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豹と旅する異世界道中  作者: 伊右衛門
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茂みの中で俺はジッと息をひそめる。相手に気配を悟れぬ様、呼吸を浅くかつ深く、緊張して体が動き辛くならない様深呼吸をしてリラックスする様にゆっくりと。相手の隙を伺いつつ手元にある石の感触を確かめる。まだだ、落ち着け、焦らなければ大丈夫。


俺は相手をじっくり観察する。今日の獲物は首長亀、勿論命名は俺である。見た目はただの首の長い亀、普段は高い所にある葉っぱとか食べる一見大人しそうに見える草食動物だ。まぁここの動物だけあって体長はキリンくらいあるんだが。奴は大人しそうな見た目の割にかなり凶暴で、遠くに敵対生物がいるとそいつに向かって水鉄砲を吐く。分かりやすく水鉄砲と言ったが、俺から見たらあんなんレーザーだ、某狩人ゲームの魚モンスターの吐くビームに瓜二つ、何にでも突っ込んでいく猪さんも真っ二つにされてるのを目撃した時はチビリながら走って逃げた。しかも武器はそれだけではない、ビームを避けて近付く敵も勿論いる、だがアイツは近付くと甲羅に籠る。そしてあの長い首から飛び出すロケットの様な頭突きをお見舞いしてくる、その威力、岩をも砕く。


この説明だけだと凄く強く思えるが、奴らには結構間抜けな弱点がある。岩をも砕く頭突きだが、砕いた後、奴は脳震盪で気絶する。なんとも頭の悪い弱点だ。実際、母さんがそうやって倒したのを見た時は目が点になったものだ。ビームを避けまくって近付き、最後の頭突きも華麗に避けて岩にぶつけさせる手並みはスタンディングオベーションものだった。多分奴のロケット頭突きは最後の最後、ピンチの時にしか出さない切り札なのだろう。一応当たれば大体の相手は死ぬだろうしね。


弱点が分かったなら後はそこを突けば良い、のだがそう簡単に話は進まない。奴も獣、警戒心はとても強い。あの母さんですらたまにスニーキングに失敗する。ある一定の距離からの警戒心が強くて、まず俺では近付けない。


ならばどうするか、決まってる。警戒心外の遠距離から頭をブチ抜けばいい!奴の感知範囲は大体150メートルくらい、死に物狂いで特訓した今の俺なら300メートル離れていも当てられる自信がある!これまで散々バッタを爆散させてきた俺の力、篤と見よ!!


首長亀は呑気に葉っぱをもしゃもしゃ食べている。全然警戒してる様には見えないが、今投げても、多分当たらない。我慢だ、ここ一番の隙を狙え!!


ふと、奴が俺とは反対側の方に首を向ける。


今!!


立ち上がりながら流れる様にモーションに入る。全力で踏み込み!その力を肩から肘、指先そして石にそのまま乗せる!!


「っらぁ!!!!」


気合いと共に投げた石は、初めてバッタを殺った時よりもずっと速く、細かい木々の枝をブチ抜きながら首長亀に向かう。奴がそれに気付き、首を此方に向けるがもうオセェ!!狙い違わず奴の頭に石が命中し、石の方が爆散する!そう、バッタは爆散させられる事は出来るが、俺の投石ではここの動物に致命傷を負わせる事は出来ない、が致命傷じゃなくてもかまわない、奴が脳震盪を起こす程度の衝撃なら俺にも出せる!!


首長亀が倒れると同時に俺は駆け出す!気絶から起きる前にケリをつける!


周りの景色が緑の線になる位の速度で奴の元へ向かう!母さんの様に一瞬とは言わないがかなりの早さでたどり着く。


俺には母さんの様な牙もなければ爪もない、だからと言って武器がない訳でもない。この世界にきて、未だに進化を続ける俺の肉体そのものが俺の武器だ!


「死にっっさらせえぇぇぇぇ!!!!!」


無防備になった首長亀の首の真ん中辺りを思いっきり蹴り抜く!蹴りの威力は腕力の約三倍、強化された俺の蹴りは岩くらい難なく砕く!!痛いからそんなにやらないけど。


ボキッという音と足に伝わる確かな手応え、が、油断せずにもう一発かましておく、首が折れると大抵即死だが、こいつらの生命力は油断出来ない。念には念を、だ。


首に二発お見舞いしてから直ぐにその場を離れる、生きていた場合接近戦になると俺はまだ弱い。生きるためには慎重過ぎていけない事はない。


しばらく様子を伺う、動かない亀にもう一度全力で投石!生きているなら何かしらの反応はするはず。しかしピクリとも動かない、どうやら無事に獲物を狩れた様だ。


俺は盛大に溜息を吐く、毎度毎度のことながらこの命のやり取りに慣れない。別に殺す事に戸惑いがある訳ではなく、その逆で殺されるかも知れないという方が精神的にキツイ。しかもコッチは紙防御で向こうは鋼の鎧を着ている状態、武器もコッチはただの石、向こうは剣に銃を持ってると思ってもらえば俺の苦労も理解しやすいと思う。ゲームならマジただのクソゲーだ。


