9 北門
日が昇って程なく、旅支度を整えた私は家の入り口前に立っていた。流石にこの時間はだいぶ冷えるな。着慣れた外套の下で私の体がぶるりと震えた。
横に同行者であるアレンが居るのはもちろんだが、ミリアムの姿もある。どうやら見送りしてくれるらしい。朝も早いのにわざわざご苦労なことだ。
「ではしばらく留守にする。あとのことは頼んだぞ」
「はい。いってらっしゃいませ、お師さま。アレンさんもお気を付けて」
「ああ、行ってくる! ありがとうな!」
私たちは短い会話を終え、早速出発する。とりあえずの目的地であるシュガ村はグシュリの北、徒歩で一日半の距離にある。両者の間には広い森が広がっているうえに定期的な馬車便は出ていないため、自らの足で向かう必要があった。大きく迂回路を取れば借り上げた馬車で向かうこともできるが、今回その必要はないだろう。
まだ夜の残り香をたっぷりと残した静かな街を、アレンと歩く。いつも露天商で賑わっている通りも、この時間帯では流石に誰もいない。
「なあおっさん。こんな朝っぱらに行っても門は閉まってるんじゃないのか?」
「そりゃあもちろん閉まってる。だが今向かっている北門は、入るのは無理でも、出るとなれば話は別だ。仕事や事情がある者のために、出るとき専用の通用口があるんだ。通常の開門をしているときよりも多少は多めの税が取られるがね」
「流石に詳しいな」
「"おっさん"だからな。色々知ってるのさ……ほら、もうすぐ着くぞ」
笑いながらそう言うと、ほどなく石で造られた高い堅牢な外壁、そして重々しく佇む金属の門が見えた。がっちりと閂がかけられていて、通行人と危険な獣の往来をしっかり防いでいる。その手前には昨夜から燃えていたであろう篝火が焚かれ、二人の門番が立っていた。
私はそこに近付きながら、声を掛ける。
「やあアルフレッド、お疲れ様。今朝も寒いな」
「あ、【黄昏】さん、おはようございます。そうですね。慣れてるとは言っても、夜通し立ってると流石に堪えますよ」
「勤務中に酒を飲んで暖を取るわけにもいかんし、兵士というのも難儀なものだ」
「確かに」
そう言って苦笑する。
「【黄昏】さんは仕事ですか?」
「ああ。冒険者組合からの依頼でね、今から森を抜けてシュガ村だ。こいつと一緒にな」
アレンを首で指す。彼の姿を診ながら、アルフレッドは頷いた。
「なるほど。いま開けさせます。……おい!」
彼が声を掛けると、もう一人の門番が小走りで近付いてくる。なんとなくまだ慣れてない感じがする。
「新人かね?」
「ええ、オルガといいます。配属されて間もないですが、悪いやつじゃあないですよ」
「は、はい、オルガです! よろしくお願いしますっ!」
「私のことは【黄昏】と呼んでくれ。これから世話になることがあるかもしれん、こちらこそよろしく頼む」
挨拶もそこそこに、早速通用口への案内を頼む。ある場所は知っているが、門番の先導や確認も受けず勝手に出ていくわけにも行かない。面倒なものだ。
オルガが壁に隣接されている小屋へと向かって歩き、私たち二人はそれに付いて行く。先程案内させると言っていたように、アルフレッドはこの門の前で警戒を続けるようだ。オルガに促され、私たちは小屋の中へと入った。
手前に簡素な机と棚、そして奥には街の外壁に据え付けられた扉があるだけのシンプルな部屋だ。この小屋自体が外壁にぴったりとくっつけるよう建設されており、奥の壁は通用口の扉部分だけぽっかりと穴があいていた。
身分証明用に冒険者組合から支給されている首飾りを懐から取り出しオルガに見せると、アレンも慌ててそれに倣う。オルガはそれをたどたどしく確認し、頷いた。
「は、はい。確かに。では越門税としておひとり当たり、大銅貨六枚いただきます」
私は財布から金を取り出し、オルガに手渡す。そこまで高いわけではないが、仮に高額だったとしても昨日の臨時収入があるので問題はない。同じように懐があたたかいアレンも、手早く支払いを済ませていた。
オルガは覗き窓の蓋を取り、外の様子をよく確認する。がちゃんと音を立てながら金属製の閂を抜いたあと、彼は慎重に扉の鍵を開けた。取っ手を掴み、ゆっくりと開く。よく油を差してあるのか、軋むような音はない。少し強めの風が私の頬を叩いた。
扉の先には未だ石造りの壁と天井が続いている。だがその先には、四角く切り取られた明るい外の風景が広がっていた。私はオルガに礼を言い、街の外へと歩き出した。
閲覧ありがとうございますっ!
もしよければ、ブックマークや評価、感想をいただけると非常に嬉しいです。
特に広告の下にある☆型の評価ボタンをポチっとしていただけると非常に励みになりますので、お優しい方や続きが気になる方、「オルガくん、がんばえー!」と思った方は、是非ともよろしくお願いします!




