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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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四十四章

キングとやけくそに戦い、茶番を行なって場を和ませた修斗。

そこに吹き飛ばされていた荒瀬さんが戻ってきた所から始まります

 あの後荒瀬さんが会談を持ち掛けたらクイーンが受諾し、キングは興味を削がれたらしく奥に消えてしまった。荒瀬さんはキングを少し見送った後、やけに格好つけながら指を鳴らした。


 すると砂床の一部分が一瞬で畳に変化し、そこからちゃぶ台と座布団がスポッと下から飛び出てきた。……畳から座布団が這い出る魔法とかあるのか? もはや安定の滅茶苦茶である。



「まぁ菓子でも食いながら話そうぜ。ほら、二人も座れ」

「……ふん。礼儀の知らぬ人間だ。下手なりに礼儀を見せたコイツの方がまだ話が出来そうだぞ」

「礼儀の知らない王様もいるんだしお互い様だろうに」



 お互い睨み合いながらの舌戦に呆れつつ俺も藍色の座布団に座る。高級そうな畳に土足で入るのも気が引けたので俺は素足だ。この足ざわりと独特の匂いが良いよな。クイーンはズカズカと土足で入って座ってるけど。


 荒瀬さんがいつの間にかに準備していた氷の入ったお茶を飲んで一息つくと、クイーンが俺の目をじっと見つめながら忌々しげに話し始めた。



「そもそもだ、貴様らが先に手出しをしてきたのではないか。その代償を払うのは当然であろう?」

「代償は修斗の自由の束縛だろ? 流石にその代償は大きすぎる」

「自由を奪うつもりは無い。ただ余と一緒に暮らして欲しいだけだ。衣食住は保証するし嫌がることもしない」

「おい、さっきじっくり調教とか言ってたよなアンタ!?」



 さっきの発言に対して突っ込むとクイーンは尻尾をゆらゆらと動かしながら腕を組んで思案し、何かを思いついたように目を見開いた。



「はて、そんなことは言った覚えはないぞ?」

「言ってたわ! 俺に毒を流し込みながら言ってたわ!」

「はて、そんなことは言ってないぞ?」

「意地で通そうとすんなよ! 仮にもクイーンだろうが!」

「はて、そんなことは言ってないが?」

「……いや、もういいですよ」



 見た目に反して子供のような対応のクイーンから視線を外し、羊羹ようかんを美味しそうに食べている荒瀬さんへと視線を向ける。荒瀬さんなら何か策を講じてくれるかもしれない。他人まかせにも程があるけど。



「抹茶羊羹ウマウマ、てか修斗にかなり執着してるみたいだがお前人妻だろ。夫との状況はどうなんだ?」

「夫は戦闘狂となってしまったから言葉など通じもせんよ。村で診断してもらったが原因不明の病のようだ」

「……狂戦士バーサーカーに変化する病気なんて甲殻種には無い。そもそも狂戦士っていうほど理性が飛んでるようには見えなかったが……。まぁそれはいい。じゃあ何でお前は夫を捨てないんだ?」



 薄く緑に濁ったような羊羹を口に運びながら荒瀬さんはビシッとクイーンを指差した。何処の裁判官だと突っ込む前にクイーンが怒ったように尻尾を立たせた。



「私一人ではここから亜人の村へ辿り着くことは出来ない。夫を外へ連れ出せば他の生き物を襲って騒ぎを起こして捕まってしまう。何れにせよ余がここを動けばいずれ死んでしまうのだ。余はまだ死にたくない、まだ五十年も生きてないのだ」

