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212.収穫と帰宅

 兄さんと話をしながら待っているが、なかなか父さんが戻ってこない。


「……結構遠くまで来ちゃってたのかな?」


「うぅ~ん。僕たちも道からはそれなりに離れてると思うけど、エルたちも同じように離れてるかもしれないからねぇ」


「あぁ、たしかに……道の近くにはないって分かって、遠くまで行っててもおかしくないね……」


 ――緊急事態ってわけじゃないから、父さんも本気で移動してるわけないだろうし、来るときはアリーシアさんもいるしなぁ。それなりに時間がかかるのも当然か。


 そう思いながら、あらためてアマリンゴの木の周りを見る。


 ちょうどその木を中心に5メートルほど開けているこの場所は、不自然なほど整っているように見え、それがかえって神秘的な雰囲気を感じさせる。


 周りが開けているおかげで、アマリンゴの木全体に日の光が降り注いで幻想的な風景になっており、果実も色鮮やかに見ることができる。


 ――まさに"神様のお気に入りの果実"って感じの神々しさだな……。


 そう思いながら木に近づくと、兄さんもついてきてくれる。


「思ったより実は少ないんだね?」


 見上げて果実を探してみるが、10個ほどしか見えない。


 ――2メートルくらいの木でも、普通のリンゴの木ならもっと実ってるよな? 村で育ててるのを見て、"こんなに実るんだ"って驚いた記憶があるし……。


「そうだね。僕も実際に実ってるのを見るのは初めてだけど、採ってる人たちの話によると、普通のリンゴよりは少ないものの、もっと実ってるみたいなんだけどね」


「そうなんだ?」


「店で売るにしてもそこまで日持ちはしないし、自家用ならなおさらそんなにたくさん必要ないから、全部を採るってことはあまりないくらいらしいんだけど……」


「てことは、これは誰かが採った後なのかな?」


「うぅ~ん。こっちの方まで山菜採りとかにはあまり来ないと思うんだけど……それに新しい採った跡とかも見えないし……」


 兄さんは果実がある付近の枝を観察して、そう言ってくる。


「まぁ、見つけられたし、ちょうど僕たちだけで食べるくらいはあるからよかったね」


「それはそうだね」


 そんな話をしていると、後ろから父さんの声が聞こえる。


「おーい。ライ、カーリーン。すまんな。遅くなった」


「わぁ! 本当にあれがアマリンゴの木!?」


「果実がキレイ!」


 父さんと母さんのあとに続いて姉さんとアリーシアも顔を出し、アマリンゴの木を見て目を輝かせている。


「おぉ……なんというか……美しい場所だな」


「えぇ、そうねぇ」


 うしろにはじいちゃんとばあちゃんもついてきており、この空間を見て感嘆の声を漏らしながらそう言う。


「待ってる間に木を見てたんですけど、果実が10個ほどしか実っていないようなんですが……」


 兄さんもおかしいとは思っているようで、父さんに意見を聞いている。


「うぅ~ん。まぁそういうときもあるだろう。俺も昔見つけたときは5個とかしかなってないときもあったからな」


「そういうモノなんですね。町の人たちの話ではもう少し実ってるって聞いてたので……」


 ――もしかしたら、そのときに必要そうな数だけ実って現れるのかもしれないなぁ。


 そんなことを思っていると、木に近づいて観察していたじいちゃんが声をあげる。


「本当に見た目は普通のリンゴの木なのだな。まぁ手入れもされていない自然なものにしては、キレイに整い過ぎてはいるが」


「そうねぇ。なっている果実も全部キレイに熟しているようですし、さすが"神様のお気に入りの果実"ということかしら?」


「ねぇ、早く採りましょ!」


 待ちきれなくなった姉さんが、父さんの服の裾を引っ張りながらそう言う。


「あぁ、そうだな。まずは見つけたカーリーンからだな」


「カーリーンが見つけたのね! すごいわ!」


 姉さんが嬉しそうにそう言いながら抱き着いてくる。


「た、たまたまだよ」


「ははは。そら、採るときはナイフを使うから、刃には気を付けろよ」


 父さんはそう言いながら俺を抱き上げ、腰に携えていたナイフを渡してくる。


 そのナイフは父さんが使うには小さすぎると思えるくらいだが、俺が持つと少し大きい。


 ――まぁそれでも子供が持てるくらいの大きさだけど。枝を削るとかちょっとした作業をするのに使うのかな?


