俺は嘘つきなのに修行スコアがマジすぎる
昨日のあの瞬間――
リィナを庇って、演出スキルが本物になった瞬間の感覚が、まだ身体に残っている。
熱さでも、痛みでもない。
もっとこう、芯の部分がグッと張り詰めるような、感情が魔力に変わるような――
(……マジで、本気になると演出が実体化するのか)
いやいや、そんな馬鹿な。偶然だ。たまたまだ。気のせいだ。
でも……あの時、リィナを守らなきゃって本気で思った。
そしたら本当に焔の壁が生まれて、魔法を防いだ。
それってつまり――
(やべぇ……俺、ズルしてるつもりだったのに、ズルじゃ済まなくなってきてる)
妙な実感が、じわじわと胸を締めつけてくる。
それでもリィナは変わらず、今日も隣で正座していた。
演出修行中の俺の隣で、目を閉じ、まるで祈るように呼吸を整えている。
「……ふぅ。今日も、カイル様の魔力……あったかいです」
ちょっとドキッとすることを平然と口にするリィナに、俺はわざと軽い調子で返す。
「そりゃよかったな。冷たかったらヤバいぞ。死人だわ」
「ふふっ。でも本当に、安らぐんです。なんていうか……母なる炎って感じで」
「お前、詩人気質あんのか?」
「ありませんっ!」
そうして二人で笑い合っていた。
※※※
王都中央の鍛錬者ギルド。
修行者たちの情報管理・資格発行・試験実施を司る、中立機関だ。
そのギルドから、まさかのスカウト依頼が来た。
「現代修行の象徴として、カイル・セレスティア様に公式登録をお願いしたく――」
スーツ風のローブに身を包んだギルド職員が、深く頭を下げた。
直々に職員がやってきて頭を下げてくるという、前代未聞の対応である。
「ちょ、ちょっと待って。俺、象徴とかじゃないから。な?」
「いいえ、象徴です。動画再生数は三百万を突破し、修行ランキングでのインパクトスコアは観測史上初の9999。
さらに王都の若者の七割がカイル式呼吸法を模倣しているとの報告も……」
(え、それただの寝呼吸なんだけど……)
もう駄目だ。何を言っても俺の言葉は“謙虚さ”に変換されてしまうらしい。
最終的に根負けして、俺は鍛錬者ギルドに赴くことになった。
※※※
ギルド内は、木と大理石を組み合わせた厳かな雰囲気で、重厚感ある空間だった。
登録カウンターには精霊石のようなスキャン装置が設置されており、そこに手をかざすと、【修行スコア】が表示される。
修行スコア――
魔力制御、精神集中、鍛錬時間、さらには修行中の見た目のインパクトまで数値化した、修行者の総合的な評価指標。
努力だけでなく、いかに努力してるように見えるかも重要な要素として加算される。
そのため、見た目が派手な修行法や奇抜なスタイルは、思わぬ高得点を叩き出すこともある。
「……確認完了。セレスティア・カイル様、修行スコア更新されました」
表示された数値を見て、職員の目が見開かれる。
「な、な、なんですかこの……演出スコア……!? 9999!? 表示、これ、振り切れてます……!」
「いや、俺にも分からん。ていうか演出で9999ってなんだよ」
「街頭掲示板への速報転送、承認しました!」
「えっ!? 待って、それはやめ……」
俺の叫びを無視して、広場の巨大な掲示板――王都中に情報が発信されてしまった。
【修行スコア表示:セレスティア・カイル】
| 修行スコア合計 | 12480pt(※演出インパクト補正込み) |
| 魔力制御 | 137(微増中) |
| 鍛錬視認インパクト | 9999(最大値) |
| 日間修行平均時間 | 0.6時間(未更新) |
| 公的評価 | 「最も神秘的な修行者」「未知の教祖枠」 |
⸻
「お、おい、掲示板見ろよ! セレスティア・カイルの名前、また更新されてる!」
「マジかよ……演出値カンストって、どういう鍛錬してんだ!?」
「これからは努力の時代じゃねぇ! 魅せる修行の時代だ!!」
ギルドの外が、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
俺はその中心に立ち尽くしながら、顔を両手で覆った。
「やべぇよ、これ絶対やべぇやつじゃん……!」
そんな俺の隣で、リィナはにこにこしながら言う。
「やっぱり、すごいですね。カイル様は……人を動かす人、なんですね」
「いやいや、動かしてない。なんか勝手に盛り上がってるだけだって」
「それでも、結果は変わりません。私も……その中のひとりですから」
不意にまっすぐな目でそう言われて、胸の奥がチクッと痛んだ。
(……信じてる人がいる。それに応えたいって思っちまった時点で、俺はもうズルじゃいられないのかもしれないな)
視線を落とすと、手のひらが少し震えていた。
スキルが反応しているのか、それとも俺自身の感情のせいなのか。
分からないけど、間違いなく何かが変わり始めている。
※※※
帰り道。
石畳の道を歩いていると、視界の端に妙な気配を感じた。
ビルの屋上。灰色のフードを被った影が、こちらをじっと見下ろしていた。
目が合ったと思った瞬間、スッと姿がかき消える。
「カイル様……?」
「……いや、なんでもない。ただの通行人だ。たぶん」
けれど心の中で、はっきりと分かっていた。
(……《修律会》、次の手を打ってくるな)
彼らは本気だ。
努力という価値観を守るために、俺の“演出”を排除しようとしている。
もう笑って誤魔化せる段階じゃない。
だけど俺は、逃げない。
ズルで始まった俺の修行が、誰かの救いになってるなら――
この道を、もう少しだけ歩いてみたいと思った。




