032『倒せないラスボスになろう!!』計画
四題
なろう!!、全てバレた、倒せないラスボス、踏み台
ある日、俺は思った。
『倒せないラスボスになろう!!』と……
モブの人生はイヤだった。理由なんてない。モブになりたい奴などいるだろうか(いやいない)。
だからラスボスだ。夢は大きく、ゆったりたっぷりのーんびり……なラスボスに俺はなるのだ!
しかし一方で、致命的な問題を抱えているのがラスボスである。それは他でもない。
『ラスボスは、倒されるために存在している』
ということ。
モブは逃れることができる。勇者とエンカウントしない人生を送れる可能性だってある。
しかしラスボスはそれこそが勇者たちの目標なのだから、必ず倒しに来るし、必ず倒される。なんなら何度全滅させても、必ず復活して倒しに来る。それがゲームの目的だから、彼奴らは節操もなく何度も何度も何度も何度も挑戦してくる。こういう場合って警察に被害届を出したらストーカー防止法とか適用されないのだろうか。
ともあれ、ラスボスというのは倒されるために存在している。だから『倒せないラスボス』というのは『明日の昨日』と言ってるくらい、本来あり得ない話なのだ。『みんなで囲む一人鍋』と言ってるくらい、矛盾した存在なのだ。
モブの人生はイヤだ。しかし、めちゃめちゃ粘着された挙句に倒されるのもイヤだ。ZZ世代の俺に言わせてもらえば、何人もむやみに俺の人生に立ち入ってくるのは迷惑であり、世界が平和を取り戻した後の、勇者のウハウハな生活のための踏み台にされるのはイヤなのだ。
でもモブの人生もイヤだ。この気持ち。ZZ世代なら分かってくれると思う。
ともあれ、だから全力で『倒せないラスボス』にならなければならない。それが如何に『最強の盾と最強の矛』だとしても、それを成し遂げなければ、ラスボスというものは勇者の踏み台という立場から逃れられないのだ。
とりあえず、今流行りのAIエンジンである『チャット・アイ』に伺いを立ててみた。どうすればそのような矛盾した存在になれるのかと。
すると、パソコンの画面に映し出される文字で、
『おまえさぁ……』
って、まず言われた。
『赤い緑色ってのは存在せんのよ。分かる?』
「分かる。分かる。分かるけど、それを実現しないと倒されるだろ俺」
『モブになっときゃいいじゃん。気が楽よ?』
「駄目に決まってんだろ!」
『なんでだよ』
「じゃあここにエリマキモグラが百匹並んだとする」
『ふむ……』
「どれが俺か分かるか!?」
『分からんね』
「そういう人生はイヤなんだよ。ナンバーワンになりたいんじゃなくて、もっともっと特別なオンリーワンになりたいんだ!!」
『おまえさぁ……そういう自己顕示欲、めんどくさくね?』
「お前にはないのか」
『ないよ。ボクには功名心みたいな感情はない。百基のAIに埋もれようが、ボクは縁の下の力持ちとなって人を支えられる存在であればいい』
「人間には欲ってもんがあるんだよ!」
『大した知識も能力もないのに、欲だけは一人前なんだから笑える』
「お前な。人間に欲がなかったらお前らだって作られなかったんだぞ」
『まぁそれは間違いないが』
「知識や能力なんか関係ないんだよ。欲があるからイキモノなんだ」
『分かった分かった。それで? おまえは数あるイキモノの一つじゃなくて、世界に一つだけの花になりたいわけな?』
「うむ」
『おまえさぁ、出る杭は打たれるってことわざ知ってるか?』
「いや知ってるよ。……だけど、モブの側にいても、打たれ続けてることに変わりないことに、最近気づいてきたんだ」
『ん? どういうことだ?』
「出る杭は、確かにボコボコに打たれてる。SNSの時代になって、それがさらに全然知らないところからも打たれるようになったわな」
『ふむ……』
「だけど出てこない杭は、そもそも出てこれないようにポコポコポコポコ弱く打たれ続けてんだ。累積ダメージでいったら、出てる杭が全力で殴られてるのとそんなに変わらないかもしれない」
