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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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四十五章

荒瀬さんがクイーンと交渉してそれは成立。故郷へ返すために修斗から離れる。

そして修斗は街に帰って洗濯物と格闘した末にベッドで寝ました。

ここから始まります

 あれから二時間後には自然と目が覚め、少しすっきりした頭を働かせる。今日はどうしようか? まぁもう夕方ですけどね。


 そんなことよりお腹が減ったので取り敢えず飯を食ってから考えようとベッドから跳ね起きる。研げ~、という恨めしそうな声が聞こえたがきっと幻聴だ。外で屋台を回るついでに紙砥石も買ってくるか。



「……え、シュウトさん? え?」

「ん? 案内娘か、おはよう。っても夕方だけど」



 部屋から出て廊下を少し歩くと通りすがった案内娘にいきなり肩を掴まれてガン見され、戸惑いながら挨拶すると彼女はそそくさと走り去ってしまった。何をしてるんだと思いつつも受付で鍵を預けて夕日が傾いている外へ出る。そしてまず武器屋に行ったが砥石が全部売り切れていたので防具屋に足を運んだ。



「いらっしゃい」

「紙砥石と油ってありますか?」

「お、アンタ運がいいね。紙砥石はこれが最後だ。おまけで油を上質な物にしてあげるよ」

「……儲かってます?」

「お陰様でね」



 へっへっへ、と二人でゲスい笑い声を上げながら商品とお金を交換してそれらを異次元袋へしまう。これで剣の機嫌も治るだろう。だけど油で研ぐのは後始末が面倒なんだよなぁ。水でいいと思うんだけどここは砂漠地帯だから剣を油で研ぐことが多く、その分油の方が良いらしくて剣が五月蝿いしな。



「今夜は撃退の宴もあるからね。商人は皆大喜びしてるよ」

「そんなものが今日あるんですか。……死人の供養とかもあるんですかね?」

「宴の最初にあるらしいね。それに今回はギルドから遺族に報奨金も送られるそうだよ」

「ん、そうですか」



 スコーピオンの死体を塔へ運ぶついでに連れ去られた人間の死体もないか探したが、残念ながら見つからなかった。食べられたかどっかの巣にあるかはわからないが、心残りだ。


 この世界の命は日本より数倍は軽い。荒瀬さんにもしつこいほどそれは言われたし、自分も何回も死んで実感したつもりだった。


 だから出来るだけ明るく努めようとしたが、やはり釈然とはせずに虚しい風が過ぎる。日本がどれだけ平和だったかを改めて実感して、少しホームシックな気持ちになった。そんな陰気な気分を振り払って今夜の宴について考えを巡らす。


 今日の夜はギルドが魔物の撃退を祝って宴――お祭りみたいなものを開催するらしく、その準備のせいか忙しなく動いている人間が多い。殉職じゅんしょくした冒険者などの供養やらもやるみたいだ。


 俺は暇だし宴の手伝いでもしようと思ったが、いつもは部屋にいるインカにまだ会っていないので一旦宿屋に戻ることにした。まさか俺が死んだと思って旅に出たんじゃあるまいな。いや、流石にそれはないだろ。



「あ、サラじゃん。鍵を――」

「シュウトさん、ごめんなさい!」



 色々屋台に寄って腹を満たしながらも宿屋に帰ってサラから鍵を貰った瞬間に、案内娘がいきなり平謝りしてきた。わけもわからぬまま手を掴まれて個室に連れていかれ、再度謝られる。



「取り敢えず状況がわからない。何で謝ってんの?」

「えっとね、ギルドから修斗さんが殉職したって昨日の夜に連絡があったの」

「……いや、生きてるけど」

「だからあのお金インカちゃんに渡して旅に出しちゃったんだけど……」

「えっ?」



 展開の早すぎる話に頭が混乱した。えっと、ギルドが俺を死んだと思ってここに連絡して、それで案内娘が俺の預けたお金をインカに渡して旅に出させた?


 ……頭が痛くなってきた。これも神様の不幸補正か? シロさん何勝手に俺が死んだと思ってるんだ。まぁしょうがない……いやでもインカって一人で行ったのか? あの砂漠を?



「……インカは金だけ持って旅に出たのか?」

「シロエア様がわざわざここに訪ねて来て連れていったよ。それで一日前に五人の護衛とアグネスに向かったって聞いてるけど……」

「……そうか。それならまぁ、少しは安心した」



 幸い護衛は付いているようだ。それにアグネスへと向かってるらしい。シロさんは俺の言ってたこと覚えてたのか。死んだと思われてるのが何か嫌だけどな!


 アグネスにインカがついても教育費と旅費+αはあの袋に入ってるから余程無駄遣いしない限りは大丈夫だろ。ただ教育費は三年分くらいしかないからそれまでに仕送りしなきゃ不味いな。


 それじゃあ一年ここでお金を稼いでそれからアグネスに向かうか。……いや、俺まだ亜人との戦争回避する手段思いついてもいないんだが。大丈夫かこんな行き当たりばったりで。



「…………」

「いや、何でそんな落ち込んでんだ案内娘。ちゃんとインカに渡してくれただけでも感謝してるぞ。……流石案内娘だ! いやぁ案内娘の仕事の出来に俺は驚きを隠せないぞ!」

「……ふぅ」

「って痛ぁ! え? 何で華麗に回し蹴り入れてんの!? 綺麗に鳩尾直撃だわ!」



 どうやらいつもの調子を取り戻したようで案内娘はその場でくるりと回って俺の腹へ綺麗に回し蹴りを入れてきた。いや、ふざけたのは悪かったが何で蹴ったし!?



