2-13 ロランside
晴れて自由の身となった僕は学園生活を謳歌していた。
それにしてもエリザベス嬢はかわいい。
僕の婚約者はこういう人でないと。
僕と同じ侯爵家の令嬢。しかも、美しい。僕とお似合いではないか。
エリザベス嬢は、服装センスがいい。制服ですら、何着もあって、常に流行の先端を行く。
僕は、いつもドキドキさせられっぱなしだ。
エリザベス嬢は、いつもきれいにお化粧しているのか大きな瞳が印象的で、口紅の色もその日の気分によって変わっている。
僕は、そんなエリザベス嬢を見るとくらくらしてしまう。
エリザベス嬢は、時々おいしいお菓子を手作りしてくれる。王都のお店のお菓子と同じ味、いや、それ以上においしい。
僕は、そんなエリザベス嬢にメロメロになってしまった。
おまけにエリザベス嬢は、僕が思っていることをかなえてくれる。デートに行きたいなと思っていると、かわいくおねだりしてくれる。手をつなぎたいなと思っていると、人が多くなったからつないでと甘えてくる。
僕は、そんなけなげなエリザベス嬢を婚約者にしたい!
でも、それには、まずあいつ!アリシアと婚約を解消しなければ...
父上が友達の娘だからと僕の婚約者に選んだんだけど、なんだか言いづらいんだよな。どう言えばいいのか...いつ言おう...
なかなか言えないまま、エリザベス嬢と毎日楽しく過ごしていた。
そんなある日。
「素敵なレストランがあるの。明日行きたいわ。」
エリザベス嬢にそうかわいくおねだりされたら、行くしかないだろう。
授業は休むことになってしまうけれど、エリザベス嬢との時間の方が大切だ。
その日は、男子寮に、僕宛の荷物が届いたと連絡が来ていた。
エリザベス嬢とデートの時間が迫っていたため、荷物を受け取ってそのまま出かけた。
レストランに行くと、とても高級で値段も高かったが父上に連絡すれば、またお小遣いを増やしてもらえるだろう。
実は、最近エリザベス嬢とのデートでかなりの出費が重なっていて、お小遣いが足りなくなっていた。
侯爵家の僕がお金がないなんて言えないだろう。かっこ悪い。
エリザベス嬢のかわいいおねだりに僕は弱いんだ。
何でもかなえてあげたくなる。
高級な場所でのおいしい食事。美しい彼女...最高の気分だ!
「ロラン様。いつもありがとう。今日もこんな素敵なところに連れてきてくれて嬉しいわ。」
エリザベス嬢は、いつもこうやって感謝の言葉をくれる。
こういうところもいいんだよな。
「そんなに喜んでくれるなら、毎日でも連れてきたくなる。また、二人で来ようね。」
僕が、そう言うとエリザベス嬢は両手を組んで嬉しそうに僕を見つめる。
「ねえ。ロラン様。その荷物は何ですの?」
エリザベス嬢に言われて思い出した。
「寮に届いていたんだよ。ちょっと開けてみようかな。」
僕がそう言って、荷物を開けると中からピンクの何かが出てきた。
「何だこれ?」
僕が不思議に思って、隅々まで見ていると...
「ロラン様。それって、今すごく人気でなかなか手に入らないポプリですわ。
しかも、ピンクということは”恋のポプリ”なのでは...
はあ~うらやましいですわ~
あまりに人気で現在は一家族各種一点までなんですの。
やっと手に入れたのに、恋のポプリはお姉さまにいってしまったの。
私も欲しかったのに...」
あまりにエリザベス嬢が悲しそうだったので、思わず僕はすぐに声をかけた。
「よかったら、君にプレゼントするよ。」
そう言って、すぐにピンクのポプリを手渡した。
「本当に!?あ~ロラン様ったら本当に素敵な方ね!嬉しいわ。
あら!こんなところに茶色い何かが刺繍されているわ。これって珍しいのでは!?
