俺はイラッとした 『死に物狂いで耐えろ!』
3週間かかってようやく投稿できました(;^_^A
時間がかかってすみません。
青い空に栄える36の雷球。
それは強力な魔法の準備を終えた証。
これまで、執拗なまでに攻撃を繰り返してきた。
だが、それも大詰めを迎えつつある。
「GAaaaaaaaaaaaaa」
星穿ちの威嚇。
本来であれば、身が竦むような恐怖があったことだろう。
だが、そのような感情など一切感じない。
このような威嚇を必要とするほど、コイツを追い詰めることに成功したのだ。
一種の達成感を味わえる美酒に過ぎない。
「準備はできとるぞ」
イザベラの言葉。
メンバーたちは既に退避を終了している。
「遠慮なくやってくれ」
これ以上は、待つ必要もない。
星穿ちのヤツも待つ気がないのだから。
「あい分かった。シルヴィアよ。プリチーな年寄り同士、若い者に威厳というものを見せてやろうぞ」
魔法使いの頂点である大魔導士
これから使うのは、彼女らであっても数人がかりでなければ行使が出来ない魔法。
「……エルフの中では若いのに」
イザベラの言葉に不満タラタラなシルヴィア。
だが、仕事はキッチリとやってくれる。
2人は詠唱の続きを開始した。
魔法の韻を踏み発動させる。
雷球同士を繋ぐかのように迸る稲妻。
迸った雷はお互いに絡み合い魔方陣へと姿を変えた。
星穿ちの巨体をも囲む雷で出来た魔方陣。
徐々に世の理を象徴する緻密な紋様が描きだされる。
やがて完成したのは、芸術とすら呼べる球体。
強大な魔力と、大魔導師の英知とが結びあった魔方陣。
この軍隊すら滅ぼす殺戮兵器が、たった1匹のために使われる。
「テンペスト」
それは破壊魔法と呼ばれている。
かつて存在した、極大魔法と呼ばれる魔法を改良したもの。
130年前に世界を概念結界を張った影響で極大魔法は使えなくなった。
これは、俺が帰った後で作られた魔法。
故に発動した状態では初めてみるが──凄まじい。
騒嵐。
風と雷が踊っている。
手を取り合い。
周りを巻き込み、飲み込み、破壊と共に踊る。
星穿ちの巨体は、見ることすらできない。
雨雲を喰らった黒い竜巻に飲み込まれているのだ。
ときおり、稲光が迸しるも影すら見えない。
雲が分厚過ぎる。
渦巻く黒い竜巻。
風が流れる音が重低音となり響いている。
風だけではない。
竜巻から広がるように、周囲に落雷が発生している。
地形が変わっていく。
無数に落ちる雷が、地面を削り取るかのように大穴を作り出している。
周りですらこうなのだ。
竜巻の中は──。
「UGAAAAaaaaaaaaaaa」
だが、まだ終わらない。
大精霊魔法と破壊魔法により、星穿ちに深いダメージを与えた。
ヤツを守る岩のような表皮は砕け、あちこちから血が流れている。
それでも、ヤツを仕留めるには至っていない。
「2人は次の準備を。イリアは魔力の回復を頼む」
それぞれが次に取りかかる。
魔力の回復は、当然俺に対して。
予め渡しておいたアイテムを使い回復をする。
だが、完全回復には程遠い。
それどころか、10分の1に届けば良い程度だ。
もう少し回復させたかったが。
残りのアイテムはイザベラ達に使わねばならない。
「ここは任せる」
俺は再び、星穿ちと相見えようと駆けだした。
*
メンバーが動いている。
人数は12人。
3人パーティーで4つに分かれている。
パーティー人数が増えるほど、反応が遅くなる。
また、パーティーの数が多いほどお互いの行動を邪魔しかねない。
故に、少人数で組まねばならなかった。
星穿ちという規格外の怪物を相手にしているのだ。
こちらも規格外の攻撃を行わねばならない。
その攻撃手段を持っているのは、クレスたち3人のみ。
故に選んだのは、有効打を放てる3人を他はサポートするという構図。
他の選択肢などありはしない。
「UGAAAaaaaaaa」
叫びと共に大地が押し潰された。
