04話 女勇者が挑んできた
「お告げがあった。一年以内にこの世界に災いが訪れる」
お告げが降りてから、王城内は大騒ぎとなっていた。神からのお告げは、必ず現実のものとなる。
当然、民衆には知らされていない。こんなことが公になったら、この国は恐慌状態に陥るだろう。
わたしは今、大広間で城の大臣達に囲まれている中、王様の口から直接お告げの内容を聞いている。
「勇者アリスよ。災いの原因を調査し、この世界を救うのだ」
「はい、わたしの命に懸けても」
わたしは勇者アリス。かつて魔王を滅ぼした勇者の、末裔だ。
この世界の行く末は、わたしの肩にかかっている。自然と、握っている手に力が入る。
「アリス殿ならば、必ずや元凶を取り除いてくれるだろう」
「ついこの前は、山脈に陣取っていた邪龍をも討伐したのだ」
「年端も行かぬ少女に頼らざるを得ないのは心苦しいが、皆が期待している。くれぐれも頼むぞ」
わたしは今までに確かな実績を積み、数々の偉業を成し遂げてきた。それを鼻にかける気はない。
ただ、わたしがやらねばならないという使命感が、何度も挫けそうな心を支えてきた。皆の期待が、わたしを後押ししてくれる。
「して、アリスよ。世界を救った暁には余の妻として迎えよう。妾ではなく妻としての扱いだ」
無理。
この王様は事あるごとに、わたしを妻にしようと言ってくる。家臣の前ではっきり断ったら王の名に傷がつくと思い、わたしはいつも言葉を濁している。
「本来なら邪龍を討伐した後に、すぐにでも婚礼の儀を執り行う気であったのだがな」
「王よ、お告げがあった今、アリス殿の力は必要です。災いを解決した後でも遅くはないでしょう。もうしばらくお待ちになってもよろしいかと」
でもその態度がいけなかったのか、わたしと王様の婚約が既成事実になっているフシがある。王様との結婚の話が出るたびに、わたしの心は少しずつ削り取られていく。
「うむ。そうであるな。では挙式は一年後にしようではないか」
しかもこの王様は、豚みたいにでっぷり肥えていて、いつもいやらしい目で見てくる。お金も地位も興味ないし、なんの魅力も感じない。
もうこの際、ちゃんと言ったほうがいいのだろうか。
王様と結婚する気はないと、口を開こうとした時だった。バンッと広間の扉を開けて、文官が大慌てで入ってきた。
「何事だ! 重大な会議中だぞ!」
「し、失礼します! 街が、街が悪魔に襲われました‼ 貴族街にまで被害が及んでいますっ!」
「な、なんだと……っ!」
……世界に訪れる災いとやらは、案外早くやってきたみたいだ。
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どうしてこうなった。
俺の目の前では、木っ端微塵になった家々が、崩れた積み木のように折り重なっている。倒れた人々が、血を流しながらうめき声を漏らしている。視野に収まる範囲では、すべての家屋が同様に粉々になっている。
創生スキルで粉砕したからだけども。
本当にどうしてこうなったのか。事の発端は、俺が異世界を観光しようと、街に降り立ったところまでさかのぼる。
俺の頭には角が生えている。急にそんな奴が現れたらびっくりするだろうと思って、創生スキルでローブをフード付きにした。
人気のないところに降りた後、フードをかぶって街の中をぶらぶらしていた。誰にも悪魔だなんてバレていないだろうと思っていた。
だけど、街行く人の視線が俺に集中していた。それもそのはず、俺の格好はひどく浮いていたのだ。
周りの人たちはなんか貴族みたいな、装飾の多い服を着ていたり、長い巻き毛だったりしている。立ち並ぶ家も、すごい豪華な感じだ。
こんなところにフードをかぶったローブ姿の奴がいたら、そりゃあ不審に思うわな。居心地が悪いと思い、このエリアから出ようとしたんだが。
「おい、貴様。こんなところで何をしている?」
「ここは貴族街だ。貧乏人が来るようなところじゃないぞ」
見回り中の兵士っぽい二人組に、職務質問されてしまった。知らなくて悪かったよ。今、出ていくところだから。
「知らなかったなんて言い訳が、通るとでも思っているのか!」
「まあまあ、穏便に行こうぜ。坊主、フードを取って顔を確認させてくれ。今日のところはそれで済ませてやるからさ」
一人はやたら突っかかってくるが、もう一人のほうは優しい感じだな。顔を見せるだけで面倒事がなくなるなら、と思ってフードを取ったんだ。そこで事件は起きた。
「なっ!? 角が!」
「おい、こいつ悪魔だぞ! なんでこんなところに!」
顔を確認したらそれで済むんじゃなかったのかよ。二人の兵士は剣を抜いて俺に斬りかかってきた。
俺は手を軽く振るって、剣を折った。そうしたらついでに、兵士二人の頭がぽとりと落ちた。
どうやら、手を振った風圧で兵士を殺してしまったらしい。周りで見ていた貴族たちは阿鼻叫喚だった。
終いには、兵士を大勢呼ばれて戦う羽目になったので、面倒くさくて殲滅することにした。
創生スキルを発動する。
イメージは暴風。
巨大な竜巻が生み出され、人も家もすべてが巻き上がる。竜巻が去った後には、木っ端微塵になった家々が、崩れた積み木のように折り重なっていた。
回想終わり。まさかこんなことになるとはね。
でもせっかくだから、異世界の街を見物してみたい。貴族街があるんだったら、きっと王様も住んでいるだろう。
王様に会って話をするか。先に攻撃してきたのはそっちだから、正当防衛ですって言えば、街の見物くらいは許してくれるかもしれない。
ちょうど、ここから王宮のようなものが見える。あそこに向かうか。
「あんたが事件の張本人ね。派手にやってくれたじゃない」
俺の前に現れたのは、大剣を持った女の子だった。身長の倍ほどもある大剣を担いでおり、動きやすそうな皮鎧を装備している。
青い髪に青い目。髪を肩まで伸ばしており、ガラスのように透き通った目には、強い決意が込められているようだった。
「悪魔、か。邪龍よりよっぽど厄介な相手ね。災いの元凶というのも納得がいくわ」
この子、かなり可愛い。切れ長な目とか、整った顔立ちがかなりタイプだ。控えめに膨らんだ胸や、さらけ出している太ももが程よい魅力を放っている。
「わたしは勇者アリス。あなたを倒す者の名よ」
俺も自己紹介しようと口を開くが、言いよどむ。前の自分の名前は気にいっていない。それにどうせ違う世界に来たんだから、別の名前を考えよう。
……何も思い浮かばない。創生スキルを持っているから、ソウでいいかな。
いや、ソウルにしよう。魂的な響きがカッコいい。
「ダサい名前ね。どっちにしろ、倒す奴の名前なんか憶える気はないわ」
……せっかく考えた名前なのに。気に食わねえ。こいつ、絶対泣かす。