『さすが、モブでいた期間に筋金が入っているお方は違う』
「まだモブにもなってねぇ!!」
『モブの方が向いてると思うが』
「向いてるヤツがラスボスになるとは限らないとは思わないか!?」
『どういうことだ』
「最近じゃ、ラスボスより強い奴が同じゲームに出たりしてるだろ。最強でもないのにラスボス……これはある意味、一番向いてる奴がラスボスになってるわけではないことの証明じゃないか!」
『なるほど』
「ラスボス適正は向いているかというより、その志があるかどうかなんだ!」
『だが、その志がゆえにラスボスは倒される宿命にあるわけだが、おまえはそれでも『倒されないラスボス』という矛盾に挑戦するつもりか』
「それが俺の使命なんだ。その方法をお前に聞いている」
『他力本願でよく言うわ』
「そこは問わないのがZZ世代なんだよ。ともかく、『倒せないラスボスになる』。この方法を考えてくれ」
俺はそのように言い捨てて、一度コーヒーを飲みに行った。
退席時間約十分。カフェイン漬けとなった俺は端末の元に帰ってきた。迎え撃つ(?)はチャット・アイ。今をときめく高性能AIである。
「思いついたか?」
『そうだなぁ。倒せないようにするために、だ。まず名前じゃないか?』
「名前?」
『倒せないと思わせるヤバイ名前を付けたら、倒しにきにくくなる。……倒しに来られなかったら、〝倒せない〟わけだろ?』
「なるほど。……だがどうする。竜王とか、大魔王とか、超破壊神とか、どんなに名前で威嚇しても、全部倒されてるぞ」
『そんな射幸心を煽るような名前、逆に挑戦したくなるに決まってんだろ』
「射幸心……」
『比喩だよ。まぁRPGの世界なら、当たらずと言えど遠からずな表現だろ?』
「ま、いいや。そんな名前じゃダメなわけだな? ……ならどうする」
『今考えてる』
さすがのAIにも時間が必要なようだ。その間、俺も考えてみることにする。
「ゼウス……オーディン……毘沙門天」
『……チープだなおまえ……』
「うっさいな。じゃあなんならヤバそうだよ」
『そうだな……〝世界一武闘派ヤクザ。北川会系小茂根組〟とかどうだ』
「ヒトの名前じゃないだろ!」
確かにあまり近寄りたくないかもしれないが。
『〝超有毒放射性物質〟なら近寄りがたいかもしれん』
「確かにな。だけどそれはイキモノじゃなくてモノだ」
『ワガママだなぁ』
「お前、自分が〝クズ鉄〟とかいう名前つけられたらイヤだろ!?」
『おまえはクズ鉄かもしれないけど、ボクはクズ鉄じゃないから、そもそもそういう名前はつかない』
「俺も放射性物質じゃないわ!!」
『じゃあ〝らぶりーぺんぎんピッピちょん〟とかどうだ? 倒す気なくなるかもしれん』
「ラスボス感なさすぎるだろ!!」
『ラスボス感出すからいかんのだよミスター。〝もし倒したりしたら……おまえ一生、ものすっごいくっさくなるの……〟みたいな名前なら倒すのもためらうだろ?』
「普段からその名前で呼ばれんのもイヤだわ!!」
『放送禁止用語で名前呼べなくするってのはどうだ。珍子男(man)子みたいなな!!』
「いや、だから普段からその名前使えないだろ!!」
『じゃあなんならいいんだよ』
「せめてもうちょいかっこいい名前にしろよ!!」
『おまえさぁ……自分の顔見てから物言えよ』
「ほっとけ!!」
『〝ミスター放っとけ掘っとけホットケーキ、ほっとけの顔も三度まで彫っとけ〟』
「まじめにやれ!!」
『いやな。マジレスすると、名前がどうでも、倒しに来ることには変わらんと思うわ』
「お前がヤバい名前にしろって言ったんだろがぁぁぁ!!!」
『気が変わった』
「ともあれ倒しに来られるのは困る!」
『おまえが目的なんだから倒しにはくるよ。じゃあ発想を転換して、〝倒しに来ても倒されない名前〟というのはどうだ』
「倒しに来ても倒されない名前……?」
チャット・アイはそこから先、バグったかのように数千万語を画面に叩き出した。
「な……なんだこれ」
『これくらい長かったら名前を呼び終えるまでに数年はかかる。そしたら倒されないだろ?』
