人間の偏見
団子屋のおばちゃんつえー! 説
あたいの名前は小野塚小町。語り手になるのは初めてだね。結構最初の方から登場はしていたと思うんだけど……それ以外にも色々登場しているハズなんだけど……しょうがないと思っておくよ。楽冶にも色々あったんだろうしね。
さて。今あたいは、楽冶と一緒に四季様のところに向かっている。四季様というのはあたいの上司で、いつも小言を言ってくる人だ……いやあたいが仕事サボってるからっていうのは理解してるよ?
あたいが死神をやっているのは知っていると思う。そして死神は任されている場所の魂を運んでいかなければならないのだけれど……幻想郷って生物自体が少ない為か、全然魂がこなくて暇なんだよ。
だからよく昼寝してるんだけど、それを四季様に見つかって怒られてる訳さ。だからあたいが悪いんじゃなくて魂がこないのが悪いんだ。
だからって天災とかで大勢死ねばいいのに。とかは全然思ってないけど。
「あー。楽だぜ暇だぜ。だがそれがいい」
「そうかい。それはよかったよ」
そんなあたいが船に人間を乗せて三途の川を渡っている。
といっても仕事をしてる訳じゃないんだけどね。だって人間を乗せちゃいけないし。本当は怒られるだろうけど、こいつなら四季様も許してくれるだろう。
先ほど漕がなくてもいいと言われたのであたいは船頭近くに座っていて、今話した相手は寝そべっている。その人間の名前は楽冶。結構変なやつだ。生身で三途の川を渡った経験もあるし。今もだけど。
「疲れてるからちょっと寝ていいか?」
「……そのまま死んでも知らないよ?」
「大丈夫だ。目の前の死神が救ってくれる!」
そう言うと本当に寝てしまった。まだ数秒しかたってないのに。
それにしても三途の川を渡ってる船で寝るなんて……
「本当に変なやつ……」
心底。そう思った。
初めて楽冶と会ったのは人里だったと思う。
死神の仕事は今日も今日とて暇であった。あたいはあまりにも暇だったので、三途の川を渡った後に人里へ休憩に行った。けっしてサボりではないよ?休憩だ。
あたいは行きつけの店である団子屋に寄ることにした。人里の中では、あたいを差別……という程ではないが、余所余所しくなる。それはあたいの種族が死神だからであろう。死神は別に生者の魂を無理矢理持っていったりしない。だが、書物などでそのように書かれることが多いため、そういう偏見ができてしまうのだ。
その中でも、この団子屋の人はあたいを普通の客と同じような態度で接してくれる。そんな団子屋をあたいは結構拠り所としていた。
人里では団子屋などの甘味所が少ないため、昼間は混雑していることが多い。今日は席は満席……と思ったら二人用のテーブルが一ヶ所空いていたので、そこに座ることにした。
ガラガラとドアを開けてあたいが入った瞬間に、少しだけ空気が変わった気がした。それは意識しないと分からないようなものだけれど、本人だから分かる。
「おばちゃーん!いつもの!」
「あいよー!」
愛想のいいおばちゃんに団子を頼む。ここはできたての団子がすぐにでてくるのも好感が持てる。冷めているのが好きという人もいるので、作り置きもしているらしい。
「はいよ。小町ちゃん久しぶりだねえ」
「あー。最近はちょっと忙しくて……」
「そうかいそうかい」
適当な相槌をうってくれるおばちゃん。本当はただ単にそういう気分にならなかっただけなんだけど。まあいいかな。
「おばちゃん。こっちにも頼むよ!」
「あいよー!じゃ。またね」
他のお客さんの注文に応えるため、おばちゃんは席から離れていった。
暇だー。と思いながら団子を食べる。だけど暇で暇でしょうがないから、これからどうするかを考えることにした。
……彼岸に行こう。四季様に怒られる前に。
すぐに決まったのはいいけれど、結局帰っても暇なのに変わりはないと思ったので、ここでのんびりすることにした。
周りの人間たちも少しずつあたいを気にしなくなってきたようで、店の中が騒がしくなってくる。そこでガラガラっとドアが開く音がした。もちろん先程から何回か音が聞こえているが、今回は閉まる音がしない。周りを少し見てみると、入店退店がほぼ同じ数だったらしく、まだ満席状態だった。
あたいもまだ団子が残っていたので、少し申し訳なく思いながらも、退席はせずに団子を食べていた。
ガラガラ。パタン。と今度はドアを閉める音。その音を聞いてから数秒後
「悪いが、相席いいか?」
「…………」
あたいは団子を持った手を、口を開けた状態で止めて、男を見上げた。だってまさかあたいのところに来るとは思ってなかったから。先ほど言ったように、あたいは死神という肩書きで偏見を受けている。
あたいを知らないのかと思い、とりあえず聞いてみることにした。
「あたいが誰か知ってるかい?」
「え?いや。すまないが全然知らないぞ」
「そうかい……まあいいよ。相席どうぞ」
どうやら知らなかったらしい。それはそれでいいけれど、もし前に座っているのが死神だと分かったら、この男はどんな反応をするのだろうか。
それが気になったあたいは、好奇心から男が注文をした後に言ってみることにした。
「ねえねえ」
「ん?どうした」
「あたいが誰だか分かるかい?」
「さっきと同じ質問だろそれ……すまないが分からないな」
そこまで言ったところで、おばちゃんが団子を持ってくる。この男は冷めてる方が好きなようだった。
「実はあたい……死神なんだ」
「へえ……そうか」
ただそれだけ言うと、男は団子を食べだした。
楽冶との最初の出会いは確かこんな感じだったと、あたいは思う。
楽冶そんなに可愛い娘たちと会って疲れるとか何事。




