表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やまびこカウンター  作者: オオムラサキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/20

第二十夜 佐藤悠斗の視点 ~初めての「心」~

 俺、佐藤悠斗は四日目の夜も「やまびこ」のエプロンを締めていた。

 叔父さんの店を手伝い始めてまだ浅いが、毎晩カウンターに立つたびに、この店の空気が少しずつ自分のものになっていく気がする。


 九時十二分。

 谷口さんがいつものように荒々しい足音で入ってきた。


「おう、若造。今日もいるか」


「はい、谷口さん。いらっしゃいませ」


 続いて中村さん、島田さんも定位置に着く。

 店内はいつもの三人+俺の四人体制になった。


 叔父さんが静かに言った。


「悠斗、今日はお前に『心』を込めて一品作ってみろ」


 俺は少し緊張しながら頷いた。

 今日の新メニューは、叔父さんが教えてくれた**里芋と鶏のつくね煮**。

 里芋は丁寧に下茹でしてアク抜き。鶏つくねは挽肉にねぎと生姜をたっぷり入れ、丸めて焼いてから出汁・醤油・みりん・砂糖で煮込む。

 弱火でじっくり煮ていると、里芋がトロトロに染まり、つくねから出る旨味が出汁に溶けていく。


 出来上がりを谷口さんの前に置いた。


「……どうぞ」


 谷口さんは一口食べて、箸を止めた。

 数秒沈黙したあと、ぼそっと言った。


「……若造。これ、昨日より味が染みてる。

 里芋が鶏の脂をちゃんと受け止めてる」


 俺の胸が熱くなった。初めて「褒められた」と実感した瞬間だった。


 島田さんが微笑みながら言った。


「悠斗、いい味が出てきたな。

 心を込めると、味が変わるんだよ。ここはそういう店だ」


 中村さんも熱燗を傾けながら頷いた。


「悠斗さん、僕もこのつくね好きです。優しい味がする」


 俺は照れくさくなりながら、追加で**イカの塩辛**と**明太子チーズ焼き**も出した。

 塩辛は肝を裏ごしして二晩漬けたもの、チーズ焼きは表面を丁寧に黄金色に焼いた。

 みんなが黙々と食べ、時々感想をくれる。


 谷口さんが三杯目の熱燗を飲み干した頃、珍しく俺に直接話しかけてきた。


「悠斗。お前、元々は都会の店にいたんだろ?

 なんでこんな路地裏の小さな店に来た?」


 俺は少し迷ってから、正直に答えた。


「……叔父さんの体調が心配だったんです。

 それに、都会のレストランでは『完璧な味』ばかり求められて、息が詰まって。

 ここは……『心の味』が大事だって、叔父さんが教えてくれました」


 店内が少し静かになった。


 叔父さんがカウンター越しに、静かに微笑んだ。


「悠斗。お前はもう、ちゃんとこの店の灯りの一部だ」


 十時四十分。

 谷口さんが会計を済ませながら、俺の肩を軽く叩いた。


「若造。明日も来いよ。

 俺の分も、心を込めて焼いとけ」


「……はい。頑張ります」


 店を出ていく谷口さんの背中を見送りながら、俺はエプロンを握りしめた。

 まだ未熟だけど、この店でなら、もっと上手くなれる気がした。


 閉店後、叔父さんと二人で片付けをしていると、叔父さんがぽつりと言った。


「悠斗。

 あんたが来てから、店が少し明るくなった気がする」


 俺は小さく笑って答えた。


「俺も……ここに来て、初めて『自分の味』を探せてる気がします」


 煤けた看板の灯りが、路地に静かに揺れていた。


 やまびこは、今日も優しく灯り続けている。


――続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