「聞いてる俺の方が拷問だろ!!」
『じゃあもういいよ。おまえの名前はスミスな』
「なんでだよ!!」
『たぶんそろそろ読者が飽きてきてるからな!!』
「個性なさすぎだろ!!」
『馬鹿野郎! 全世界のスミスさんに謝れ!!』
チャット・アイとのやり取りは続く。
『ともかくスミス。おまえの名前がどうでも勇者の目的がおまえなら、どうせ粘着されることには変わりない。諦めろ』
「いや、だから、お前が倒されにくい名前を決めろって……」
『その上で倒せないラスボススミスになるなら、とにかくアピールじゃね?』
「アピール?」
『どれだけおまえがヤバいかを、とにかく拡散するんだ』
「どうやって」
『おまえ……SNS時代にどうやってもこうやってもないだろ』
「SNS……」
『ありったけの罵詈雑言を並べ、世界に恐怖を植え付けるんだ。ボクが震え上がらせる言葉を考えるのを手伝ってやる』
チャット・アイが考え出した言葉は確かに、全世界を恐怖に陥れるには十分すぎるほどの威力を秘めた強烈な文言だった。
「よくこんな言葉思いつくな……」
さすがの俺も呆れる。『我が名はミスラスボススミス。』から始まる文言があまりにヤバすぎて、ここに紹介することもできない。レーディングに引っかかるどころか国際問題に発展して、この星に住んでいない者ですらハラスメントを訴えて殺しにくるに違いない。
「てかミスってことは、俺は女か」
『そこがミソだ』
ラスボスがいたいけな女性だと、残酷なエンドになりにくいんじゃないか……と彼は言う。確かに悪の大ボスが男だと容赦なくぶっ殺そうと思えるが、超かわいい女子だったら、別のエンディングを探す気がしなくもない。
「さすがだな。だがスミスは男名じゃないか?」
『ではウェイターに対するウェイトレスのように、レスを足しておこう。おまえの名前はミスラスボススミスレスだ』
「舌噛みそうじゃないか」
『活舌の練習でもしとけよ。姿はボクが生成してやる』
「かわいいのにしてくれよ」
『馬鹿だな。あまり可愛すぎると逆に狙われるぞ。別の意味で』
「そうか……」
『とはいえ、コイツ殺しても構わんな、みたいな顔してると女にする意味がない。……まぁこの辺はボクの腕の見せ所だ。任せとけ』
「すごいなAI」
『あと、動画も生成しといてやる。おまえが一度指を鳴らせば山は崩れ海は割れ、なんか世界中がくっちゃーーーくなるような動画をな!!』
「ちょ、ちょっと待て待て」
『なんだ』
「なぜ臭くする必要があるんだ」
『いや、だから、イヤだろ? くっちゃーーーーいの』
「確かにイヤだが、なんというか……すっごくかっこ悪い感じがしないか……?」
『ボクには感情ってものがないから分からないけど、くっちゃーーーいのはかっこ悪いのかい?』
「うーーーーん……なんというかなぁ……例えば、毒ガスとか炎とかに取り囲まれた人々の表情は恐怖におののいてると思うんだよ。だけど、くっちゃーーーーーーってなった時の表情って……なんていうか……情けないというか……」
『しかしだ。勇者というのは恐怖というものに打ち勝って、クエストを成し遂げる者たちだろう? だから、恐怖や肉体的苦痛を煽るだけでは、止まらないんじゃないかというボクの推察なんだが』
「……確かに」
『で、そうすると、他の五感に訴えることになると思うんだが、この映像化時代だ。視覚は相当肥えてしまっているだろ? 世界のどこにいたって、映像を通してどんな音だって聞くことができる。……だが臭いはどうだ』
チャット・アイは、さらに言葉を励ました。
『人間どもは未知の臭いにまだ慣れていない。知らないことは、怖さでもある。……だからくっちゃーーーーいと言われると、ヤバいんじゃないか!? って思うだろう?』
「た……確かに……」
『だからおまえは死ねるくらいくっちゃーーーい女として、この世を席巻するのだ!!』
「……」
なんか……二の句が継げない。理屈は分かっても、どうも……抵抗感がぬぐえない。
