ローズちゃんが拐われました
次の日、アリエル達は12時まで自由行動とし、宿の前に集合ということで各自迷宮都市を満喫していたのだが、集合時間になってもローズが帰ってこなかった。
「ローズちゃん遅いねぇ」
「お土産でも選んでるのかしらね?」
「うーん、私ちょっと探してくるよ!」
「あっ! 待つのじゃ! ……はぁ…仕方ないの、すれ違いになると面倒じゃと言うのに」
アリエルがしびれを切らして走っていってしまうのを見て、リップちゃんが止めるが、そのまま行ってしまったので仕方なく三人は待つことにした。
一方飛び出したアリエルは、手当たり次第聞き込みをしていた。
「すみません、宝石のついた派手な服をきた女の人見なかったかな?」
「うん? …あぁ…そういえばさっきマックがそんな感じの人を連れていたね」
「マック?」
道行くおばちゃんの言葉に、やっと手がかりを見つけたとアリエルは食いついた。
「ああ、チンピラだよ、うーん…そうだ、その人何か様子がおかしかったねぇ、力が入ってないっていうか、ぐったりしてた感じ」
「じゃあ病院に居るかな? 一応マックって人が居そうな所を教えて貰える?」
「マックなら酒場じゃないかい? チンピラは酒場に溜まってるからね」
「ありがと!」
アリエルはおばちゃんにお礼を言って手を振り、走り出して、ダンジョン近くにある病院に行った。
そして到着すると、受付のお姉さんにローズって女の人来たかな? と聞くも、そんな人は来ていないと言われ、今度は酒場に向かって走り出した。
少ししてたどり着いたアリエルは酒場のドアを開けて、息を切らしながらマスターらしき人に話しかけた。
「はぁ…ふぅ、すみません、マックって人居ます?」
「ん? あぁ、ほらあそこの壁際に居るのがそうだよ」
「ありがとう」
アリエルは壁際の席に行き、茶髪の柄の悪そうな男に話し掛ける。
「貴方マック?」
「あぁ? そうだけど何だよ」
「あのさ、さっき派手な服着た女の人連れてたでしょ、どこに連れてったの?」
「そんなの知らねーよ!」
アリエルがそう聞くと、マックは少し焦り始めキレたように返してきた、その様子を見たアリエルはこいつ何か隠してるなと思い、こっちも強く出ることにした。
「知らないわけ無いでしょ、見た人がいるんだから」
「うるせーな! 知らねぇもんは知らねーんだよ!」
「はぁ…もういいや」
アリエルは冷たくそう言うと、椅子に座っていたマックの顔面を殴りつけ、うつ伏せに床に倒した後頭の上に足を乗せ体重を掛けた。
「てめぇ! 何すんだ!」
「話にならなかったからね、力付くで話して貰うことにしたよ」
「おい! マックになにやってんだテメェは!」
「邪魔をするな、するなら死ね」
アリエルはマックを助けようとした男に手を向け、風の塊をぶつけると、男は酒場の壁を突き破って外に吹き飛ばされた。
それを見届けた後、マックを見下ろして話しかけた。
「いい? もう一度聞くよ、私は派手な服を着た女の人を探してる、どこ? 言わないなら痛い目を見るよ」
「ぐっ…知らねぇ」
マックがそう言うと、アリエルは無言で風の刃を飛ばし、マックの手首を切り落とした。
「がっ、があぁぁぁぁ!!」
「どこに連れてったの? 言わないと死ぬよ?」
「わ、わかった! 女は北にある町外れの廃屋に縛ってある! ここじゃ人間は珍しいから、高く売れるんだよ! だから闇ギルドに引き渡す為に薬を嗅がせてそこに連れてったんだ!」
「…ちっ、ふざけた真似をしてくれるね」