 ナイフを落とさないように気を付けながら、アマリンゴの枝へ近づかせてもらう。


 果実に近づいたことでリンゴのいい匂いを嗅ぎながら、その普通のリンゴより少し柔らかい果実に触れる。


 父さんは俺を腕に座らせるような形で持ち上げており、空いている方の手で手伝ってくれているが、果実を支えてくれているくらいなので、慎重にナイフを動かす。


 ナイフを茎部分に持っていくと、少し力を入れただけで刃が通って簡単に斬ることができた。


 そのナイフの切れ味に驚きながらも、手に伝わってくるアマリンゴの重さを感じながら、落とさないように手を引っ込める。


 果実を採ったことで、その切り口からリンゴの甘い香りが周りに広がった。


「わぁ。いい匂い!」


「お父さん、私たちも!」


 その匂いを嗅いだ姉さんとアリーシアが興奮気味にそう言っている。


「あぁ、そうだな。ライも届かなさそうだからエルと一緒に抱き上げてやろう」


「それじゃあ、アリーシアはこっちにおいで」


 俺を降ろしたあと、父さんとじいちゃんがそう言うので、子供たちはそれぞれの所へ向かう。


 収穫する楽しさを感じながら手元にあるアマリンゴを見ていると、母さんが目線を合わせるようにしゃがんで話しかけてきた。


「本当にいい匂いねぇ」


「採れたてはこんなに甘い匂いがするんだね」


「切ったらもっとするでしょうね」


「だろうね。採り終わったら切り分けてみんなで食べよう?」


「あら、いいの?」


「うん。せっかくだから採れたてを食べてみたいし」


「うふふ。それじゃあ採り終わったらそうしましょうか」


 子供たちが採ったあと、アマリンゴの木を初めて見るじいちゃんたちも収穫をし、10個あった果実をすべて採りきった。


「……採りきってもよかったの?」


「まぁ普段採りきらないのは、そこまで必要ないからだからな」


 ――神様の~とか言われてるから、お供えものみたいな感覚で残してるのかと思ったけど、そういうわけじゃないのか……。


「そっか。それじゃあ、父さん切り分けて。食べてみたい!」


 そう言いながら俺が採ったアマリンゴを渡すと、笑いながら「分かった分かった」と言って手早く切り分けてくれる。


 手慣れた手つきで全員分に切り分けられた果実を、それぞれが受け取って食べてみる。


「ん~~~!! いつものより甘いわ!」


「美味しい」


 姉さんたちの言う通り、採れたてだからか、自分たちで採ったからか、いつも食べるものより美味しい。


「もっと食べたい!」


「姉さん、屋敷に帰ったら少し冷やしてあげるよ? この時期だからきっとおいしいよ?」


「たしかにそうね! 家でゆっくり食べるのもいいわね」


 ――俺自身もう少し食べたい気持ちもあるし、冷やすだけなら今すぐにでも出来はするけど、あまり遅くなるのもなぁ。家でゆっくりしながら堪能したいし。


 姉さんが提案に乗ってくれたことにホッとしつつ、みんなで元の道へ戻った。


 道に出ると、ちょうどシラヒメたちの横に出たので、父さんの察知能力に改めて驚かされる。


 ドラードたちにアマリンゴが採れた報告をしたり、それを冷やして食べるのが楽しみだという話などをしながら、無事暗くなる前には屋敷へ帰ることができた。


 後片付けや着替えなどをしていると夕食の時間となり、冷えたアマリンゴはデザートとして出されることになった。


 もちろん大好評で、追加で出してもらうことになったのだが、実際すごく美味しかったので仕方ないと思う。


 そのあとは湖で泳いだことや、釣りのこと、テントで寝た感想などを思い出しながら談笑し、歩いて疲れた俺とアリーシアは早めに自室へ向かった。


 ――兄さんと姉さんはさすがだなぁ……俺も成長したらもう少し体力つくかなぁ……それにしても、キャンプ楽しかったな。新しい魔法も見られたし、アマリンゴの木も見つけられたし。また行きたいなぁ。


 そんなことを思っていと、さすがに疲れていたようで、いつの間にか眠りに落ちていた。

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