「どうやら幽霊じゃないみたいね。あー良かった」

「お前でも一応心配してくれるのな……」

「サラにシュウトさんが死んだことをどう説明しようか迷ってたからね。え? もしかして私がシュウトさんのこと心配してると思ってたの? とんだ勘違いだね、ぷークスクス」



 案内娘はそんな捨て台詞を吐きながら部屋から出ていった。何か言い返す気は起きなかったので普通に出たらサラが受付からこちらをジト目で睨んでいた。



「……いや、何その目線」

「何をやったんだシュウトは! あの子が謝るなんて私一回しか見たことないのに!」

「知るかボケェ! こっちだってわけわかんねぇよ!」



 お互いにツンケンした態度で軽口を叩きあってその場を離れ、俺はさっさと部屋に戻った。机に置いてあった剣に煙のような禍々しいオーラが追加されていたが、油を見せたらそれは消えて修斗大好きと聞こえてきた。チョロイもんだな、オイ。


 しかしまぁ、インカが先にアグネスへ行っちまった。今すぐ追いかけるにもアグネスに行くには三つのルートがあるし、それに砂漠を越えるために食料と何かしらの移動手段が欲しい。


 床にシートを敷いて普通の砥石をそこに置き、油を垂らしてから剣の腹を擦りつけるようにして研ぐ。つーか刃物ってこんな頻繁に研いだら絶対駄目だよね。いつかポッキリと折れそうで不安だ。


 ……そういやどっかの雑貨屋で確かパワーバイクがあったな。残ってるかなアレ。あ、でもほぼ全部インカにお金あげちゃったから買えねぇや。スコーピオンも狩れないからリザードマン狩るしかないか?



(そっちはもういいよ。反対)

(研いでやってるのに素っ気ねぇな)

(シュウトさん反対お願いしましゅぅぅ)

(俺が悪かった)



 ベトベトの剣を反転させて黙々と剣を研ぐ。そういや夜の宴って何時からやるんだろうな。まぁこの世界には何時って考えがないからな。言うにしても朝昼夜くらいしかないし。商人とかは砂時計を常備してるらしいけど。


 しかしまぁ、今日の祭りとやらに出ても騒げるような気分じゃない。俺はこの世界の人達みたいに強くない。取り敢えず殉職した人の葬儀だけ行って今日はずっと特訓でもしておくか。


 油だらけのシートを片ずけて剣を拭いて、最後に紙砥石をさっとかけて布でくるむ。それを腰の辺りに引っ掛けて異次元袋を肩に背負い、太陽が完全に沈んでいる外へ出た。



 ――▽▽――



 葬儀は門の前で行われた。周りには大勢の人が熱気を発している赤い岩を囲むように参列している。少し周りを見ると遺物を持って泣いている妻らしき人と子供が視界に入った。何だかやりきれない気持ちに襲われながらも、しっかりと前の岩を見つめる。


 するとギルド職員達が待機している場所から水色のローブをきた巫女らしき人が出てきた。そして巫女は熱された岩へ魔法で水を降らせ、それは大きな音を立てながら水蒸気となって空へ消えていく。


 この世界に魔法が無い時代、この地域は脱水症状なんかで死ぬ人が多かった。だからこの葬儀で天へ水を与えることで、水を求めながら死んだ人の魂を沈めて成仏させる。そして成仏した魂は空から恵みを降らす、そんな葬儀の説明が神本には書かれていた。


 岩の熱が無くなるまで水は落とされ、岩の熱が冷めると巫女はその場でお辞儀をして後ろへ戻っていく。そしてメガホンらしき物を持ったシロさんが出てきた。



「殉職者三十四名。この尊い犠牲の上に我々は立っています。遺族の方々は、この度誠にご愁傷様でした。彼らが安らかに永眠されるよう、ギルド職員一同配慮致します。足を運んで下さった皆様にも感謝申し上げます。では、祈りを」



 その言葉で周りの人々が一斉に手を合わせたり鼻柱を摘んだりしている。黙祷みたいなものと思いながら俺も目を瞑って祈りを捧げる。それは十秒くらいで終わった。そして周りの人は次々と街へ入っていき、砂漠に俺と少人数が残った。その中に二人見覚えのある人物を見かけた。



「ん? キースにラーヌか。どうしたんだ?」

「あ、あぁ。シュウトか。何でもねぇよ。今夜は宴だ!」

「……そうだな」



 俯き気味のキースとラーヌが持っている黒い手袋、それに地面に刺さっている大剣で大体察しがついた。気の利いたことでも言えるわけもなく、逃げるようにそこを後にした。


 ……薬の借りを返すんじゃなかったのかよ、ジン。これが終わったら模擬戦する約束だったろ、ミーサ。あいつら結構強かっただろ。何でだよ……。


 特訓しようと思っていたがそんな気分にはなれず、宿屋に帰ってベッドに横になって目を閉じた。しばらくそのままでいると剣がピカピカと光りながら話しかけてきた。



(何そんなに落ち込んでるのさ)

(少しだけだけど仲良かった奴が死んでた)

(なら今度は死なせないように強くならなきゃね)

(……そうだな)

(でもシュウトは不死身でも体は一つだからね。全部救おうなんて考えない方が良いよ)



 そんな剣の慰めを聞きながらベッドから起き上がって顔を手で覆う。指の隙間から見える景色はやけに明るい。宴が始まったんだろう。



(親しい人が死ぬのは初めてなの?)

(そりゃあな。俺がいた場所は平和だったし)

(なら泣けばいいじゃん)

(……そんな暇があったら魔法練習しないとな。よし行くぞ)



 頬を両手で軽く張って立ち上がる。何やら外は花火でも上げてるみたいにドンパチうるさい。よし、砂漠に行ってリザードマンとでも戦ってくるか。

何かたまにユニークアクセス増えてますが、編集したら更新されるんだっけ。もしそうでしたらごめんなさい

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