八十一章
無言で闇魔法を周囲に展開すると相手の火の貴族も目を細めながら媒体紙を構え、無言で燃え盛る炎を展開した。やはり詠唱破棄は出来るのか。だが二年魔法の特訓をした成果は目に見えて出ている。
赤い炎がみるみる内に闇に食い尽くされていく。そのまま火の貴族に闇魔法をぶつけようとしたが、突然出てきた光の障壁がそれを止めた。
(何か戦隊モノごっこでもしてるみたいだな)
(シュウトが悪役だね)
(おい、そこ。嬉しそうに言うな)
火、氷、風、土、水、闇、光。闇。雷以外の貴族たちが媒体紙を持って火の貴族の背後から現れた。世代交代でもしたのか全員若い。雷の貴族の姿だけは見当たらなかった。やーいビビり、と思っている間に魔法が飛んできたので後ろに大きく下がって回避する。
数は八人。まずは接近戦に持ち込んで数を減らした方が良さそうだな。
目を閉じて貴族の真後ろに瞬間移動し、目の前の青髪と水色の髪色の女性の頭を掴んで互いにかち合わせて気絶させる。続いて黒髪の男に手を伸ばしたところで、真後ろから何か飛んできたのを空気の流れで感知したので一旦離れる。
どうやら戻ってきた雷の貴族がこちらに何かを放っていたようだ。避けられるとは思っていなかったのか彼女は引きつれた悲鳴を上げた。彼女の後ろに瞬間移動しようとした矢先、白髪の女が貴族たち一人一人を大きく囲むように障壁を張った。
「障壁を張れば入ってこれないです! 皆さん気をつけて!」
確かに障壁を張られたら真後ろに瞬間移動は出来ないが、一人一人個別に張ったところで何も変わらない。防ぐのならもっと全体的にかけなきゃどうせ不意をつかれるからな。
茶色い髭を蓄えた男の少し前に瞬間移動してすれ違いざまに障壁を闇を纏わせた剣で叩き割る。目を見開く男の後ろに素早く回って首を締め、意識を落としたのを確認してから地面に横たわらせる。
次の相手に瞬間移動しようとしたところで貴族たち全体を覆うように強力な光の障壁が張られた。その隙に貴族たちを無視して先へと進む。追ってきては……いないな。
白い柱が無数に立ち並んでいる場所をしばらく走り、華美に装飾された扉を守っている兵士の意識を闇魔法で取り払う。扉を開けると開けた場所に出た。
正面に玉座がありその周りには囲むように椅子が並んでいて、そこには貴族が難しそうな顔をして座っていた。そして一番目につくのは床にある魔方陣だ。かなり複雑な形をしていて大きさも床一面を覆う大きさだ。
そして肝心の玉座には黒いフードを被った人物が座っていた。偉そうに肩肘を顔に当ててフードの影から覗く口元は楽しげに歪んでいた。
「……何やってんですか、荒瀬さん」
「王様ごっこ」
「王様が顔隠してるとかとんでもねぇ国だな、オイ」
「ミステリアスな王様も中々洒落てるだろう?」
荒瀬さんは玉座から飛び降りると赤い絨毯のかかった階段を軽い足取りで降りて俺の前に立った。
「少し髪が伸びたか?」
「あぁ。最近切る機会がなくて……ってそんな話はどうでもいいです。戦争はどうなるんですか?」
「ん? 大体上手く運びそうだな。俺と修斗で協力すれば互いに無干渉な関係にはなれるだろう。人間側は俺が抑えてある。亜人側は力でねじ伏せれば何とかなるだろうさ」
「そりゃ良かった」
「んじゃ今から向かうとしますかね」
「……今から行くんですか?」
「おう」
その後亜人側に荒瀬さんと一緒に攻め込んだ。攻め込んだといっても各々の国に瞬間移動して上層部を脅しただけだ。これで上層部は完全に抑えられたが……。
「……でもこれだけじゃ亜人は止まらないと思うんですが」
「おう。取り敢えず王家に戻るぞ」
王家に戻ると少し年を召した貴族たちが魔法陣の前に並んで待っていた。何かやるんだろうか。
「よし、今から亜人と人間の領を切り離すぞ」
「……そんな滅茶苦茶な」
「一年かけて細かく調べたから恐らく成功するはずだ。苦労したぜ」
「いや、でも海の亜人はどうするんです?」
「恐らく空と海からは攻められるだろうが、それだけだ。魔法で迎撃しておしまいだな。んじゃこれに魔力をありったけ流し込め。修斗なら足りるはずだ」
荒瀬さんと貴族が魔方陣に魔力を込め始めたので俺も全力で注ぎ込む。一時間後くらいに魔法陣が発光し、今まで体験したことのない地鳴りが起きた。
「よし、後は迎撃するだけだ。これで世界が平和になるな」
「これが平和なんですかね……。俺、これでも滅茶苦茶悩んだんですけど」
「お互い無関心。これほど平和なことはないだろ? 元の世界に帰ったら俺とゲームしろよこの野郎」
「何かそのゲームも怪しいんですけど……。また異世界とかごめんですよ」
「大丈夫。ほんの一週間敵を倒すゲームだから」
「……まぁいいですけど」
そして一旦亜人領に戻ってワニ亜人たちに事情を説明した。元の世界に変えることは言えなかった。
そして二ヶ月くらい迫り来る亜人を撃退すると神本から神が現れ、拍子抜けするほどあっさりと元の世界に戻れた。
戻った瞬間は夢だったのかと思ったが、タンスに小指ぶつけて意識を失って救急車に運ばれた時に現実だったんだなと悟った。異世界にいた時は痛覚が麻痺してたからな。
途中で荒瀬さんと対立させてあの無敵の修斗が封印されちゃった!?って感じで一難させることも思いついたんですが、以前の終わり方にしました。伏線回収せずに突然完結させて申し訳ないです。この作品を通してプロットが大切なことと感想あれば割と書けるもんだと学びました。半年後くらいにはちゃんとプロット立てて書き直して上げる予定です。二年以上もお気に入りしてくれた方、感想をくれた方、評価を入れてくれた方へ感謝です。別の作品であったらまたお願いします。