2-9 嬉しい訪問
「久しぶりね!アリシア。元気だった?」
元気に手を振りながら、私の家に遊びに来てくれたのは学園で仲の良かったセリーヌだった。長い休みに入ったので、しばらくうちに泊まってくれるのだ。
「セリーヌ!遠いところ来てくれて嬉しいわ。私の家族を紹介するわね。」
私は、セリーヌに家族を一人ずつ紹介した。
「よく来てくれたね。学園では仲良くしてくれてありがとう。今日はおいしい野菜をたくさん出すから、楽しみにしておくれ。」
私が学園での様子を話していたため、家族みんなセリーヌに感謝の気持ちを伝えたいと楽しみに待っていたのである。
「うわ~楽しみです!アリシアに領地の野菜は味が濃くておいしいって聞いていたから、食べてみたかったんです。」
セリーヌも、私と同じ肉より野菜派だ!今日は、とことん二人で野菜談議ができそうだ。楽しみ!
「私もごちそう作るわね。アリシアのアイデアでおいしい料理の幅が広がったのよ。楽しみにしていてね!」
お母様も負けじと歓迎の意を表す。
「私もお手伝いします...というか、おいしいレシピを私にも教えてください!アリシアのお料理はいつもおいしかったからアリシアがいなくなってからちょっと物足りないと思っていたんです。」
なんでも、私が学園を休んでから...
女子寮では、あの試行錯誤中の野菜クッキーが流行りだし、誰も再現できずにあの味を恋しがっているというのだ。女性にはやはり野菜よね!私はより確信した。
しかし、なぜか男子寮でも野菜クッキーを作った人探しが始まって、依然誰なのか分からないままブームになっているとは...
「セリーヌ様。まずはグランベル領特産のジャムを付けて、スコーンをどうぞ。」
エドワードもすっかり歓迎ムードだ。
「えっ。ジャムって!今はやりのジャム?グランベル領特産なの?」
セリーヌは驚きに目を丸くした。
「そうなんだよ。アリシアが思いついて、商会に取り次いだらあっという間に流行って...正直驚いているよ。とにかくおいしいから食べてみてくれ!」
お父様も領地自慢のジャムを勧めている。
「うわ~。いろいろな種類があるのね。瓶もかわいらしい!ロマンス小説にも...」
腕を組んで考え始めてしまったセリーヌに声をかける。
「ほら。セリーヌったら、食べてみて!このイチゴジャムが私のおすすめね。」
我に返ったセリーヌは、初めて食べるジャムに期待を寄せながら、一口頬張る。
「おいし~い!イチゴの粒のプチプチとした食感も感じられていいわね。すごいわ!」
そうして、何種類ものジャムを試しすぎて、お腹がいっぱいになってしまったのは仕方のないことなのか...
夕食ではさらに、
「何このサラダ!一つ一つの野菜がみずみずしくて、本当に味が濃いわ。素材だけでこんなにおいしいだなんて...そりゃあ、アリシアも自慢に思って刺繍をしちゃうわけね。」
セリーヌが、野菜のあまりのおいしさに刺繍のことを思い出す。
「そうなのよ。この子ったら入学前の忙しい時に毎晩何かしているかと思ったら、領地の野菜の刺繍だなんて...」
お母様は、仕方のない子と言う顔をしてため息をつく。
「本当に領地思いの強い子なんだから。ジャガイモは色が地味だからニンジンとかにすればもっとよかったのに...」
お母様の言葉に、目頭が熱くなる。
「でもですね。ニンジンの赤はトマトの赤と一緒になって目立たないので、黄色の野菜を入れるという方法も考えられますよね。」
なんと、セリーヌも負けてはいない。
「姉さま!普通の女性は野菜なんて刺繍はしませんよ。」
エドワードの声に場が凍る。
「エドワードも男性だから、やっぱり肉派?」
私は、恐る恐る聞いてみる。
「はあ~。姉さま。野菜も肉も普通はあまり食べ物の刺繍は好まれません。姉さまだったら、きれいな花なんかが似合いそうです。」
エドワードに言われて、考えてみる。
「う~ん。領地の花といえば...あ!ジャガイモの花!トマトの花!ピーマンの花は小さいか。なるほど、その手があったわね。」
私がそう言うと。
「斬新ね!さすが、アリシア。目の付け所が一万点!今度、そんな刺繍をしたら、私にも見せてね。」
セリーヌの大絶賛に私もうれしくなって、近いうちに見せることを約束した。
そうして、夜は寮の時のように一緒に眠ることにした。
「そういえば、アリシア。私ね。あのあと、ロラン様のこと時々見かけていたの。」
セリーヌが私に気を遣いながらも、ゆっくりと話し出した。
「え?ロラ...?って誰だっけ?」
私には、まったく記憶がない。
「ちょっといくら何でもそれはどうなの?あなたの婚約者じゃない!」
セリーヌが驚いたように私をじっと見つめてきた。
「ん?あ!そうだった。思い出しました。肉好きなロラン様!いましたね。」
すっかり忘れていた自分にもびっくりした。ちょっとジャムとハーブのことで頭がいっぱいだったからね...
「まあ、その程度ならいいんだけど、まだ婚約者なんでしょう?今、ロラン様ったら侯爵令嬢と親密そうにしているわよ。どうするのよ。」
セリーヌは私を心配してくれて、ロラン様のことを知らせてくれたのだった。
「う~ん。どうでもいいんだけど、そのうち確実に婚約は解消するわ。むこうの有責で解消したいから放っておいたんだった。もし、ロラン様がその侯爵令嬢と結婚したいとなれば私の思うつぼなんだけどな~
そうだ!今度ロラン様に匿名で”恋のポプリ”贈ろうかしら...やっぱり名前は...ジャム叔父さん?にする?それしか、良さそうなの思い浮かばない!」
私がぶつぶつと自分の思考に入っていると、セリーヌの驚きの声に思考を中断した。
「えっ。今ポプリってすごい人気で品薄でしょう?匿名で送っちゃうなんてもったいないわ。私が欲しいくらいよ。」
セリーヌに必死に止められた。
「あら、言ってなかったっけ?ポプリもこのグランベル領の特産なのよ。欲しかったらあげるわ。何のポプリが欲しいの?」
私が、セリーヌに何気なく聞いた。
「それも、グランベル領の特産なの?もう、アリシアったら、あなたの領地ってすごいのね。というか、あなた全然貧乏じゃないじゃない?どういうことなの?」
そこで、私が学園を去ってから、あったことをかいつまんでセリーヌに説明していった。
「アリシア。あなた、領地のことを思って頑張ったのね。さすが、私の生徒よ。あなたのその発想力は一億点よ。」
セリーヌもしみじみと嬉しそうに私を見つめる。
「これも、セリーヌのおかげでもあるの。学園ではセリーヌがいたから楽しく過ごせたんだもの。セリーヌ。本当にありがとう。これからも仲良くしてね。」
私が、セリーヌに向かって手を差し出した。
「何言ってるの。私こそ、あなたといて楽しかったんだから。これからも、私をわくわくさせてね。」
セリーヌも手を差し出し、二人で仲良く握手を交わした。
久しぶりに会って、話が尽きない二人だった。