星穿ちの大岩だ。
クレーターのような大穴が、攻撃の凄まじさを物語っている。
だが、既に彼らは移動していた。
大人数であれば動きは鈍重と化す。
しかし、少人数であれば素早い動きが可能となる。
それどころか、おたがいにフォローし合えるのだ。
個人の場合よりも条件が良いとも言える。
岩が除けられると同時に、炎の剣閃が宙を飛び星穿ちを襲った。
剣閃の軌跡の元。
岩影から姿を見せたのは、仮面をつけ体を黒いローブで覆った男──クレスだ。
戦場を駆け、星穿ちへ攻撃を繰り返す。
それだけではない。
あちこちから魔法が放たれている。
火、風、氷。
色取り取りの光が、星穿ちにぶつかって弾けては消える。
攻撃は一切通っていない。
クレスの攻撃も同様。
マスター エレメントの力を失ったのだ。
例えクレスとて、今の状態では有効打を放てずにいる。
だが、問題はない。
彼らの果たすべき役目は、陽動なのだから。
「コキュートス」
シルヴィアの声。
途端に、辺りが冷気の色に染まった。
天には無数の氷柱。
いずれも巨大な上に、雷を纏っている。
「凍て付くがよい」
イザベラの声。
一斉に、星穿ちへと氷柱が迫る。
それは、氷の落石。
巨大な氷柱が星穿ちに殺到する。
この強大な生命を貪り食わんとするかのように。
氷柱だけでは無い。
雷光も星穿ちに襲いかかっている。
星穿ちを喰らい損なった雷は地面を砕く。
そこは、氷と雷が支配する舞台。
奏でられるのは、足を踏み入れればたちまち消し炭と化すであろう死のワルツ。
ダンス観賞の対価は、星穿ちの命。
氷雷に翻弄され、その身にステップの後を刻まれていく。
それでも足りない。
ダンスが終わると共に、再び赤い剣閃が飛んだ。
クレスは、自らに注意を向けさせる。
走る。
駆ける。
風を切る。
ときおり、他の者たちに星穿ちの巨石が襲いかかるもそれは僅か。
大半の攻撃はクレスが引き受けている。
かといって、他の者たちが役立たずなのかというとそうではない。
彼らが引き受けている攻撃こそが重要なのだ。
この者たちが引き受けている攻撃。
それはイザベラとシルヴィアに降り掛るハズだった攻撃。
この2人こそが攻撃の要。
決して失うわけにはいかない要所。
クレスは、星穿ちによる攻撃の大半を引き受ける。
そして、他の者たち。
彼らはクレスの穴を埋めていく。
クレスが引きつけきれなかった星穿ちの注意と攻撃。
それを、己の方へと向けさせている。
そしてイザベラとシルヴィアは──
「インフェルノ」
──強大な魔法を行使する。
役割を完全に分けた組織による戦い。
それは作業と呼んでいい機械的なもの。
人間という弱種族が、強大な力に対抗するために選んだ群という戦い方。
群は明確な役割と個人の力の掛け合わせにより、やがては軍と化す。
軍と化せば、もはや個は存在しない。
一つの生物であり、怪物とすら称せる。
ましてや、この軍にはクレスのような規格外の存在がいるのだ。
軍は、怪物という言葉すら生温い化け物へと変化している。
辺り一面が紅蓮の炎に染まった。
炎に追いやられるかのように、空の青さが遥か遠くに感じる。
地上は炎が支配をし、熱が青色の冷たさを否定していた。
星穿ちを焼く。
元々あった甲羅のヒビ割れは、先程の氷柱により更に酷くなっている。
その大きなヒビ割れから、内へと炎が入り込む。
「GAAAAaaaaaaaaaaaa」
内側に入り込んだ炎。
堅牢な殻に閉じ込められた炎が、外に逃げ出すなどできようはずがない
肉が深く、深く、更に深く焼かれていく。
強大な生命力をもつ星穿ち。
だが、幾重にも重なり合った攻撃により、その生命は灯となりつつある。
かのように見えたが──。
「!」
最初に気付いたのはクレス。
星穿ちが不自然に動きを止めていた。
いよいよ死が間近に迫ったからだ。
このように思えたのなら、どれほど幸せだっただろうか?
