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「あんた何考えてんの!」
昼休みの喧騒が遠くに聞こえる屋上でヒステリックな声がこだました。
正志は貯水槽の影から様子を伺う。
どうやら先程正志に進路表を渡した委員長が複数の女子に詰め寄られているようだ。
「影山なんかに麗を近づけさせて良いわけが無いでしょ!」
「ご、ごめんなさぃ…」
詰め寄られている委員長は今にも溢れ出しそうな涙を目に溜めて謝罪の言葉を口にする。
「麗に何かあったらあんたどうするつもりだったのよ!!」
詰め寄っている女生徒の怒気はいまだ治まらないようで言葉がどんどん強くなる。
同時に複数の女生徒からも非難の声が上がる。
そしてとうとう委員長の瞳からは涙が溢れ出してきた。
「ごめんな……さい」
泣き出したのが癪に障ったのか周りの女生徒達の怒りは頂点に達し、一人の女生徒がおもむろに泣いている委員長の髪を引っ掴む。
「なにピーピー泣いてんのよ!あたしら別に泣かせるようなこと言ってないでしょ!」
「ひぃ…ぅぐ…うぅ」
ただ嗚咽するだけの委員長にもうガマンならないといった相手の女生徒は髪をつかんだ手をさらに強くした。
「だいたいあんた前から気に入らなかったのよ!いつもおどおどしちゃってぶりっ子のつもり?それで男子の気を引こうとでもしてんの?!」
「ぃたい…やめてぇ…」
委員長は弱弱しく抵抗するも手を振りほどくことはできない。
「あんた委員長だからって調子に乗ってんでしょ!言っとくけどあんたが委員長やってんのはそのだっさい格好してんのと先生が麗にやらせようとしてたのをあたしらがとめたからなんだから!勘違いしないで!」
「ぅう…ぇぐ」
涙が止まらなない委員長に業を煮やしたのかとうとう女生徒が手を上げようとしたその時正志はタバコに火を点けつつ女生徒たちを見下ろしながら姿を現して見せた。
「か、影山…」
突然の正志の登場に委員長を取り囲んでいた女生徒達は狼狽している。
「お前らだっせぇよ」
紫煙をくゆらせながらぼそりと言い放ったその一言は女子生徒たちを縮み上がらせるにには十分だったようで、女子生徒たちは早々に屋上から去っていった。
――ゆっくり二本分吸い終わっても委員長は泣き止む気配を見せない。
屋上の出入り口にしゃがみこんで泣き続ける委員長を正志はじっと上から眺めているだけだった。
無視して出て行こうにも扉を塞がれているのを無理やり引き剥がすわけにもいかず、ただ泣き止んで出て行くのを待つしかないのである。
しかしながら委員長は泣き止む様子が一向に無い。
「どうしたもんかね」
一言つぶやいてため息をつくと委員長がふと正志を見上げていた。
「あ゛?」
目が合うとついいつもの調子で対応してしまう正志に委員長は「こわぃ…」とリアクションを返した後にまた泣き出してしまう。
ますますバツが悪くなってしまった正志は仕方なく声をかけてみる。
「いつまで泣いてんの?」
委員長はビクリと肩を震わせると恐る恐る正志を見上げた。
「ごめんなさぃ…」
「何で謝んの?」
委員長からの返事は無い。ただ目に涙を溜め、鼻をすするのみである。正志は徐々に苛立ってくる自分を抑えながら慎重に言葉を選ぶ。
「お前名前なんていったっけ?」
「え?」
「だから名前」
「何でそんなこと聞くんですかぁ…」
もっともである。
「いいから言えよ」
「あの…ひぐっ…えと…仲野…です」
「じゃあ中野、とりあえずそこどいてくんねぇか」
「え?」
「入れねぇ」
「へ?…あっ…すいませんっ」
委員長が扉から離れるのを確認した正志は小さくため息をつくと軽い身のこなしで扉の前に降り立つ。
そのまま校舎に入ろうとすると「あのっ」と委員長から呼び止められる。
正志は無言で視線のみをむけると目を真っ赤に腫らせた委員長が意外にもしっかりとした顔つきで見つめていた。
「気にしないでください」
委員長の一言に正志は疑問符を浮かべる。
「さっきの人たちの言ってたことは影山君のせいじゃありませんから」
ますます正志はわからなくなる。
「皆勝手に怖がってるだけですから」
「何言ってんのお前」
思わす口を挟む。
「だ…だってさっき山田さんたちがいっぱい影山君のこと悪く言ってましたから」
「山田って誰だよ」
「へ?知らないんですか同じクラスですよ」
「同じクラスのやつらに泣かされてたのか」
「え?…そ、そうですね…ゥグ…さっき…エグ…わたし…」
―まずった―
またもや泣き出してしまいそうな委員長に正志は自らの言動を悔やむ。
「まっ、まぁ俺は気にしてねぇし、悪かったな仲野、迷惑かけたみたいで」
「…こちらこそごめんなさい」
なぜ委員長も謝るのか正志は理解できなかったがこの場から脱するのを第一にし、足早に屋上を後にした。
――屋上を後にした正志は昼休みで騒がしい廊下を歩く。
先程の出来事は正志にとって普段ならば鼻にもかけない出来事である。若干のイレギュラーは除いて。
それよりも正志が気になっていたのは女子生徒達の口から高杉麗の名がでたことであった。
自らの過去を振り切ったつもりだった正志は自己嫌悪する。
いまだ麗の名を聞くだけでひどく動揺する自分に思いつくだけの罵倒を浴びせながら正志は自分のクラス教室へと足を向ける。
今日はこのままふけてしまおうとも考えたが、そろそろ出席が危うい頃合であるのを思い出しやむなく放課まで自分の席で仮眠を取ることにしたのだ。
教室前に到着し、引き戸に手をかけようとしたその時ガラリと引き戸が引かれる。どうやら向こう側から誰かが出てくるようだ。
出てきた人物を見て正志は動きを止める。それは相手も同じようだった。
高杉麗その人である。お互いこれほど近い距離に近づいたのはいつ以来だろうか、互いの視線が交わったのは何年ぶりだろう。




