狂気に落ちる
毎日の置かれていく食事。
君は僕との会話をしない。
分かっているよ。
君は直視するのを避けているんだ。
未来を。
大丈夫。
僕が君の立場でも同じことをしたから。
自分の身体が随分と皺だらけになっている。
いや、そうじゃない。
僕は間違いなく死に向かっている。
それは避けられない。
分かりきっているよ。
僕は君と違って人間だから。
必ず最期には死に至る。
誰よりも愛し、繋がった人がこうなれば僕だって目を背ける。
いや、こうしなければ耐えられない。
だけど、流石に少し寂しいな。
君の姿を見られないことも。
君の声を聞けないことも。
だけど、仕方ないかな。
僕と君はずっと運命に支配されていたのだから。
今更、僕らは生き方を変えられない。
今更、僕らは考えを変えられない。
分かっているよ。
馬鹿だってこと。
君も分かっているだろう?
こんな考えに支配される僕らは馬鹿だってこと。
正気の沙汰じゃない。
文字通り、狂気の沙汰だ。
だけど、君は狂気に染まった。
ならば、僕は狂気に落ちよう。
だって、僕は君の半身だから。
君が狂気に染まるならば、僕もまた狂気に落ちる。
カミラ。
こうしていると色々なことを思い出すよ。
いや、退屈な牢の中だから。
過去を顧みるしかないんだ。
カミラ、覚えているかい?
初めて出会った時のことを。
君も僕も運命によって出会ったことを。
初めてのダンスを。
君の挑発。
僕は何故か嬉しかったよ。
あの時は意識していなかったけれど、君が対等に僕と向かい合ってくれていること。
とても嬉しかったよ。
カミラ、覚えているかい?
共に道化を演じ、役目を果たし続けていたこと。
互いに傷を舐め合うことが出来て僕は本当に幸せだったよ。
一人じゃないって、君のお陰で理解出来たよ。
そして最後のダンス。
君は最悪な事が起こるのを待っていたって言ったけれど。
本当は僕を待っていたんだろう?
だから、ドレスまで着て。
とても嬉しかったよ。
カミラ、覚えているだろう?
あの夜のことを。
束の間の出来事を。
あのほんの一時、共に運命に逆らったことを。
僕を許してほしい。
君をもっと早く抱きしめられなかったことを。
君と共に逃げられなかったことを。
カミラ、忘れないでほしい。
互いに素直になれた牢屋の中での出来事を。
僕らがようやく愛を認識出来た日のことを。
いや。
忘れるわけないか。
君がどれだけ生きようとも。
どれだけ狂気に染まろうとも。
絶対に忘れるはずないって分かっているよ。
肌の皺が増える。
力が日々落ちてくのが分かる。
少しずつ、死が迫っていることが分かる。
仕方ないよ。
僕は人間だから。
君と違って人間だから。
許してほしい。
カミラ。
ごめんね。
カミラ。
僕が人間で。
そう。
僕は夜の民じゃない。
僕は人間なんだ。
……ところでカミラ。
君の狂気と僕の狂気。
果たして、どちらが深いだろうか。
運命は僕らに劇を強いた。
君は運命に従った。
だけど、僕は……。
カミラ。
これは僕の最後の抵抗だ。
運命に背いていやる。
すみません。
こちらのエピソードは元々もっと長いエピソードでした。
しかし、あまりにも収まりが悪いため次のエピソード『最初の口づけ』として分けています。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。




