1-6 お化粧くらくら作戦!
私が寮に戻ると、セリーヌが私を待っていた。
「おかえ...うわ~びしょ濡れね。風邪をひかないように早く拭いて。」
私は、さっと着替えて身支度を整えた後、セリーヌに第一作戦失敗の報告をした。
「失敗の大きな原因はーー野菜だったことよ。ロラン様は野菜があまりお好きじゃないのかも?」
「そうよね。十六歳くらいの男性だったら...肉よ!育ち盛りですもの。野菜だけじゃ大きくなれないわ。」
セリーヌにそう言われ、気づく!
「そっちか!?もう私ったら自分の好きなものにしちゃったから...相手のことを考えるべきだったのよね。しっぱい!」
私も深く反省した。自分のことを押し付けすぎないことが大事よね。相手が、「あ~この子、僕のこと考えてくれてるなんて、いいな~」なんて思ってもらえるようにしなくちゃ。
「私ね。読書が趣味なの。特に好きなのがロマンス小説。男女の恋愛にはちょっと詳しいのよ。残念ながら、婚約者もいないからどこにも試すところがないんだけど...分かったわ!もう、全面的にアリシアに協力しちゃう。頑張りましょう!」
なんとセリーヌの頼もしいこと。
恋愛のカリスマ!
もうセリーヌにアドバイスをもらえば怖いものなんてないんじゃない?
そうして、私たちは次の作戦を立て始めた。
「ロマンス小説を見ると、最初はやはり見た目。第一印象が特に大事。でも、アリシアはもう何回か会ってしまったんでしょう?」
セリーヌに言われて気が付いた。初日の顔合わせは、せっかくおしゃれをしたけどほとんど見てもらえなかった。今日なんて、何もおしゃれしていない!
ーー負けた!
この試合に私は最初から負けていたのだ。
「セリーヌ先生。それでは、次の作戦はどうしたらいいのでしょうか?」
私は、椅子にきちんと座り直し、背筋を伸ばして質問した。
「アリシア君。次の作戦は、ーーお化粧するんだよ。名付けて『お化粧くらくら作戦』いつもと違うアリシアを見て、一気に恋の花が咲いてしまうかもしれないわよ。そんな素敵なアリシアを見て、くらくらとめまいを起こさせましょう!」
セリーヌが右手を上げて立ち上がった。
「セリーヌ先生。ありがとうございます!私、この作戦が成功するように全力を尽くすことを誓います!」
私も立ち上がり、宣誓を果たした。
しかし、残念なことに、二人とも一度もお化粧をしたことがなかった。
しかもーーお化粧道具すら持っていなかった。
そこで、私がお世話になっている寮の食堂のおばさまに相談して、お借りすることにした。
「私が持っているのなんて、ずいぶん前に使ったものばかりだよ。若い子に合うかどうか...?」
おばさまは、心配そうにそう言ったが、こちらには何といってもセリーヌ先生がいる。
「高価なもの、お借りして申し訳ありません。このご恩は、今度領地からのおいしいお野菜をお分けいたしますので...」
そういって、お化粧の道具を借りてきた。
あとは、セリーヌ先生にお任せだ。
借りたもののため、無駄遣いするわけにもいかずーー
また、男子寮の談話室の予約が取れた日に作戦を実行することに決めた。
あの、『リメイクドキドキ作戦』から、一か月が経とうとしていた。
服装は、私が一番お気に入りの緑のワンピースを着て準備は万端だ。
「なかなか難しいわね~これってどこにつけるのかしら?せっかくお化粧するのだから、このくらいしっかりつけないとパンチが効かないのよね!」
セリーヌ先生は、一生懸命私のお化粧をしてくれている。
私は、お化粧している間、目をつぶっているので何が起こっているのかよく分からない。
そうして、しばらくするとセリーヌ先生から声がかかる。
「さあ!目を開けてちょうだい。私の最高傑作の完成よ。」
私は、ゆっくりと目を開けていく。
なんだか、世界が光り輝いて見えた。
自分がひどく大人になったような気がしてきた。
「セリーヌ先生、ありがとうございます。それでは、私、さっそく作戦を実行してこようと思います。おほほほほ...」
私は、まっすぐ男子寮に向かった。
なんだか、私を見た途端ーーみんな無言で視線をそらしていく。
きっと、まぶしすぎるのね。ごめんなさい。
そうして、談話室でしばらく待っているとーー
また、お約束のようにあの会話が聞こえてきた。
「ロラン!今度は一目くらい見せてくれてもいいじゃないか?そんなに自分だけのものにしておきたいのか?お前、独占欲の塊だな~」
「何言ってんだよ!違うから~!いいから、あっちに行ってろ!絶対見るなよ。見たら絶交だからな!」
そう言って、また少しだけ開いた扉からロラン様が素早く入ってきた。
そして、何か言おうとこっちを見て...
「ひぃっ!」
固まっている。そんなに魅力的だったかしら?刺激が強すぎた?
「ロラン様。お久しぶりです。私、婚約者のアリシアです。」
セリーヌ先生に教えてもらったように、小首をかしげて微笑んでみた。
「お前、大丈夫か?いいか。僕が婚約者だなんて誰にも言うなよ。絶対だぞ!それが守れるなら、今度少しだけ話に付き合ってやる。いいか。婚約者だと絶対言うなよ。
あ!それから次会うときはぜ~~ったいに化粧はしてくるな!約束だぞ。」
ロラン様は私と初めて目を合わせて会話をしてくれた。しかも、次の約束まで取り付けてしまった!
「嬉しいです!化粧するより素顔の方が好きだということですね。分かりました。次は、絶対に化粧をしないで会いに来ます。待っていてください。」
私は、嬉しくて両手のこぶしを握って答えた。
「今日も俺が先に出る。お前は、俺が出てから百数えて出るんだぞ。それもゆっくりだ。それじゃあな。」
ロラン様は、扉を極限まで狭く開け、さっと素早く出ていった。
何だろう。作戦成功では!?次の約束まで!
私は、嬉しくなって何も考えずに扉を開けてしまった。
「あっ!」
扉を開けた先に、一人の男性がいた。
「ぶつかってしまいましたか?申し訳ありません。」
私が、何も考えずに開けてしまったばかりに...潔く頭を下げた。
「いや。大丈夫だよ。それより、君は大丈夫だったかい?」
何と優しい。ぶつけたのはこちらなのに、私の心配までしてくださるなんて。
「大丈夫です。それではこれで...」
そう言って、男子寮を後にした。




