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213.栽培予定

 じいちゃんたちが王都へ帰ってから少し経ち、夏も終わりへと近づいてきた。


 徐々に涼しくはなってきているが運動した後などはまだ暑いので、【クーラー】の魔法はまだまだ活躍している。


 朝の稽古が終わり、そのまま庭のテラスで休憩していると、リデーナが話しかけてきた。


「カーリーン様、アマリンゴの種はどうなさいますか?」


 姉さんの発案で、キャンプのときに採ったアマリンゴの種を植えてみようということになり、キレイにして保存しておいたのだが、いつ植えるかなどは決めていなかった。


 そのまま保管しておいてもダメになるだけなので、とりあえず近くにいた俺に聞いてきたのだろう。


「リンゴっていつ植えるのがいいの?」


「私もそれについては詳しくないので……」


 ――エルフだし植物に詳しいと思ってたんだけど、偏見だったか……リデーナは森じゃなくて町で暮らしてるし、そうじゃなくても知らないことくらいあるよな。


 そう思っていると、少し考え事をしていたリデーナが口を開いた。


「ベルフなら知っているかもしれません」


「たしかに」


 いつも畑の管理などもしているベルフなら分かるかもしれないと思い、リデーナと一緒に厨房へ向かう。


「ベルフいる~?」


 厨房に入って周りを見ながらそう言うと、ドラードが冷蔵室から顔を出した。


「お、カー坊。ベルフなら裏の畑のほうにいるぞ? 急ぎか?」


「いや、そこまで急ぎってわけじゃないけど……アマリンゴの種を植えようと思うんだけど、いつ頃がいいのかなぁって」


「別に樹木の種ならいつでもいいんじゃないのか? 葉野菜とかと違って、育ったら年中そのままなわけだし」


「いや、その育つまでがあるでしょ……とくに芽が出始めたときとか……」


「ははは。それもそうか。オレは料理はするが、栽培はしないからなぁ」


「だからベルフに聞いてみようかなと」


 そんな話をしていると、ガチャと中庭側のドアが開いて、ちょうどベルフが入ってきた。


「私に何か御用ですか?」


 ベルフはそう言いながら、今日の昼食か夕食に使うと思われる野菜の入った箱を置く。


「うん。この間採ってきたアマリンゴがあったでしょ?」


「えぇ、カーリーン様から分けてもらった物ですね。すごく美味しかったですよ。ありがとうございました」


 採って帰ったアマリンゴは、キャンプに参加しなかったベルフやロレイたちにもおすそ分けしていたので、ベルフはあらためて微笑みながらお礼を言ってくる。


「うん。それでね、そのアマリンゴの種を植えてみようって話になって、保存しておいたんだけど……」


「なるほど。アマリンゴの種ですか……カーリーン様、おひとつお教えしたいのですが……アマリンゴから取った種を植えたからといって――」


「アマリンゴがなるわけじゃないって話なら知ってるよ」


 ベルフが少し申し訳なさそうに言い始めた言葉を、食い気味に引き継いでそう言う。


「そうでしたか」


「うん。姉さんたちも知ってるし、"アマリンゴは実らない"という前提ではあるけど、それでも植えてみようってことになってね。それで植えるならいつ頃がいいのかなぁと」


「そうですねぇ……私も果樹は専門外なのですが、知り合いから聞いた話だと、冬の終わりから春先あたりに植えるそうですよ」


「なるほど……となると、結構先になっちゃうなぁ……それまで種は大丈夫かな」


「カーリーン様さえよければ、種の保存方法もその知り合いから聞いて、私が保管しておきますが?」


「いいの? その方が助かりはするけど」


「えぇ、もちろん。それと、植える場所はどうしましょうか? 植えられる時期になるまでに、ある程度準備も済ませますが」


「ここまで話しておいてアレだけど……ベルフに手伝ってもらうことが増えるけど、大丈夫? そんなに大量に植えるわけじゃないし、俺たちができることはやるつもりだけど……それでもベルフに結構聞いちゃうことになるだろうし……」