でも、これを送っていらした方はどなたなのかしら...
あら?ジャム叔父さん?ロラン様、ご存じ?」
ジャム叔父さん?誰だ、それは?しかも、得体のしれない刺繍まで。
なんか、怪しい...そんなことをする奴は、あいつしかいないのでは...
僕は、妙に背筋がすうっと冷えてきて、思わず両腕をさすってしまった。
ーー全て、知られているのではないか?
これは、腹をくくれということか?
このあたりが潮時か?
父上に連絡して、報告して、アリシアのところに謝りに行くしかないか。
そう思ったら、不思議と気持ちがすっきりとしてきた。
もしかしたら、この”恋のポプリ”、僕とエリザベス嬢の恋を応援してくれたのでは?
だとしたら、すごい効き目だ。
実は、茶色い何かの刺繍。
ーーーそれはもちろん!アリシアがロランのために刺繍した”肉”だった。
そうして、後日ーー
父上に連絡して、学園での休みを取り、話をする時間をいただいた。
「父上、申し訳ありません。僕は、本当に心から思う大切な人ができました。
ーーアリシア嬢との婚約を解消させてください。」
僕は、父上に真摯に謝った。
父上には、もちろん叱られたが、僕の本気の気持ちを知ると一緒にアリシア嬢の家に謝りに行ってもらえることになった。
アリシア嬢の方の考えによって、どうなるかまだ分からないとは言われたが、それは仕方のないことだ。
とにかく、心から謝罪しなければならないと思った。
そうして、初めて訪れたグランベル伯爵領。
貧乏な伯爵家と聞いてはいたが、なんだか領地に活気があって、みんな楽しそうに生き生きと働いている。
領地の道路もなんだか整備されていて、うちの領地より立派なのではないか?
そう思いながら、グランベル伯爵家を訪ねるとたくましくも優しそうな男性が出てきた。
顔合わせの時にほとんど目を合わせなかったから分からなかったけど、きっとグランベル伯爵だろう。
「遠いところ、よく来てくれたね。さあ、中に入って。」
そう言って、中に通してもらった。家の中には、ポプリが飾ってあって、とてもさわやかな香りがした。
通された部屋には、優しそうなおそらく伯爵夫人と一人の美しい女性ーー
えっ、アリシアか?アリシアってこんなにきれいなんだっけ?今までまともに顔を見たことがなかったから気づかなかった。ちょっと...いや、ダメだ。今日は、お願いに来たんだ。
「今回は、本当に申し訳ない!うちの息子に思う人ができてしまった。アリシア嬢と婚約していたのに。全てはこちらに非がある。どういう判断をしても受け入れる覚悟だ。お前からもしっかりと謝罪しろ!」
父上に言われた。
「本当に申し訳ありませんでした。僕がすべて悪いんです。」
僕も、しっかり頭を下げた。
「まずは、頭を上げてくれないか。私は、娘に幸せになってもらいたい。だから、とにかく娘の気持ちを聞いてみたい。アリシア。お前はどうしたいんだい?」
伯爵は一瞬悲しそうな顔をしたが、アリシアに向かって優しく問いかけた。
「私は、婚約解消を受け入れます。この家にとって何も不利益にならないのであればそれで構いません。お父様同士の関係も悪くなってほしくはないんです。
だからこれからは、一領地同士として対等に過ごしていければと思っています。」
アリシアは、きっぱりと言い切った。
父上が驚いたように、アリシアを見ている。
「アリシア嬢。本当に申し訳ない。この伯爵領と君たちには、何の不利益もないようにすると約束する。更に今後は、グランベル家に何でも協力することを誓おう。本当に君の寛大な判断に感謝する。」
そう言って、僕たちは伯爵家を後にした。
なんだか、今日のアリシアはひどく大人に見えた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
このお話で2章最後となります。
次回から3章です。