「……さいですか。んじゃ夫はどうでもいいわけだな? まぁツンツンしてるだけだろうけど。修斗、ちょっとこっちこい」



 つまらなそうに鼻を鳴らしながら荒瀬さんは俺を呼び寄せてきた。何やら指をグルグルと回転させながら荒瀬さんは話し始める。



「クイーンを亜人の国へ俺が連れてけば万事解決なんだが、ちょっと問題があってな。でも修斗が一つ約束してくれれば俺が頑張って何とかする」

「……約束は何ですか? ってかクイーンに丸聞こえじゃないですかコレ」

「風の魔法で色々してるから問題ない。えっとな、必ず元の世界に帰って俺とゲームすること。これ約束な」

「何ですかそれ。荒瀬さんのことだから七つの宝石集めろとか無茶苦茶なこと言いそうでしたけど、かなり安心しました」

「ククッ。それも面白そうだな。んじゃお兄さん頑張っちゃうぞー」



 指のグルグルを止めて荒瀬さんは俺の肩を軽く押し、クイーンに自分が亜人の国へ連れて帰ると話し始めた。クイーンは訝しげな表情をしながら色々と条件を追加し始めた。


 しばらく二人が話し込んでいるのを俺は茶菓子を食べながら見守っていた。完全に荒瀬さんに頼りっぱなしだが、これが最後にしたい。頼りすぎはよくないだろ。荒瀬さんも早く日本に帰りたいだろうしな。


 十五分くらいで二人の話し合いは終わった。リア充が、と荒瀬さんが憎々しげに呟いて指を鳴らし、畳とちゃぶ台が消失した。


 それから戦闘狂のキングを二時間かけて二人で無力化し、クイーンの毒を頭に五分間注入して動けなくした。最初からこうしろと突っ込んだが、一人で正確に頭を突き刺さして五分も毒を注入なんて出来ないとピンタされた。いや、何でピンタされたかは知らないけど。



「残念だったな修斗とやら。お前と暮らす理由が無くなってしまった」



 荒瀬さんが開けた穴からはもう太陽が顔を出していた。そんな中クイーンがやけに嬉しそうに肩を叩いてきた。何もしてないのにフラれたみたいで何かうぜぇ!



「……結局夫も一緒じゃなきゃ嫌だと駄々こねたのは何処のどいつだよ」

「それも正気に戻すというオマケ付き、とんだリア充だ。末永く爆発しろよ。んで、スコーピオンの方は大丈夫なんだよな?」

「撤退の指示は出したし次のクイーンも指名した。産卵の効率は今より落ちるが対して変わらん。さぁ行くぞ荒瀬とやら。余は早く外に出たいのだ!」

「そういうわけだ修斗。しばらくさよならだ」



 紐でグルグル巻きにされたキングを背負い、クイーンと荒瀬さんは穴から飛び降りていった。……いや、ここ凄い高いんですけど。


 ともかくこれでスコーピオンの方は解決ってことでいいのか? ぶっちゃけ俺何もしてないな、と自責の念にかられながらも取り敢えず出口へと足を進めて塔を降りた。



 ――▽▽――



 砂漠に落ちているスコーピオンの死体を纏めて塔へと運ぶ作業をしていたら、荒瀬さんが旅立った時から一日が過ぎてしまった。スコーピオンの数が減ったと思うのでせめて食料だけでも、と思ってこんなことをしたが正直無駄だったかもしれない。


 街の方はリザードマンの奇襲を受けているらしいが、多分大丈夫だろ。シロさんがいるし。



(シュウト臭い)

(剣にも嗅覚ってあるんだな)

(見た目が臭そうだもん。帰ったらシャワーに直行しなきゃね。僕も研がなきゃね)

(それが言いたかっただけだろお前!)