初めて狩りについて行ってから一年、俺もかなりコッチの生活に慣れてきた。この一年の間に、母さんからは主にスニーキング技術中心に学んでいった。始めは気配の消し方とか全然だったが、ふと、家族に隠れてオナニーする時の感覚や公衆トイレで大をしてる時に人が入ってきた時の感覚で気配が消せる事に気付き、そこから芋づる式にスニーキングの感覚を理解していった。今では母さん相手の練習で五割くらいは気付かれず近づける様になった。いやはや人間やれば出来るもんですなぁ。


後は自主的にやっている事でいえば毎日の日課に投石によるバッタの駆除、地道に威力底上げを意識しつつ徐々に遠くから狙う様に訓練した、今では豆粒くらいバッタが小さく見えても当てられる。バッタに関して言えば百発百中だ。


他には水辺周りの走り込み、どうやらあの辺りは母さんの縄張りらしくあまり危険な動物は近付いて来ないらしい。猪はアホだから突っ込んでくるが、今ではアイツは程のいい技の実験体になりつつある、というか猪は多分このジャングルで一番カーストが低い。多分異世界でいうところのゴブリン的な存在、弱いけど繁殖力が強く、なんでも食べる。生肉いつもご馳走様です。因みに走り込みといってもダラダラやっては意味がないので母さんを鬼にした鬼ごっこをやっている。勿論手加減してもらっているが未だに逃げ切れた事はない。少しずつ速くはなってるんだけどなぁ。


また、座学って訳じゃないが母さんにここの生物について色々と聞いている。首長亀の倒し方は勿論の事、飛んでる鳥の倒し方や獲物の見つけ方、その他諸々一応座学って事で学んでいる。最近気付いたが、どうやら俺と母さんの意思疎通は魔法っぽい。ぽいっていうのはちょっと確信が持てないというか、何とも微妙な感じなのだが、思ってる事を強く念じる、もしくは考えると、ある程度母さんに伝わる。けどなんかそれは結構アバウトな感じで感情が伝わるみたいな。そんで俺が言葉にして伝えるとより正確に翻訳されて母さんに伝わる。でも固有名詞は伝わらない。ミカンとかリンゴとかは伝わらないけど草とか土は大丈夫な感じかな?まだ良くわかってないけど、これが母さんに元々備わっている能力なのか、俺が偶然発現した能力なのか、そもそも異世界ではこれが普通なのかわからない、よって魔法っぽいって事になっている。まぁこれによって親子間のコミュニケーションは俺が話しかける事によってかなり良くなったんだけどね。母さん基本念じるだけで声には出さないしね。受信能力は俺のが優秀みたいです。


勿論訓練はこれだけじゃない。マジでヤバイ母さんとの模擬戦が月一である。何がヤバイって俺の命がマジでかかってるのがヤバイ。例えば母さんの斬撃を只管避けまくる訓練。当然避けられなければ直撃する。勿論俺は避けられない、手加減してるとはいえ、血がドクドク流れて死にそうになった事は何回もある。無理矢理筋肉によって血を止めている。しばらくすると治ってるけど、それに慣れるまでは本気で生死の境を彷徨った。基本的には回避に重点を置きつつ接近戦の練習、課題をクリアしたら次のステップ見たいな感じで今は母さんに一発良いのを入れるのが課題になってます。全くクリアできる気がしません。クリア出来ないと徐々に難易度が上がります。死にそうです。泣いて良いですかね。


ご飯に関しては最近母さんにテストとして、〜を狩ってきなさい。みたいな事をたまに言われる、今回もそれだ。基本的には母さんがとってくるが、たまに実力テストみたいな感じで出される。今の所躓かず来てるが躓いたら最後死ぬのだ。気合いを入れてやるしかない。


そんなこんなで何とか一年この世界で生き延びられた。まだまだ弱いがそこそこの獲物もとれるようになった。この調子で頑張って将来的にはこの密林を隅々まで探検できる様になりたいなぁ。


そう思いつつ、俺はさっき倒した亀の尻尾を掴んで、ズルズル引きずりながら自分の棲家に帰って行くのだった。

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