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18 謝罪と和解

          ◆



 深夜。サムソンら近衛とヴァンドーム領兵は、モルディア王城を急襲した。復帰した隠密達が警戒の薄いルートを探し出し、敵の虚を突いたのである。堅牢な城壁と門はアルベール殿下の竜巻によって粉砕、電光石火の早業で愚王を追い詰めた。


「おのれヴォルカン王!これで勝ったつもりか!今に100万の我が精兵が…」


「俺は親父じゃねぇ!何度言ったら分かるんだよ!認知症か?!」


 後ろ手に縛られて喚くモルディア王を、アルベール殿下が殴ろうとした。すかさず、カイエン殿下が間に入った。


「止めろ。もう十分殴っただろ」


「ちっ…。兄貴がそう言うなら仕方ねぇ。だがよ、落とし前は、きっちり付けさせてもらうぜ。サムソン卿!このエロジジイとピンクのアマを庭に出してくれ」


「はい」


 サムソンは命じられた通り、モルディア王と女間諜を中庭に引き摺っていった。そこは篝火が焚かれ、昼間のように明るい。アルベール殿下が地面に向かって何かを唱えると、すぐに深く大きな穴が現れた。殿下はその中に罪人を蹴落とした。


「な、何をする気だ?!」


 愚王は真っ青な顔で見上げる。桃色の髪の女は唇を噛み締め、殿下を睨みつけていた。


「根の国流の制裁だ。おい、生ゴミ持ってこい。どんどんぶち込め」


 近衛達は厨房からゴミ箱を運んだ。汚物は罪人の腰の高さにまで達した。確かに酷い侮辱だが、大した苦痛ではないな…と思っていたら、アルベール殿下が足裏で地面を打ち始めた。まるで舞踏のようだ。


(?)


 皆が不思議そうに眺める中、踊り終えた殿下は、大声で呼ばわった。


「来たれ、土を生むもの!地を這うものよ!ペレの執事が馳走いたす!」


 次の瞬間、ザァっという気配がした。そして穴の壁から続々とミミズが湧き出てきた。


「キャーッ!!」


 胸近くまでミミズが満ち、桃色の髪の女は悲鳴を上げた。さらに中庭に向かって黒い虫がカサカサと集まってきた。ゴキブリだ。数え切れない程の黒い虫は、一斉に生ゴミに向かっていった。


「ヒイイっ!助けてくれーっ!!」


「イヤーっ!!」


 罪人達の絶叫が響く。酷い。発狂するのではないだろうか。サムソンの視線を感じたのか、殿下は親指を立てて笑った。


「大丈夫!俺は1週間、耐えられた」


「…」


 そして、穴の中の罪人達に言い放った。


「おい!また俺の家族にちょっかい出したら、次は直で地獄に送るぞ!生きたままケルベロスの餌だ!覚えとけ!」


 そこへ隠密が報告に来た。ようやく異変に気づいたモルディアの諸侯が、こちらに向かっているらしい。元より占領が目的ではない。ヴォルカン軍は速やかに撤退した。


 サムソンは、“雪嵐”を駆るアルベール殿下を見て思った。


(何故、助けてくださるのだろう?)


 まるで奴隷のように生贄にされたのに。ここまでは勢いで来てしまったが、気になって仕方がない。小休止の時に、とうとう、アルベール殿下に尋ねてしまった。



          ◆



「恨む?俺が?誰を?」


 アルベールは不思議そうに聞き返した。小休止中、『恨んでいるのではありませんか?』と、サムソン卿が尋ねたのだ。近くにいたカイエンはハッとして、二人の方を見た。祖父も同様だ。皆、同じことを思っていた。


「我々です。特に、私は殿下を杭に繋げて入り口を塞ぎました。恨まれて当然だと思っています」


 サムソン卿は平伏して、深く頭を下げた。


「幾重にもお詫び申し上げます」


「良いさ。あんたは給料分、働いただけだよ。気にすんな。あれ?兄貴まで変な顔しちゃって。どうしたの?」


 カイエンは弟の顔が見られなかった。サムソン卿よりも、己の方がずっと罪が重い。だが謝罪の言葉がなかなか出てこない。


「アルベール。私は…」


「兄貴はあの『塔からドボン事件』のことだけ謝れよ。後は全部、大神官のジジイが悪い。アイツだけは許さねぇ。無垢な美少年だった俺を異界に送りやがって。お陰でこんなに老けちまった。まだ19なのに親父とそっくりって、どういうことだよ?!母さんの侍女をナンパしたら、『陛下のようで恐れ多いです』とか言われたんだぞ!」


 重い空気が吹き飛んだ。聞き耳を立てていた近衛達が口を押さえている。祖父は大笑いして、弟の肩を叩いた。


「陛下は国一番の美男で在らせられるぞ!お前も同等という事じゃないか?」


「今時、マッチョは流行らねぇ!クソ!来る日も来る日も魔物と戦ってたせいだ。仕方ないから、侍女は諦めよう。で?兄貴、どうなんだ?」


 呆けていたカイエンは、慌てて頭を下げた。


「すまなかった。アルベール。許してくれ」


「悪いと思ってんなら、金貸してくれよ」


「え?今は持っていない。幾らだ?」


 アルベールはサムソン卿を助け起こし、小さな声で訊いた。


「なあ。王都でナンバーワンのいる店って、貸し切ったら幾ら?」


「さあ。金貨50枚くらいでは?」


 全部聞こえている。弟は振り向くと、大声で兵を激励した。


「じゃあ金貨100枚だ。お前ら!帰ったら飲みに行くぞ!兄貴の奢りだ!」


「オオーッ!!ありがとうございますっ!」


 近衛も領兵も隠密も、皆が喜びに沸いた。いつの間にか東の空が白んでいる。そろそろ出発しようと、手綱を取ったカイエンはふと気がついた。


「おい、アルベール。私の奢りなら、借りた金は返さないつもりだな?」


「バレたか。後で、ダイヤか何かで払うよ」


 弟は笑って“雪嵐”の首を撫でた。兄は首を振り、


「良い。助けてくれて、ありがとう。金貨100枚なんて安いものだ」


 と、右手を差し出した。兄弟はしっかりとお互いの手を握った。それから、朝日に照らされた王太子一行は、祖国に向けて出発したのであった。


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