父上!」

父の気は、完全に抜けて、父は旅立った。

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