第21話 ファイヤーバーガー
「作戦を説明する」
「はい!」
「一か八かになるが、紫猪を倒すには火炎草をぶっつけ本番で試すしかない」
「はい! では取ってきます!」
「最後まで聞いてね。もちろん紫猪は採取を邪魔してくるだろう。そこでアイナには一番危険な役割だが囮を頼みたい。俺なら見つからずに採取できるからな」
「わかりました! 命に変えても時間を稼いでみせます!」
「ダメだ、命大事に、だ。ヤバくなったら逃げろ。いいか猪から逃げる時はジグザグにだな」
「逃げません、バーガー様を置いて逃げることなんてできません」
なんやこの真っ直ぐな目は惚れてまうやろ······。しかし、これで失敗イコールアイナの死になってしまった。我ながら嫌なフラグを立ててしまったもんだ。
「俺が先に行く、少ししたらアイナは反対側から出てきてくれ。毒煙に気をつけるんだぞ」
「はい!」
俺は右側から出る。背丈よりも茂みの方が長いため隠密行動をとることができる。跳ねずに這う、さながら鍛え抜かれた軍人の匍匐前進、否、バンズ前進だ。
上のバンズ(クラウン)の部分だけを180度回転させる。後方の確認をしたのはアイナの様子を見るためだ。ちょうど木の影からアイナが出るところだ。紫猪も距離を詰めてきていたので頃合だろう。
アイナは覚悟を決めたのか、紫猪に睨まれても臆することなく立っている。さっきの様子と打って変わって肝が据わるっている。希望こそが人に勇気を与えるのだ。
その間も俺はバンズ前進で着々と火炎草に近づいている。もし気づかれて突進でもされたら、この体ではひとたまりもない。
紫猪はその巨体を揺らし、ゆったりとした動きでアイナに近づいている。どうして毒が効いていないのか気になっているのかもしれない。鼻をひくつかせしきりに匂いを嗅いでいる。確かにアイナからはいい匂いがする、って、今はその話はいい。
アイナは毒矢ではなく普通の矢をつがえて構える。両者の距離が10m程まで縮むころ、アイナが先手をとった。アイナの指から離れた矢は弦に押され爆発的な加速を見せる。そして見事、紫猪の右目に命中する。
紫猪の絶叫が響き渡る。地震のような雄叫びだ。マズい、次に来る感情は怒りだ! だがアイナはその場にて次の矢を構えている。左目も狙っているのだろう。しかしそれは蛮勇と言わざるおえない。紫猪も弓矢の脅威を知った以上、容易にやらせるわけがない!
「奴の右側に回れ! 死角に回り込むんだ!」
やむおえず俺は声を張る。アイナはハッとして弓を矢をつがえたままの状態で腕を下ろし紫猪の右側に回り込む。紫猪が声のした方を見ている、つまり俺の方だ。
怒りよりも周りの状況を確認することを優先するとは、やはり初撃で突進ではなく毒煙を使う奴だ、侮れん。
俺は目の前にある火炎草を口でちぎって挟む。解析を開始する。脳内に女神の声が響く。『火炎草より火炎の吐息を検出、1回使用可能』。
おおおお! きたきたついにきたァ! 吐息系の魔法だ! ファイヤーボールではなくファイヤーブレス! マ〇オじゃなくてク〇パだ!
毒は俺の前方から放たれた、ならば今回も前方から発動すると考えよう。俺は茂みから跳ね出て、紫猪の眼前にその姿を晒す。
「挨拶はなしだ! 上手に焼けろ! 『火炎の吐息』」
バンズから放たれたのは灼熱の業火。成功だ。ちゃんと前方から放たれている、威力も想定していたものより遥かに強い。それにアイナを巻き込まないような位置取りだ。完璧に決まった。へっ、どうだ女神、脳汁出てるか? 俺はいま口から火が出てるぜ。
火炎は瞬く間に紫猪を包み込む。紫猪は悲鳴をあげて暴れ狂う。そしてその鋭利な牙の矛先は俺を目掛けて迫る。
「バーガー様!!」
跳ねてかわそうとしたところを、紫猪の執念の牙に貫かれた。下から上への突き抜けるような衝撃が走る。魂を繋ぎとめる魔法陣が欠損し意識が飛びそうになる。だがまだ女神のところに行くわけにはいかな······い。こいつを殺してからじゃないと······安心してアイナを置いていけない、ぜ。
俺はモゾモゾと動き、牙から抜け落ちると全速力で後ろに下がる。なぜカッコつけたの下がるのかって······? 上薬草といい毒草といい、どうやらこの森の植物は群生して······育つようだ。
それにしても脳みそがないのは良いことだ······死ぬその時まで思考を続けることができるのだからな。
あった······俺はもう1枚の火炎草を見つける、すぐさま齧り付く。徐々にバンズから魂が剥がれていくのがわかる。俺の魂が力ずくでバンズにしがみついている。早く魔法を······発動させなければ。
紫猪は燃えながら木々を薙ぎ倒して俺を追い詰める。
「······こんな小さい奴にやられたのが余程悔しかったようだな······賢いお前なら逃げると思ったぜ······少々買いかぶりすぎだったようだが、な」
突如、紫猪が膝をついた。紫猪の右前足の関節部分にこれでもかと矢が刺さっている。毒矢も通常矢も関係なしだ。アイナが涙を堪えて弓を構えている。······女の子を泣かせるとは······俺も罪な男になったもんだぜ。
アイナが紫猪を跪かせてくれたお陰で、紫猪の頭が近くなる。至近距離なら耐えられまい。······散弾銃のような一撃を喰らえ!
「『火炎の吐息』」
紫猪の頭を吹き飛ばしたのを確認してから······俺はゆっくりとその目を閉じた······。