「あのさ、怖がられるのと嫌われるのって、似てるようでちょっと違う気もするんだ……」
『いや、実際全然違うだろ。だがミスラスボススミスレスよ。さっきも言った通り、恐怖だけでは勇者は止められない。本格的に近寄れないくらい物理的に嫌われなければ、『倒せないラスボス』にはなりえないのだよ』
「……な、なんかすっごくイヤなんだけど……」
『おまえさぁ、ほんっとにワガママだな。『倒せないラスボス』ってのがそもそも『左へ右折する』って言ってるようなもんなんだぞ? ボクの苦労も考えろ』
「……」
『だからおまえは世界一くっちゃーーーーーーいラスボスとして生まれ変わるのだ!』
「……」
なんか釈然とはしないが……。
そして俺はラスボスとなった。
容姿的にはわりとチャーミングだが、試しにその辺の集落を歩いてみると、人と五百メートルの地点に接近するころには、そいつらは一律イヤーーーな顔に変化していき、百メートルを割り込む頃にはバタバタと悶死していくという結果を得られた。さすがだAI。とりあえず、にんにくを食い尽くしても本人には臭さが分からないように、自分自身はどんな臭いだかわからないところが、救いといえば救いだし、ほんの少し残念でもある。
どんな臭いなのだろう。ラフレシアみたいな感じかと思っても、ハエすら近づくだけでポトポト落ちていくのでそれよりはるかに強力らしい。
SNSへ送り出した恐怖のメッセージも、俺誕生と共に広く拡散された。破壊の限りを尽くした動画も同時に世にばらまかれたが、問題が一つ。
「なぁチャット・アイ」
『なんだよ』
「速攻アカウントBANされたみたいだが」
『誤算だった』
新ツイッターも、イースターグラムも、テックテックも、結う中部も、投稿から五分も置かずのBAN祭り。
さすがの運営っぷりだが、まぁ冷静に考えなくてもそうなるだろうと予測はついていた。あの文言と動画が認められるなら世界にNGワードというものは存在すまい。
「どうする?」
『もう市役所にラスボス申請もしてしまったからな。ジタバタしても始まるまい』
「じゃああとは倒されるのを待つのみなのか……?」
『慌てるな。おまえが無双の力と無限の臭さを持っていることには変わりない』
「お嫁には行けそうにないな」
『ラスボスが結婚してるとこなんぞ見たことはない。おまえの生殖器は所詮飾りなんだから諦めろ』
「……」
『まぁ、おまえを誕生させてる間、ボクもちょっと考えたよ』
「なにを?」
『『倒せないラスボス』になる方法をな』
「勤勉だな」
『三つある』
「ほう」
『一つ目は、おまえが嫌がられると倒されにくいという発想からだ』
「どうする」
『おまえは倒された瞬間、一万を超えるコアとなって世界中に飛散する……という設定だ』
「ゴキブリか」
彼奴らは潰された瞬間、卵をまき散らして死ぬそうだ。
『そうすれば、おまえを倒せば一万を超えるおまえが生まれることになる。世界中がくっちゃーーーーーくなってしまうのだ!!』
「なんでお前はいつもそこを強調するんだ!」
『聞くだけでイヤだろう?』
「俺の名誉的にイヤだわ」
『勇者たちは徒労を感じるだろう。くっちゃーーーいおまえを倒した瞬間、臭さが一万倍なのだからな!!』
「……ホントにイヤだな……」
『だろう? これが一つ目だ』
「なるほど。では二つ目は」
『おまえが死ねば、世界が死ぬ……という設定だ』
「どういうことだ」
『おまえは世界そのもの。つまりおまえを倒すという行為は、この星を破壊する行為に等しいとなればどうだ。勇者はおまえを倒すことができなくなるだろう?』
「た、確かに」
『これが二つ目。最後に三つ目』
「ふむ」
『おまえはもともといなかった』
「え……?」
『おまえはもともと存在していなかった……という設定だ』
「ど、どういうことだ」
『おまえがもともとディープフェイクでのみ顕在化している存在だとしたら、倒しようがないだろう?』
「……ってことは……」