もし、そのような考えを抱けたのなら、彼の前世は恵まれたものだったと言える。
スバルの歴史は熾烈な戦いの記録。
前世の記憶が、楽観的な観測をさせてはくれなかった。
だが、今回はその不幸せが最悪を避けるキッカケとなる。
「下がれ!」
クレスが叫ぶと共に、眩い光が周囲を覆った。
星穿ちだ。
ヒビ割れた殻の奥から光が漏れている。
やがて周囲は真昼以上の明るさにさらされた。
閃光のようなソレは、目を開けていることを許さない。
光の正体は何だ?
一瞬の疑問は、一瞬だけ過った記憶が答えた。
<マスター ウインド>
風の魔力を込めて右手を振った。
星穿ちにではない。
共に戦う仲間に向かって。
予想外の攻撃。
仲間は反応することなく攻撃を受けることとなる。
だが、彼らは優秀であった。
攻撃の意図をこの一次の瞬間には理解する。
放たれた風魔法を利用し、後方へと大きく退いた。
クレスもまた退く。
イザベラ達のいる場所まで。
声を掛け合う必要などない。
とっさに強力な結界を張った。
次の瞬間。
辺りを、これまでにない光が覆い尽くした。
しかし光が支配したのはわずかな間のみ。
数秒と経たずに闇が支配した。
周囲の木が騒ぐ。
しかし騒ぎも即座に収まる。
闇の中で──
草は枯れた。
木々は崩れ去った。
地面は砂のように乾き果てた。
黒い闇の中。
うっすらと垣間見える周囲の様子。
その僅かな情報だけで、辺りの様子が一変したことが理解できた。
崩れた木の亡骸が山のように積もっている。
地面も草も、何もかもが砂のように水気を失っている。
辺りから視界を遮っていた森が消えた。
残ったのは星穿ちが、獰猛な凶器でつけた大穴のみ。
その大穴すら、じきに消えることだろう。
砂のように崩れていく、土だった物によって。
結界が軋み始めていた。
闇の中でクレス達を守っている結界が。
彼はこの力を知っている。
だが、このような形で使うなど知らなかった。
星の奥深くに入り込む。
生命を喰らいながら徐々に体を変えていく。
やがて羽化をする。
これが全て。
そのように思い込んでいた。
故にこの可能性は考えなかったのだ。
星穿ちが────羽化のタイミングを自分で選べる可能性を。
「死に物狂いで耐えろ!」
辺りを包む闇がいっそう濃くなる。
闇の深まりと共に、力が抜けていくのがハッキリと感じられるようになった。
奪われているのだ。
星穿ちによって。
この場にいる者たちの魔力が、生命力が、戦うための力が。
魔力や生命力だけではない。
もっと根本的な物すらも。
この闇は、周囲の光が根本的な何かを喰われたあかしなのだろう。
現に周囲からは生命の存在感と呼ぶべきか?