「はははは。えぇ、大丈夫ですよ。どんどん頼ってくれてかまいません」


 ベルフは嬉しそうにそう言いながら、自分の胸をトンッと叩く。


「それじゃあ、お願いしようかな。ありがとう。場所はどこにしようかなぁ」


「そうですねぇ。リンゴの木であれば中庭の近くでもいいかもしれませんね」


「そうなると、母さんにも聞いた方がよさそうだね。俺は母さんを呼んでくるから、リデーナは種をベルフに渡しておいて」


「かしこまりました」


 そう言って母さんも連れてきて、一緒に中庭に出る。


「この庭も、リデーナとベルフが調整してくれているのだから、あなたたちだけで相談して決めてもよかったのに」


「そうなんだ?」


「ですが、木を植えるとなると景観が大きく変わるので、奥さまの意見は必要です」


「そうねぇ。いくつ植えるつもりなの?」


「多分4本くらいになると思う」


「うふふ。あなたたちとアリーシアちゃんの分ね。それならあの辺りはどう?」


 母さんが指さしたのは、中庭にあるガゼボからも見える一画で、ちょうど屋敷の陰になる時間も少なく日当たりがいい場所だった。


「たしかにいいかも」


「それじゃあ、あの辺りに植えられるように準備しておきますね。4本植えるということで、まずは裏の畑の近くで育ててみて、芽が出始めたらまたその中からよさそうなのを選びましょう。もちろん、こちらに移さなかった分もすべてきちんと育てて見せますが」


「そうなると結構多くなりそうだけど大丈夫?」


「ははは。えぇ、お任せください」


 ベルフは自信満々にそう言う。


「ベルフに任せておけば大丈夫よ。楽しみね」


「うん」


 ベルフはさっそく知り合いと連絡をとって色々聞いたり、今できる作業を開始するようなので、そこでお開きとなった。




 昼食を食べ終え、ドラードの買い出しのタイミングで一緒に町へ向かう。


 最近はドラードとばかり出かけているが、リデーナは屋敷での仕事などもあり、町へ行く()()()()()()()となるとタイミングが合わないことも多く、その点ドラードの場合は町へ行くことが仕事といえば仕事で、()()()()()()()()()()という、逆の立ち位置で合わせやすいので、そうなっても仕方ないと思う。


「でも、たまにはリデーナと町へいってやれよ? たまぁにリデーナに"ドラードはカーリーン様とよく出かけてますね"ってチクチク言われるんだよなぁ」


「いや、さっきも言ったけど仕方ないでしょ。かといってリデーナの仕事の邪魔をしてまで町に行きたいわけじゃないしさ」


「オレなら邪魔してもいいってか?」


「え、邪魔してる? それなら今度から遠慮しようかな……」


「いやいや、冗談だ。カー坊と一緒なら帰りが遅くなっても、()()()()()()何も言われないしな」


「えぇ……なにそれ……」


 そんな話をしながら歩いていると、見知った女の子が歩いていた。


「お? あの子はカー坊とよく話す子だな」


「ステラだね」


「あら。こんにちは」


「どこに行くの?」


 普段であれば、ステラが持っている編みカゴの中には、自分の家の畑で採れた野菜などが入っていることが多いが今日は何も入っておらず、向かっている方向には畑などはないのでそう聞く。


「今日はもうやることもないから、山菜でも採りに行こうかと思って」


「本当に馴染んでるというかなんというか……」


「ほぉ。山菜かぁ。最近あまり採りに行ってないなぁ」


「あなたたちも一緒に行く?」


「うぅ~ん……オレは町で買わなきゃいけないものもあるからなぁ……」


 ドラードはそう言いながら考える仕草をする。


「嬢ちゃんが1人で行くってことは、浅い場所だよな?」


「……えぇ、まぁそうね」


「それなら、カー坊、一緒に行って少し採ってきてくれないか?」


「えぇ……ドラードが俺にそれを頼むの? まぁドラードの"邪魔"しちゃ悪いし? 俺はそれでもいいけど?」


「アレは冗談だって言っただろ……」


「でも、ステラは俺だけでも大丈夫なの?」


「えぇ。町の子供だけとかなら断ったと思うけど、あなたなら大丈夫よ」


「それなら頼むわ。戻ったらいつもの場所で集合な」


 ステラはどこか含みのある言い方をするが、ドラードはとくに気にしていないようで、そう言いながら持ってきていた小さなカゴを俺に渡す。


「どんなのが欲しいの?」


「うぅ~ん。これといって決まったものはないな。採れたものを見て考えるわ」


「適当だなぁ。まぁ分かったよ」


「それじゃあ、行きましょうか」


「大丈夫だとは思ってるが、気を付けろよ~」


 言葉ではそう言っているが、すごく軽い感じで言っているので苦笑する。


「信頼されているのね」


「あれは信頼なのか、適当なのか……まぁドラードは俺が結構魔法を使えるのも知ってるしなぁ。それにステラのことも何か察してるんじゃない?」


「そう? まぁ話したりはしてないけど、そこまで隠してるわけでもないしね。そもそも神気とかなんて普通は感じ取れるものでもないし」


 ステラはそう言いながら目を細め、町の方へ向かって歩いて行くドラードの背をチラッと見る。


「魔力とか?」


「まぁそれは薄っすらと感じ取ってるのかもしれないわね」


 そんな話をしながらドラードと別れ、ステラと近くの森へ向かった。

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