2-6 次の領地の特産物は?
ジャムの販売が始まってから数か月。
ランバート商会で売り出されたジャムがエーレンベルク公爵家のパーティーで提供された。
それによって、貴族の間でジャムが流行り出し、我が領地の特産物といってもいい勢いだ。
「アリシアちゃん。ジャムが売れているんだってね。おかげで今年はうちも助かっているよ。」
「うちでも食べたいと言われちゃって、いろいろ試して作ってみてるよ。」
少しでも、うちの領地が潤えばいい。
そういう気持ちで始めたけど、本当によかった。
でも、ジャムだけでは、流行り廃りもあるから心配だ。
これから、もっと特産物を探さなくては...
そう思って、また領地を見て回った。
でも、そんなにすぐ見つかるものでもない。
その時。
「お姉ちゃん。この前は、おいしいジャムを食べさせてくれてありがとう。これ、あげる!」
そう言って、女の子が私に手渡してくれた、かわいい花束。
このあたりの草原で摘んでくれたんだな。
「ありがとう。とてもいい匂いだね。」
私が、花のにおいをかいでそう言うと、女の子は笑顔で走っていった。
あれ?このにおい!知ってる...
ーーラベンダーだ!これって、ハーブじゃない?
他にもないかな?
うわ~。ただの草原だと思っていた場所にカモミールもある。
私は夢中になって周囲を探し始めた。
そしたら驚いたことに、私の領地には結構な種類のハーブが見つかった。
もしかしたら、この世界にはハーブなんてないのかも。
今まで、ただの草だと思っていた?
それなら、これもほとんどお金をかけずに領地の特産物に変えていけるのでは?
前世では、確か疲れた時にハーブのポプリなんかを枕元に置いて寝ていたっけ。
そうして、私は領地のハーブを集め始めた。
数日かけて集めては、乾燥させていった。
併せて布や糸を準備してまた、領地の女性たちを集めた。
「アリシアちゃん。今度は布の切れ端や裁縫道具を持って集まれってどういうことだい?」
みんなには、前回同様、なぜそんなものが必要なのかまるで言ってなかった。
「とりあえず、皆さん。このにおいを嗅いでみてください。」
私は、試作で作った小さなポプリをみんなに渡していった。
「かわいいけど、においを嗅げだって?どれどれ。あら、さわやかな香りだね。」
「こっちは甘い香りだよ。私は好きだね。」
「うわ。こっちはちょっと刺激的だよ。」
それぞれが、ポプリの香りを嗅いで口々に感想を言う。
「実は、この中身は領地に生えているただの草で~す。」
私が大げさに言うと、みんなは目を大きくして驚く。
「草!?これ草なのかい?こんないい匂いの草なんてあったかね?」
信じられないといった表情をする。
「いろいろな種類の草が生えているんですよ。これらは、実はただの草ではなくて、「ハーブ」と呼ばれるものです。
皆さんを今日お呼びしたのは、このハーブを使ったこのポプリを作ってもらおうと思ったんです。
皆さんが持ってきた布の切れ端でもいいし、ここに集めた布でもいいので、一種類のハーブを入れて作ってみてくれませんか?」
私は今日の目的をみんなに話した。
「もしかして、これもまた領地の特産物になるのかい?」
もうみんな勘が鋭くなってきている。
期待してくれているのが、すごくうれしい。
「その通りです。また、領地にあるありふれたものを使って、特産物に変えちゃいま~す。やってみましょう!」
そういって、みんなでポプリを作り始めた。
ある程度の数ができたところで、また、ランバート商会に連絡を取ってもらう。
もちろん、連絡役は執事のユリウスだ。
「またなんか面白いものができたんだって...?」
また、商会長のルシアン様自ら来てくださった。
「まずは、このかわいい布で出来たもののにおいを嗅いでみてください。」
私がそう言うと、ルシアン様はいぶかしげな顔でポプリを手に取った。
「ん?甘いにおいがする?」
そう言って、次のポプリを手に取る。
「こっちは、刺激的なにおいだぞ。」
「うわ~。こっちはスースーするようだ。」
そうして、しばらくポプリのにおいを確かめると真剣な顔で私の顔を見る。
「この中身は何だい?」
そこで、私は領地からとってきたハーブの数々を見せた。
「領地にあった”ただの”草です。」
私がそう言うと、
「確かにその辺にありそうな草だな。でも、こんな香りを感じたことなかったな?」
ルシアン様も不思議そうだ。
「乾燥させて、こういった袋に詰めます。この香りの強い草のことをハーブと言います。このハーブは香りをかぐことで気分を落ち着けたり、ゆっくり休みやすくなったりすると言われています。」
私が説明すると、ルシアン様は更に目を丸くして驚く。
「ハーブっていう草にそんな効果があるのか?」
「はい。だから眠れない人が、枕元に置いたり、気分を落ち着けたい人が持ち歩いたりして使えるんです。どうですか?商品になりそうですか?」
私は、ハーブがこの世界で受け入れられるのかちょっと心配しながら聞いてみた。
「は~~~~っ。全く、かなわないな。」
ルシアン様は、頭を抱えてしまった。
(だめだったかな?こちらの人にとっては、ただの草だものね?今回はがっかりさせちゃったかな...)
私が、悲しくなって下を向くと、ルシアン様が驚いて顔を上げた。
「そんなにがっかりするな!反対だよ。絶対売れるよ。もう、君の発想に驚いているだけなんだよ。」
ルシアン様は身を乗り出して、私に語り掛ける。
「よかった~~。商品になるんですね。今回は駄目かと思いました。」
私は安心して、お父様にも同席していただいて、ポプリの契約を始めた。
もちろん、商品化に向けてはランバート商会のアドバイスをいただきながら進めていった。
少しでも、領地の発展の足しになるように...
しかし、もちろん足しなんてレベルじゃないくらい広がっていくのだが。
この時の私には、まだ分かっていなかった。




