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避難所で一悶着

 カレインとベルに再会したヴィーアは一時的に避難所に入る。元々盗っ人対策で商館は壁が高く、魔物相手には役に立たないが壁の上には鉄を尖らせた槍状の返しも付いている。

窓にも補強材が入っており、さらに避難した市民達が家具を積み上げてバリケードを構築して魔物の侵入を少しでも遅らせようとしているようだ。


「こんなもん意味ねーだろうな」

「皆何かしてないと不安なんだろう、使ったことも無いが武器を貸してくれと言うものもいた」

「その気持ち分かります、私も戦えないけど何か手伝えることあれば気持ちも紛れますし…」

「ん、武器と言えば…ほれ」


 ヴィーアは、カレインの武器をずっと使ってた事を思い出し、差し出すとカレインは久し振りに戻った自分の愛刀の片割れを眺める。


「これは、無くしたと思っていた私の剣だな…」

「あの館で化物退治で借りてそのままだったんだ、そんな恐い顔するな盗もうとしたんじゃないぞ」

「いやそこは疑っていないが、ただ私が倒せなかった相手をヴィーア殿は倒してしまったんだなと…あの時救護所で感じた不甲斐なさを思い出していた所だ。だが返してくれていいのか、ここには貸せる武器は無いぞ?」

「んー?誰かその辺で死んでてるだろうからそいつから奪えばなんとかなるだろ」

「あの…でしたらヴィーア様、この剣使いますか?お店から持ってきた未鑑定の剣ですけど私には使えませんのでよろしければどうぞ」

「おぉ、剣なんて何でも良いからな、じゃあもらう」

「はいどうぞ!ヴィーア様のお役に立てて嬉しいです」

「そーか、ベルちゃんは良い子だ。誰がこんな真似してるか知らんがこれで俺がさくっと敵を倒してやるぞ!」


 陰鬱な雰囲気が流れる避難所にヴィーアの高笑いが響き、俯いていた避難民達が顔をあげた。


「だったら、こんな所で呑気に笑ってねぇで早くあいつらを倒してきてくれよ!俺は妻を喪ったんだぞ…」

「そうよ!私だって子供が目の前で…私の坊や…」


 ヴィーアに向かって避難民達が一斉に恨み言を言い始める。中には理不尽な八つ当たりだと頭で分かっている者もいるだろう、だがそれでも沸き上がる心の憎悪は消えない、吐き出すことで、誰かのせいにすることで楽になりそうだから好き勝手に叫び始める。


「落ち着け!貴方達が大変な思いをしたことは分かっているがヴィーア殿に言っても仕方ないだろう!?」

「そ、そうです!誰かを喪ったのはヴィーア様のせいではあちません!」

「うるさいうるさい!お前も誰かを喪えばいいんだ、死ねっ!」

「ひっ」

「お前が死ねクソが!」


 頭に血が登った獣人の避難民がベルに飛び掛かり、首を噛みちぎろうとしたが横にいたヴィーアが剣を突き出し喉を貫くと、獣人はぐったりとし、絶命した。


「ひ、人殺し!」

「誰か捕まえて!」

「黙れ!いいかバカども!俺は自分の女を守りに来た、だから今も守った!他に何かしようとする奴がいるならそいつもぶっ殺す!自分で守れもしないくせにごちゃごちゃ言うな、大人しく座ってやがれ!!」


 ヴィーアが一喝すると騒いでいた避難民達が口を閉ざし、意気消沈する。


「ヴィーア殿…今のはまずいぞ、貴方をここに置いておけなくなった」

「避難しにきた訳じゃないんだ勘違いするな、ベルちゃんを見つけた今ここに用は無い。行くぞベルちゃん」

「あ、あの…はいっ!」

「あ、ヴィーア殿…」


 堂々と歩くヴィーアにおずおず付いてくるベルと何を言おうか迷っているカレイン、そんなヴィーアを呼び止める者がいた。


「待て、俺が保護した避難民に殺しをやっておいて黙って帰らせる訳にはいかねぇ」

「アデル大将、これは私の責任だ。罰なら私に…」

「おめぇは黙ってろ、それこそこれは上のもんの責任なんだ。ここで何もしなきゃもう誰にも俺達…いや、俺は信用されねぇ」

「なんだてめぇ等は、邪魔だどけ」


 出入口から部下を二人引き連れたアデルギルドのマスター、アデルが現れる。


「そうはいかねぇな、アタイ達が必死に人を保護しに魔物を倒しているのに、それを殺されたとあっちゃ面白くねぇ」

「カカッ、違ぇねぇ姉貴の言う通りだ。一人死んだなら一人殺さなきゃなぁ?」

「お、良い女発見」


 しかしヴィーアの視線はアデルより連れてきた双子の褐色耳長族に注がれる。

二人して同じ格好で完全に左右対象、向かい合わせに立てばまるで鏡に映った同一人物だろう。唯一の違いと言えば顔の傷の位置、一人は右頬。もう一人は額から左目の下に斜めに入っているくらいか。

黒と銀が頭の中央で別れた珍しい髪色のシャギーカット、彼女達に一体何があったのか荒んだ戦闘狂染みた表情だが耳長族は総じて美形なので荒々しさの中にも気品が漂うなんとも不思議な感覚を覚える。

ダメージを負った服装と防具がかろうじて局部を隠しているが、健康的で引き締まった身体が見えそうで見えなく逆に扇情的ですらある。


「おお、確かにアタイ達は美人だ。酒場にいきゃ言い寄ってくる男も面白ぇくらい沢山いる」

「だがよ、寝ても満足させてくれる男がいねぇんだ。そうすると相手にムカついてボコボコにしちまう」

「だからあんたも口の聞き方には気を付けな、でなきゃ女の前で恥かくぜ?」


 どこまでも挑発的な態度を崩さない双子だが、ヴィーアにはどこ吹く風で黙って身体を舐め回すように見つめ、衣服の下をを想像している。


「そうか、じゃあ俺とヤろう」

「ヤらねぇよ!なんだこいつ…面白いくらい話を聞いてねぇ!」

「カカッ!ぶっ殺し甲斐があるじゃねぇか!」

「俺様が二人纏めて粗チンじゃなくて本物を教えてやる、だから安心して喘ぐと良いぞ!」

「なら私達二人に勝ったら好きにしなっ!いいよなアデル?」

「カカッ!まぁダメっつってもぜってぇ殺してやる。ケジメも必要だし良いよなアデル?」

「…分かった、こいつらに勝ったらアンタも好きにして良い。だが負けるって事はアンタの命が消えるって事だ。ここじゃなんだ、表に出ろ」

「言ったな?よーしすぐ倒してやる!おほほ~どっちから挿入しようかなっと!」

「…何やら大変な事になってしまった」

「大丈夫ですカレイン様、ヴィーア様にはきっと秘密の魔道兵器があるのです、ほら、ズボンが膨らんでいます!」

「あぁ、うん…そうだな…」

 

 ヴィーアはこれから起こる事に、期待でズボンをパンパンにするのだった。


 





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