王座へ至るもう一つの道
読んでいただきありがとうございます。
第20話は、
刃殻種・レクスの準決勝、
そして決勝直前の
ヴォルグとの“完全な交差”を描いた回です。
捕食で進んできた者と、
削ぎ落とすことで完成された者。
まったく異なる道を歩みながら、
二体は同じ王座へ辿り着きました。
次はいよいよ、逃げ場のない場所です。
それでは、第20話をお楽しみください。
戦場は、静寂に満ちていた。
音がないわけではない。
風は吹き、魔力は渦巻き、地面は軋んでいる。
それでも――
無駄なものが、一切ない。
刃殻種・レクスは、その中心に立っていた。
対面するのは、虚無穿ち《ネスロア》。
空間を抉り、存在そのものを削る異形。
一歩でも踏み外せば、
身体の一部が“消える”。
だが。
(問題ない)
レクスは、そう判断した。
恐怖はない。
迷いもない。
あるのは、
どこを切るかという選択だけ。
鐘が鳴る。
ネスロアの周囲で、空間が歪む。
見えない刃が、無数に走る。
レクスは、動かない。
避けない。
防がない。
――最短距離を、進む。
次の瞬間。
骨刃が、閃いた。
空間の“綻び”だけを切り裂く。
干渉点。
そこにしか、刃は届かない。
《……ッ》
ネスロアの動きが、止まる。
さらに一歩。
二閃。
存在を支えていた核が、断たれた。
《勝者:レクス》
歓声が上がる。
だが、レクスは振り返らない。
息は乱れていない。
刃も、ブレていない。
(……だが)
わずかに、胸の奥が軋んだ。
あの一閃。
完璧だったはずなのに、確信が一拍遅れた。
(また、だ)
刃に走る、見えないヒビ。
(……捕食者)
脳裏に浮かぶのは、
準決勝を終えた、あの姿。
壊れかけの身体。
それでも、立っていた捕食者。
(理解できない)
(だが――否定もできない)
転送が始まる。
戻った先は、決勝待機区画。
そこに――
もう一体、いた。
「……来たか」
ヴォルグ。
輪郭は揺れ、
核は、今にも砕けそうだ。
それでも、
目は、はっきりとこちらを捉えている。
「そっちも、勝ったみたいだな」
声は低いが、
途切れてはいない。
「当然だ」
レクスは答える。
二体の距離は、
もう逃げ場がないほど近い。
「……不思議だな」
ヴォルグが、静かに言う。
「俺は壊れかけてる。
お前は、ほとんど無傷だ」
「なのに――」
視線が、ぶつかる。
「同じ場所に、立ってる」
レクスは、答えなかった。
否定できないからだ。
(削らない道)
(喰わない強さ)
それでも、
ここまで来た。
「ヴォルグ」
初めて、名を呼ぶ。
「決勝では、
理由も、道も、意味も――」
骨刃を、わずかに鳴らす。
「全部、要らない」
「……ああ」
ヴォルグは、わずかに笑った。
「俺も、そう思ってた」
言葉は、それ以上いらなかった。
上空で、
決勝開始を告げる魔法陣が、静かに展開される。
《決勝戦を開始する》
《王座を賭けた、最後の一戦》
捕食者と殲滅者。
壊れる者と、壊れない者。
二つの道は、
ここで初めて――
同じ王座に、辿り着いた。
次は、逃げ場のない場所。
勝者は、一体。
王は、一体。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
レクスは準決勝を
ほぼ完璧な形で突破しました。
しかし、それでも
「揺らぎ」は確かに残っています。
一方のヴォルグは、
誰が見ても壊れかけの状態です。
それでも、決勝の舞台に立っている。
捕食者と殲滅者。
壊れる道と、壊れない道。
どちらが王に相応しいのか――
その答えは、もうすぐ出ます。
次回は
決勝戦、
王座を賭けた最後の戦いです。
ここまで読んでくださった方、
本当にありがとうございます。
最後まで、
二体の戦いを見届けていただけたら嬉しいです。
それでは、次話でまたお会いしましょう。