 カピカピの髪を掻いて残り少ない水筒の水を飲みながら砂漠を歩き、やっと街の門にたどり着いた。スキンヘッドの厳つい門番に旅人の証を見せると怪しい奴を見るような目付きに変わった。そんな厳つい顔で睨まれると少し怖いが、襲撃された翌日だし警戒されて当然か。



「お前、カードを見るにこの街に滞在している旅人だな。今まで何をしてたんだ?」

「あっと、スコーピオンの塔に行ってました」

「……何でお前がスコーピオンの塔などへ行った?」

「あー、シロさんに聞いて貰えばわかると思いますけど」

「シロさん? 誰だそいつは? ……怪しいな。ちょっとこっちへ来い」



 門番の熊のような手に腕をがっしりと掴まれて剣もやんわりと押さえ付けられる。少し面倒臭いことになったがこの格好じゃ仕方ないかもしれないな。髪は緑色で服は体液だらけだし。



「……何をしてるんだ」

「おう。怪しい奴がいたからしょっぴいといた」



 逮捕されるってこんな気持ちなんだ、と感傷に浸ってたら全身銀鎧に包まれた兵士が門番に声をかけていた。鎧に声が篭もってて少し聞こえづらい。



「……こいつ、前にビーニズをくれた旅人だろう? 怪しくはないと思うが」

「あぁ? 違ぇだろ」

「よく見ろ。わかりにくいが灰色のローブを着ているし、目が黒い。間違いないぞ」

「……あぁ! 本当じゃねぇか! これはすまねぇことをしたな!」



 スキンヘッドの門番の表情が一転して笑顔に変わり、俺の腕から手を離した。あぁ……そういや荒瀬さんと特訓した時に渡したっけ、落花生。



「本当すまねぇ! でもお前、今頃になって何で帰ってきたんだ?」

「それはシロさ――あ、シロエアさんに聞いてくれればいいと思いますよ」

「あぁ! シロさんってシロエアさんのことだったのか! クハハハ、そっちの方が呼びやすいな!」

「それにしても酷い格好だ。疲れているようだし、早く休んだ方がいい。シロエアさん、いやシロさんには私が連絡を取っておく」



 銀鎧の門番の心遣いに感謝しながらも証を返して貰って宿屋に帰ろうとしたが、少し気になったことがあったのでそれを聞いてみた。



「リザードマンの襲撃は大丈夫でしたか?」

「ん? あぁ。防壁付近にまで追い詰められたが、何とか大丈夫だったぜ。あの上から降ってきた岩が無かったら危なかったかもしれないけどな! クハハ!」

「天から岩?」



 隕石でも降ったのか? 凄い悪運だな、オイ。



「あぁ。いきなり巨大な岩が上から降ってきて、それが相手の指揮官に直撃したんだ。それから流れが変わって何とか退けることが出来た」

「……へぇ、そうなんですか。んじゃ宿屋行ってきまーす。今度またおつまみでも持ってきますよ!」

「酒も一緒に頼む!」

「調子に乗るな」



 何やらコントをかましている門番と別れた後、とりあえずシャワーを浴びたかったので早速宿屋へと向かう。道中に街の様子を軽く見てみたが、少し活気が少ないくらいしか変わったところは見当たらなかった。まぁ戦争に勝ったわけじゃあるまいし、そんな大騒ぎする奴はいないだろうしな。



「あーっと、鍵を渡して欲しいんですけど。修斗って名前の部屋です」

「あ、今朝連絡をくれた方ですね? はい、どうぞ」



 見慣れない受付に少し意味のわからないことを言われながらも鍵を受け取り、部屋に異次元袋を投げ入れてシャワー室に向かう。そういやインカが居なかったな。何処か遊びに行ったのか? 珍しいな。


 洗剤が無いので中々落ちないスコーピオンの体液を身体から何とか落とし、ついでに灰色のローブとズボンもゴシゴシと洗う。この汚れが本当に落ちないんだよな。クリーニング屋さん開いたら大繁盛間違いないだろこの世界。


 三十分くらい格闘した結果やっと汚れは落ちた。つーか服は破れば再生するようになったからそれで解決したんですけどねー。俺の努力は何処にいった!


 この世界で買った藍色のラフな格好に着替えて部屋に戻り、剣を机に置いてベッドへ寝転ぶ。本当に今日は疲れたわ。もう寝よう。

夢のPV十万突破。更新遅くて申し訳ない。読み直すと矛盾が三つほど見つけたのでいずれ修正します

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