アリエルは舌打ちをしてマックの頭を思い切り踏みつけた後、修理代と言って金貨を五枚マスターに渡すと、酒場を出て北に向かって走り出す、そしてしばらく走って、目的の廃屋に着くと、ドアを蹴破って中に入る、すると入ってすぐの床に縄で縛られて転がされているローズを見つけ、直ぐに駆け寄り拘束を取り除いた。
「あ…アリエルさん……ごめんなさい迷惑かけてしまって」
「ううん、ローズちゃんは悪くないよ、悪いのは拐った奴なんだから」
ローズはすでに薬が抜けておりしっかり立つことができた為、二人で歩いて外に出ると、さっきまでは居なかった柄の悪い男達が廃屋を囲んでいた。
「あん? 人間は一人じゃ無かったか? …まぁいいか売り物が増えたと思えば」
「ははっ! 違いないですねボス、おい! さっさと連れてくぞ」
スキンヘッドの男がそう言うと、五人の男が近づいて来た。
「はぁ…めんどくさいけど仕方ない……邪魔なゴミが減ると思えばいいか」
アリエルは不機嫌そうにぼそっと言うと、近づいて来る男に向かって右手を振った、すると男達の首が切り飛ばされ、五つの死体が出来た。
「なっ! テメェ……俺達を誰だと思ってやがる」
「知らない、でもローズちゃんを連れて行こうとしたよね、私は友達を傷付ける奴を許さない、だからお前達はに殺す事にするよ」
「いい度胸だ小娘……俺達は闇ギルド、アジ・ダハーカだ、これからお前のご主人様になる男が居る組織だ、覚えておけ」
スキンヘッドがそう言うと、アリエルは何がおかしいのか笑いだす、そしてそれを見た闇ギルドの男達は、ムカついたのか眉を寄せてアリエルを睨み付けた。
「あははは! 何がご主人様だよ、誰がお前達みたいな汚いゴミの物になるか! それに何が闇ギルドだよ、ただの社会不適合者と犯罪者が集まるゴミ溜めでしょうが、そんな集団に闇なんて勿体ないよ……そうだ! ゴミギルドってどうかな? お似合いだと思うよ」
アリエルはケラケラ笑いながらボスと呼ばれていたスーツの男を指差した。
するとスーツの男はこめかみに青筋を立て鋭い犬歯を見せつけていた。
「早く捕まえろ! 絶対にこいつの血を吸って後悔させてやる」
「無理無理、お前達は苦しんで死ぬんだから、《我は望む、絶望に満ちた死神の呪いを》ディスペアーカース」
アリエルがヘラヘラしながらその呪文が発動すると、スーツの男以外の男は全員苦しみだし、倒れこんだ。
「…おかしいなぁ…効いてないね」
「あの男吸血鬼です! あの鋭い歯に赤い目、間違いありません!」
ローズにそう言われ男を見ると、確かに剥き出しにしている歯は鋭く、目は赤かった。
アリエルは納得した、吸血鬼は闇の属性の耐性が強い、だからディスペアーカースが効かなかったんだと。
「ふっ、自慢の魔法は俺に効かなかったようだ、残念だったな……これで終わりだ」
「お前がね、《我は望む、闇を消し去る光の柱》サンライトフォール!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アリエルが発動したサンライトフォールは光の無い星空から吸血鬼に太陽の光の柱を落とし、吸血鬼はその光に焼かれ、悲鳴を上げながら燃え上がり、やがて灰になった。
「流石ゴミギルドだね、とんだ雑魚だったよ……さぁそろそろ帰ろっか、皆心配してるよ」
「はい!」
二人は男達の死体と苦しむ男達を放置し、リップちゃん達の待つ宿屋に向かって歩き出した。
そして戻って事の全てを報告すると、三人は酒場で暴れたのはアリエルだったのかと呆れた顔をし、その騒ぎでマックと吹き飛ばされた男が死んだことを教えてくれ、リップちゃんは兵士に事情を話してマックと吹き飛ばされた男が誘拐犯だと言うことにしてくれた。
そして五人は自宅である魔王城へ帰っていった。