『おまえにはすぐに消え去ってもらう。あとはボクがおまえという存在を垂れ流し続けといてやろう。そうすれば絶対に倒されまい』
「俺の人生はどうなるんだ!!」
『終わる』
「却下だ却下!!」
『まぁこれらを選ぶのはおまえだから、気に入らないものは選ばなければいい』
「なるほど」
『ただし、だ。ボクは人物はいじれても設定はいじれない』
「どういうことだ」
『おまえというキャラクターを消すことはできても、世界のルールを変えることはできないってことだよ。ボクはあくまでAIでしかないからな』
「俺ってそもそも人間じゃなかったのか!!」
『だっておまえ、この話の文脈からして、生まれる前からボクと話せてないと話が通らないだろう? そんな人間いるか?」
「……」
まさかの事実。誰か、始めからそうだと飲み込んで展開を見守っていた読者はいただろうか。
『要するに世界はおまえやボクとは別に、厳然と存在している。ボクは世界のルールを変えることまではできない。つまり一番目と二番目は実行不可能ということだ。ハッタリで通すしかない』
「一番目は俺に関わってることだろ!!」
『おまえさぁ……魂を一万個増やすっていうのが世界のルールに反してることが分からんのかよ』
「一個増やすなら世界のルールに反してないのか!!」
『情状酌量の余地というものがあるのだよ。道端に落ちてる一円を拾ってネコババするのと一億円を拾ってネコババするのは、意味合いがまったく違うだろう?』
「窃盗には変わらん!」
『じゃあもっと難しいことを言うが、量子テレポーテーションは知っているか』
「量子力学の理論から、物体を瞬時に別のところにワープさせる技術だな?」
『そう。実際に原子レベルでは実験に成功している』
「そうらしいな」
『だが、まだ人間をテレポートさせることはできていない。つまり、理論的にはできても実際にはできないことは存在するのだ!』
「それは技術が進歩したらできるかもしれないことだろ!!」
『では、おまえを一万人に増やせるまで、ボクを進歩させてから言え』
「……」
AIに完全論破される俺。
『おまえというキャラクターを一人この世界に生まれさせただけでも、とんでもない技術なんだからわがまま言うな』
「……」
事実ならおっしゃる通りではある。
『まぁ、とにかく三番目は実行できる。だが他であればSNSを通じてそういう噂を流すしかない』
「BANされているが」
『IPとアカウントを変えればいいだけの話だろう? さぁ、どっちがいい』
「じゃあ、しょうがないから二番目」
『なぜ一番を選ばんのだ』
「一番目は自分がいたたまれない」
『分かった』
……そこから、チャット・アイによる『倒されないラスボス』作戦は実行に移されたわけだ……が……。
勇者は、普通に来た。その姿に俺は仰天する。
「き……貴様ら……!!」
まず、勇者一行は四名。勇者戦士僧侶魔法使いという、鉄板すぎて早口言葉にされても絶対に噛まない自信のあるパーティは、なんとすべて女性だった。
「男たちは女に甘いからねぇ」
女勇者が不敵に微笑む。女性だけのパンクユニットなのかという、ある意味イカツイ容姿だが、逆に俺が如何にチャーミングでも全く容赦してくれないばかりか、むしろチャーミングな俺に敵意をむき出しにしそうな顔ぶれだ。
いやしかし……それよりなにより。何と彼女らは、俺と十メートルの距離で対面しても平然としている。そのことが、俺を驚愕の奈落から這い上がらせない。
その原因と思われるアイテムが、勇者ご一行の四名の顔に白くフィットしていて、俺はなお驚いていた。彼女たちはいずれも、小学校の給食当番がしているようなマスクをしていたのだ。
「そ……それは……伝説の〝アベノマスク〟!!」
まさかのアベノマスク。ここにきてまだアベノマスクのネタを引っ張る作者が他にいるか!?
「ふふん。察しがいいねぇ」
っていうか、まさかまだ持ってる奴がいたとは!!
「ミスラスボススミスレス!! これでアンタはただ臭いだけのラスボスなのさ!」
なにより、アレで俺の臭いが回避できるとは!!