そんな、あるべき物が消え去っている。
奪われ、飲まれ、喰い尽される。
それでも必死に結界を張りつづけた。
結界が解ければ、根こそぎ生命を奪い尽くされかねない。
故に、死に物狂いで誰もが結界を張り続ける。
だが、現実は非情だ。
闇の色が更に深まった。
あわせて奪う力も増す。
結界を保つための魔力が、これまで以上に奪われていく。
このままでは押し切られる。
しかし、攻撃に転じるにしても結界を出るわけにはいかない。
星穿ちに生命力を根こそぎ奪われかねないのだ。
身動きの取れない状況。
クレス達は、打開の一手を考え続けていた。
だが、この状況を変えるキッカケは向こうからやってくる。
「GU……UGu」
不気味な呻き声が聞こえた。
人の物ではない。
おぞましく地から響くような声。
主が誰か考えるまでもない。
考えてみれば当然であった。
なぜ、星穿ちがこれ程の力を持ちながら、今まで使わなかったのか考えれば。
「uuuuuuuuUUUuuuGAAAAAAAAAA」
光が辺りを包み込んだ。
不吉さを感じる赤い光が。
この苦しみよう。
間違いはない。
これが力を使わなかった理由だ。
羽化を早めることは、相当な対価を支払う事になるという。
「AAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」
断末魔に等しい叫びが闇の中で響くと、世界の色が一変した。
黒から白へと。
星穿ちから、いっそう膨大な光が放たれたのだ。
光に熱は感じない。
先程までの闇よりもはマシだが、存在感が希薄だ。
喰い残しが、外に漏れているのかもしれない。
地響き。
そして破裂。
あまりにも大きな叫びが、地を揺さぶり空気を破裂したかのごとく震わせた。
漏れる光が更に強くなる。
存在感のなさが不気味さを煽る。
圧倒的な存在から放たれる不気味な光。
この場にいる誰もが、精神を言いようのない感情に染め上げられていく。
不快感から、誰もが手に力を入れていた。
手の皮膚に爪が突き刺さるほど強く。
冥府に連れて行かれるのでは?
などと錯覚しそうになるほどに、慣れ親しんだ太陽とは違う光。
まるで死んだ光。
ある詩人は、月は死んだ光を放っていると言った。
太陽の光を反すことで月は輝いている。
その事を表した言葉だ。
しかし、この光は正真正銘死んでいる。
いや、死にかけているというべきか。
月の光とは明らかに違う。
死とかそういう話ではなく、存在その物が希薄なのだ。
光を神聖だという者がいる。
だが、この光を神聖だという者など決して現れることはないであろう。
さりとて邪悪というわけでもない。
あえて名を付けるのなら、何者にもなれない光。
触れているだけで──見ているだけで──己が何者であるかの定義を奪われると、本能が怯える光。
光の中、誰の精神も削り取られていく。
星穿ちと相対したときとは全く違う、心の疲労が溜まっていく。
呼吸は浅くなり、喉は乾き、体中の筋肉が強張っている。
早くこの時間が終わってくれるようにと、姿のない何かに誰もが祈り続けた。
その祈りがあまりにも直向すぎたのだろう
彼らは不快感をより深く感じてしまっていた。
周囲から音が消える。
実際には、風が吹くような小さな音を耳が認めようとしないだけ。
あまりにも大きな叫びを聞き続けたせいで、耳が馬鹿になっているのだ。
光が消えた。
不快極まりないあの光が止んだ。
それだけで多くの者たちから力を抜けさせ、腰を地面へと着けさせた。
息遣いが聞こえる。
緊張から解き放たれた彼らの。
嫌な汗を体に感じながらも、拭う気力すら湧かない。
彼らは、油断をし過ぎた。
「OoAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
突如の叫びと共に辺りが吹き飛んだ。
何もかも全てが、重さに関係なく。
凄まじい力に飲み込まれた。
*
凄まじい音が響いた。
そして、無重力感を感じて体が投げ出された──のだったな。
全身に痛みを感じる。
立ち上がろうとするだけで、体が悲鳴を上げるほどだ。
まずいな。
周囲の魔力を確認しても、死人がいないのは良かった。
だが、誰もが大きなダメージを受けている。
命こそ奪われなかったが。
体力はゴッソリと持っていかれた。
魔力も、大半が星穿ちに持っていかれている。
全員がだ。
まともな攻撃が出来ないどころか、体を動くのすらキツイ。
