01話 死んだら神様に出会って悪魔になった
――走ってたバイクに轢かれて死んだ。
中学でイジメられていた。
パシられたり殴られたりなどは、日常茶飯事だった。女子に人気のあるイケメンがいじめのリーダーだった。
クラスにいるよな? クラスの中心になるのは話のうまい奴、スポーツのできる奴、女子に人気のある奴。いじめグループのリーダーは、そんなのが全部うまかった。話がおもしろくてスポーツ万能で、女子にモテるんだ。
そいつが主導的にイジメてきたら、周りの奴も同調する。俺は良い標的だったんだろう。誰も助けてなんかくれなかったよ。
親は仕事で夜も帰ってこないから論外。先生も見てみぬ振りだった。注意するのが面倒だったのか、それとも俺たちが卒業するまで待つ気だったのだろうか。
生活指導の先生にいたっては、問題児はお前のほうだなんて抜かしてきやがった。授業態度が悪いとかそんなの関係ないだろ。
下校途中、俺はむしゃくしゃしてた。道に空き缶が落ちていた。何気なく足で転がしながら歩く。
世の中は馬鹿ばかりだと思った。イジメてくる奴も、先生も、何もかも。
だんだん缶を蹴る足に、力が入る。今日イジメられたことを思い出して、徐々に怒りが湧き出してくる。
転がしていた空き缶を、思い切り蹴りぬいた。缶が向かった方向にはバイクが走っていた。道の対向にいた。
運転手の頭に当たる。そのままバランスを崩して、歩道のほうに突っ込んでくる。
あれくらいで事故るなんて馬鹿だなあと思った。その馬鹿はまっすぐ自分のほうへやってくる。
俺は反応するのが遅れた。というか、立ち止まってしまった。
人間、危険が迫ると足が動かなくなるものなんだなあ、って思った。俺は走ってたバイクに轢かれて死んだ。
世の中は馬鹿ばかりだと思った。
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気づいたら真っ黒な空間にいた。
なるほどなーこれが無ってやつか。手足の感覚もないし、死後の世界ってこうなってるんだなー。
「貴様は選ばれた」
何て考えてたら、目の前にぼや~っと誰かが出てきた。
「この世界は一年のうちに滅びる」
あんただれー?
「神だ。貴様に二度目の生を与えよう」
腹の底に響くような低い声だ。
「世界を滅びの運命から救え」
いやもう俺死んでるし、地球がどうなろうがどうでもいい。
「貴様がいた世界ではない。貴様が行くところは異世界だ」
どこだろうが関係ない。世界を救うとかそんなこと出来っこないし、義理もない。
「貴様に力を与えよう。であれば文句はなかろう」
だんだん偉そうな態度になってきたなこいつ。これが女神や、のじゃロリとかだったらまだ許せた。
「そこらの者とは一線を画す力だ。これがあれば、貴様に敵はおらぬだろう」
……少し考えた。
あーそうだな。どうせ一度死んだ身だ。貰えるものは貰っておくか。いいよいいよ、世界救いに行ってくるよ。
「やる気になったか。どのような能力が欲しいか申してみよ」
何でも思い通りになる能力とかないかな。
「ならば創生のスキルを与えよう。望みのものを作り出すことが可能だ」
すごいなコイツ。言われてポンと出せるものなのか。
「ついでだ。丈夫な体に生まれ変わらせてやろう」
ご丁寧にどもー。
「では行くがよい。我が眷属よ」
そんなもんになった憶えはない。
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目を開けると、庭園の中で立っていた。目の前にあるのは城……か?
手足の感覚が久しぶりに戻ったことで、自分の体を見てみた。
何かが尻から生えていた。尻尾だった。黒くて、先が三角の形をして、尖っていた。
後は、爪がちょっと長かったり、頭の左右に角が出てたりしてたけれども、どうでもいい。
なぜなら裸だから。
こんな外で堂々と裸で立っていた。体の変化など、こんな格好の前では小さなことだ。
さすがに恥ずかしいと思うが、外で素っ裸という初めての体験に、解放感と気持ち良さを感じている自分もいる。
……後戻りできるうちに引き返そう。
見回しても服なんて落ちていない。しばらくオロオロしていたが、あの神様とやらに貰った能力があるのを思い出した。
創生スキル。
何でも作り出すことが出来る能力。
服をイメージする。自分なりにかっこいいやつを。
一瞬で出来た。出てきたのは黒いローブだった。地味なやつ。
俺はかっこいい服をイメージ出来なかった。私服なんてパーカーしか持ってなかったし。
とりあえず未文明人から脱することができた。
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目の前に城があるので、とりあえず入る。ここの王様に、世界を救ってくれとか言われるのかな。
城の中には人がいなかった。ああ、これは人間の見た目をした奴がいないって意味ね。
頭がヒツジだったりウシだったりする化け物はいたんだ。なんならホネ頭のやつもいた。まるで悪魔みたいな見た目をしている。ウシ頭の奴が俺に話しかけてきた。
「アァン? なんでお前みたいな奴が悪魔城にいるんだ? 人型の奴は立ち入り禁止だぞ!」
なんか最近、偉そうな態度とった奴にばかり会うな。
「おいおい震え上がっちまってるじゃねえか。弱い人型悪魔には優しくしてあげろよ。ギャハハハハ」
「お前も何か言ったらどうだよオラァ‼」
ウシ頭の奴が俺に話しかけた後に、ヒツジ頭とホネ頭が口汚くディスってきた。あとホネ頭の奴は、俺を小突いてきた。そいつは急に叫んだ。
「ウグァァァ‼ 手が、手がああああ!」
そいつの手はなんかグシャグシャになってた。
あれか、当たり屋みたいな奴なのかな。肩をわざとぶつけて、折れたぞおらぁ慰謝料よこせ、っていうやつ。
「てめえ、なにしやがった!」
「人型のくせに、なんか卑怯なことしたんだろ! 許さねえ!」
何もしてない。こいつらも殴りかかってきたから面倒くさくて、創生スキルで一掃しようとした。悪魔を一瞬で殺せる技を考えてたら、自分の手が輝いてレーザーみたいなのが放出された。
三体の悪魔が一瞬で溶けた。光魔法みたいなのを考えたんだが、効果抜群だったようだ。
こいつらはここを悪魔城と言ってたから、悪魔の王様とかいるんだろうか。会ったら世界を救ってくれと言うどころか、滅ぼせとか言ってきそうだけど。
あの偉そうな神の前では、素直にハイハイ言ってたけど、世界を救う気なんか毛頭ない。せっかくチートを貰えたんだから、好き勝手に生きてやる。