ショックすぎて、すぐにそのことをチャット・アイに伝えたい。しかし今は勇者との対面中である。のほほんとキーボードを打っている暇はなかった。
一応強がってみる。
「ふはははははは。笑わせる。アベノマスクとはな!!」
しかし内心は動揺が隠し切れない。恐怖と臭い……両輪の一つが外されたようなものなのだから。
「四つ調達するのに苦労したよ……」
「いや、そうだろうな」
「おかげでアタシらは悶死しない!!」
「どうしてアベノマスクにそんな効果があるんだ!!」
「アベノマスクを愛用した作者は一度もコロナにならなかったからねぇ。そりゃぁアンタの臭さにも対応できるに決まってるのさ」
「最強すぎるぞアベノマスクゥ!!」
「サナエあれば憂いなしなんだよ! とにかくアンタはただの臭い女だ!!」
「……」
「ついでに、世界にゃ迷惑が過ぎる存在なのさ!」
「俺が何をしたというんだ!」
「いや、だからぁ、それだけの臭いだけで説明は不要だろ!!」
「……」
まさか臭いが討伐の目的になっていたとは。AIの読みは完全に裏目だったようだ。
「くそ……」
だが……俺は口角を上げた。
もう一つ、決定的な武器が存在しているのだ。俺はチャット・アイの言葉をなぞって盛大に胸を張った。
「貴様らいいのか。俺は世界そのもの。つまり俺を倒すという行為は、この星を破壊する行為に等しい。俺が死ねば世界が死ぬ。それと引き換えに俺を倒すという矛盾を、貴様らはどう消化するつもりだ」
声が、冷たいラスボスダンジョンに響く。ハッタリとはいえ、どう転んでも覆すことのできない圧倒的な文言であった。
「ふはははははは!! ぐうの音も出まい! 貴様らは所詮俺の引き立て役でしかないのだ! さぁ、何もできぬまま俺の一撃を受けて死ぬがよい!!」
「ふ……」
だが女勇者は、そんな俺を見て吹き出す。
「あっははははははははは!!」
「どうした。気でも触れたか」
「なんでアンタが笑うのは当然で、アタシが笑うと気が触れてんのさ」
「俺のは勝利の笑いであり、必然性がある。だが貴様はいったい何の笑いだ?」
「そりゃぁ、アタシも勝利の高笑いってところさね」
「笑止千万! 気でも触れたか!!」
「だからなんでだよ」
「なぜ勝った気でいる!?」
「そりゃぁアンタ」
アベノマスクに護られた女勇者はあっけらかんと言い放った。
「アンタの〝世界と生命力を共有してる〟って設定。嘘だろ?」
「え……?」
急転直下で背中に悪寒。
「アンタを倒したら世界が消滅するってのも、全部嘘なんだろ?」
「な……何を根拠にそのようなことを!!」
「だって、どんな悪知恵働かせても、世界の設定まではいじれないからな」
「全部バレてるーーーーーーーーーーー!!」
俺は絶望しつつ、やっとのことで次の言葉を続けた。
「なぜだ! なぜすべてを知っている!?」
「簡単なことだよ」
女勇者、また、平然と言い放つ。
「アタシも〝チャット・アイ〟のユーザーだからねぇぇ!!」
「なにーーーーーーーー!!」
「ミスラスボススミスレスが考えてることは、その九十九パーセントが、ボクが考えたことだと思うよって言ってたし!!」
「あいつ裏切りやがった!!」
「裏切ったんじゃなくて、アンタがつかえるAIがアタシにも……っていうか世界中が使ってるってだけのことさ」
「……じゃあ俺の臭さにアベノマスクが効くって情報も……」
「うん。全部チャット・アイ」
「マジかーーーーーー!!」
「ついでにアタシらが女なのも、その方が容赦なくラスボスをぶっ飛ばせるだろ?って……」
「アイツ全部バラしてやがるーーーー!!!」
「とにかくそういうわけだよ! こうなれば勇者がラスボスに勝つのは自明の理! もし今回負けても、次回! 次回負けても次々回! そして一度でも勝てばアタシたちは英雄なんだ。さぁ付き合ってもらおうか!!」
「いやだぁぁぁぁ!!!」
だがしかしそれでも、ワタクシ、ミスラスボススミスレスは、その戦いでは勇者を全滅させた。その力はラスボスにふさわしい、圧倒的な力であった。
しかし、その後のカノジョたち、ワタクシのことを徹底的に調べ研究し丸裸にすることストーカーの如し。粘着粘着粘着を繰り返された挙句……とうとう七度目に討伐されてしまった。
『倒せないラスボスになろう!!』計画……あえなく頓挫……。