にもかかわらずヤツは──。
「GuOOOoooooooooooo」
地に伏したまま、星穿ちの声に顔を上げる。
首を少し動かしただけでも体がキツイ。
顔を上げて見えた周囲の光景。
視界の端に映ったのは鳥のような翼。
光りを放ち周囲を照らしている。
やはり、ヤツは羽化をしたのか。
あの鳥のような羽がその証。
星の生命を喰い続け、やがて時が来たらあの羽で異世界へと飛び立つ。
そのように言われている怪物。
前世では、羽化した後のヤツを見たこともある。
だからこそ、羽の主が星穿ちであるとハッキリと言える。
しかし──。
ここで自分の口元が、笑みで歪んでいることに気付いた。
ついに、ここまで追い詰めることが出来た。
だからこそヤツは、これ程の犠牲を払ってまでこの力を使ったのだ。
残りの体力なんて雀の涙ほどだ。
魔力だってほとんど残っていない。
動ける仲間なんていないのだから、援護など期待はできない。
キツイな。
ハッキリ言ってツライ。
このまま眠れたら最高だ。
──
地べたに這い蹲る体。
悲鳴の代わりに、痛みで異常を知らせる腕。
ムリヤリ動かすと、いっそうの痛みを感じた。
早く帰りたい。
和の楽園で温泉に入って、その後は和食だな。
天ぷらは胃が受け付けないだろうから、もっと消化に良い物を作らせよう。
ラゼルとガリウス、ついでにセレグも呼んで──。
いや、アイツらは無しだ。
俺がこんなに辛い思いをしているのに、山籠りなどしやがって。
後で自慢をして悔しがらせてやろう。
──
体を起こそうと手を地に着ける。
土の湿った感触が伝わってきた。
手の平に小石が押しつけられて痛みを感じた。
クソッ。
なんで俺は、こんな所に来てしまったんだ。
夏休みの前半は性悪ドラゴンのせいで魔王と戦って、後半は星穿ちだと?
絶対に11歳児のする仕事じゃないだろ。
──
このまま眠っていたいと叫ぶ体。
そんな要望を無視してムリヤリ起き上がろうとする。
歯を食いしばり地面に爪を立てながら。
イラっとした。
平穏を目指しているのに、なんで真逆の方向に進んでいるんだ。
夏休みを使って、世界を救うなんておかしいだろ!
──
ムリヤリ起こした体は、全身が軋んでいた。
気を抜けば、倒れてしまいそうなほどの消耗具合。
意識がいつ飛んでもおかしくない程の疲れ。
キツイな。
帰ったら、和の楽園に行く時間はあるだろうか?
航海時間を考えれば、ギリギリッぽいな。
ああ、そうか。
別に元の港に戻る必要はないよな。
転移方陣が近くにある場所に、降ろしてもらえばいいんだ。
そうだな。
終わったら、適当なところで船を降りて和の楽園に行こう。
1日くらいなら、夏休みも残っているだろう。
なら、早めに終わらせないとな。
──
体は悲鳴を上げている。
だが、手足は千切れていない。
それに、骨も折れていない。
寝ている理由は山ほどある。
だが、言い訳に甘える気はない。
「ファーウェル!」
星穿ちよ。
これで最後だ。
睨みつけるのは遥か先。
そこには黄金の翼を広げた魔物。
だが体は蟻のような姿。
明らかに、俺の知っている羽化した星穿ちとは違う。
この姿こそが、ヤツの支払った力の代償。
力を行使した結果、不完全なまま羽化してしまったのだ。
「SYAAAaaaaaaaaaaaa」
体は地面から頭まで2m程度。
十分に剣が届く高さ。
まともに戦えるだけの力は残っていない。
急所に一撃を入れて終わらせる。
それが今の俺にできる唯一の戦い方。
──無茶だろ。
代償を支払い不完全な羽化をした星穿ち。
だが、明らかに俺よりも消耗は少ない。
圧倒的に不利な状況だ。
──それでも、やるしかないんだよな。
不利を悟りながらも覚悟を決めようとした、その時だ。
フと、よぎった。
スバルだった頃の記憶が。
『大丈夫だと口にするのなら根拠など考えるな。言葉そのものを信じればいい』
誰の言葉だったか?
疲れ果てた頭では思い出せないし、思い出している余裕もない。
だが、信じるとしよう。
大丈夫だ。
勝つのは俺達だと。
「おおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
叫び、感覚を失いつつある体を奮い立たせると、同時に走った。
正真正銘、最後の戦い。
体は限界を迎えている。
魔力も残りわずか。
それでも走った。
勝って帰るために。




