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西園寺家の余白詩二十三 『屋敷には自我はなかった』
屋敷には自我はなかった
自分が、そういうものであると
「思った」のはいつだろう
最初にあったのは、音だった
とん、とん、とん
それが何なのかは知らなかった
音であることも知らなかった
ただ、床板がわずかに沈み
柱へ伝わり、梁へ抜けていく
それを感じていた
とん、とん、とん
毎日、同じ音がする。
やがて、別の音もわかるようになった
こちらは少し重い
どす、どす、どす
時々、二つの音が重なる
そういう時には、べつの音もした。
「旦那様」
「なんだ、千草」
それが声であることも分からなかった
ただ、
「旦那様」
という音がすると、少し重い足音が止まる
「千草」
という音がすると、軽い足音が近づいてくる
だから、覚えた
軽い方が、千草
重い方が、旦那様
それが屋敷が最初に覚えた二つだった
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※毎日深夜に、おやすみ前の1編として更新します。
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