表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/33

名誉ある努力祭に招待されたんだけど、演出だけで乗り切ります

 王都修行祭――

 それは、年に一度、修行者たちの努力と成果を讃える盛大な祝祭。

 格式と伝統を誇る一大イベント……のはずだった。


 だが、近年はどうにもお祭り感が強まっており、気がつけば派手なパフォーマンス合戦に化している。


 そんな中で――俺が、特別演武枠で招待されてしまった。


(いやいや、おかしいだろ……)


 カイル・セレスティア十八歳。

 努力嫌い、修行嫌い、だが演出スキルで修行神扱い。

 しかも最近は“実体化する演出”まで使い始め、もはや自分でも何者なのか分からなくなってきていた。


「本当に……出るんですか?」


 リィナが控室の隅から、不安そうな声をかけてきた。


 白と金を基調にした装飾。修行祭専用の演武衣に身を包んだ俺は、どう見ても立派な“達人”の風格が……出てしまっていた。

 ただ立ってるだけなのに、エフェクトの演出光が勝手に身体を包んでくるせいだ。


「……行ってくる。座ってるだけだけどな」


 俺が自嘲気味にそう言うと、リィナは小さく笑った。


「きっと、それで十分です」


 その一言に、少しだけ背中を押された気がした。


 ※※※


 演武会場に足を踏み入れた瞬間、凄まじい歓声が耳を打った。


「おおおおおおおお!! 本物だ! 修行神カイル様だ!!」

「今日こそ拝めるぞ、炎鳥の祝福!」

「この目で! あの瞑想を!!」


(……いや俺まだ、何もしてないぞ?)


 中央の石舞台に立つだけで、観客席は大歓声。

 俺の周囲には自然とスキル演出が発動し、淡く金色に光る波紋が地面を走っていく。


 演武のテーマは《三重波動瞑想》。

 要するに――俺が座ってるだけで、火の鳥が空を飛ぶパフォーマンスが発動するやつだ。


(……やるしかねぇ)


 深呼吸。

 ゆっくりと胡坐をかき、目を閉じる。


 次の瞬間、スキル《修行演出》が起動した。


 足元から光の輪が浮かび上がり、舞台全体を包むように広がっていく。

 頭上では、幻影の焔鳥が翼を広げ、旋回しながら優雅に舞い降りてきた。


「きたっ……炎鳥の祝福!!」

「これだけで、体内魔力の流れがよくなるらしいぞ!」

「さすが修行神……ただの瞑想が、神域の儀式になってる……!」


 まるで奇跡を目の当たりにしたかのような熱狂。

 なかには感極まって涙を流している人すらいた。


 けれど俺は、その中に紛れた違和感に気づいていた。


 ――観客席、東側最上段。

 一人だけ、誰とも目を合わせず、歓声にも反応しない人影がいた。


 フードを深くかぶり、灰色のローブを纏ったその人物は、ただじっと、こちらを見つめていた。


(……来たか。修律会)


 その視線は、観客でも、崇拝者でもない。

 ただ冷たく、評価するような眼差し。


 まるで、「それが本物かどうか」を見極めるように。


 ※※※


 演武は滞りなく終了し、俺は控室に戻っていた。


 終わった瞬間、あのフードの男は姿を消した。

 誰にも気づかれずに、音もなく、霧のように。


(俺の演出を見に来た……いや、次の準備か?)


 そんなことを考えていると、リィナがそっと控室に入ってきた。


「お疲れ様です、カイル様」


「おう……ありがとな。なんか、すごい人の数だったな」


「はい。でも、誰よりも堂々としてましたよ」


「……いや、座ってただけだし」


 そう言うと、リィナは微笑んで首を振った。


「座ってるだけで、あれだけの人を動かせるなんて、普通はできませんよ」


「……」


 なんていうか、ありがたいけど、申し訳ない気もする。

 でも、こうして信じてくれる人が目の前にいると、それだけで演出だけの自分が、少しだけましに思えてくる。


「なあ、リィナ」


「はい?」


「もし……俺が、演出だけのペテン師だったって分かったら、どうする?」


 その質問に、リィナは一瞬目を見開き、でもすぐに柔らかく微笑んだ。


「それでも、演出だけで人を救った修行者として、わたしは尊敬します」


「……マジか。お前、ちょっとズレてるな」


「よく言われます」


 二人で、ほんの少しだけ笑った。


 そんな穏やかな空気の中――

 控室の窓の外を、ひゅう、と冷たい風が通り抜けた。


 ※※※


 その夜、王都の裏通りにて。


 人気のない廃神殿の前。

 ひとりの男が、石畳をゆっくりと踏みしめていた。


「演出は……本物に至れるのか?」


 呟いた男の手には、黒銀の刃――《呪具・言切り》。


「ならば、次は――演出では防げぬ破壊を見せてもらおう」


 フードを深くかぶり直し、男は夜の闇へと消えていった。


 《修律会・実行部隊》。

 その牙が、いよいよ剥かれようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