8話
修行の終わりは、唐突だった。
ガリウスが、山積みにされたガラクタの中から一本の錆びついた大剣を放り投げる。
「最後だ。……俺を納得させてみろ」
レオンは、血と泥にまみれた手でその重みを掴む。
三ヶ月。一度も剣を握らなかった。だが、鍬を振り続けた右腕は、以前よりも「自分の肉体の限界」を正確に記憶している。
対峙するガリウスの威圧感は、山そのものだ。
レオンは『覇王の心』を起動する。かつてのような「漏電」ではない。エリアスに頼った「最適化」でもない。
肉体が焼けるのを承知で、自ら魔力の弁を全開にする。
(……ここだ。ここが、俺の壊れる境界線)
狙い済ました、意図的な過負荷。
爆発的な熱量が右腕を駆け抜け、皮膚が弾けて血が舞う。だが、レオンの瞳はかつてないほど冷徹に、ガリウスの喉元を見据えていた。
「らあぁぁぁ!!」
放たれたのは、エリアスの計算式には存在しない**「マイナス1000点」の一撃。**
あまりに非効率で、あまりに自滅的。だが、その一点に込められた破壊力だけは、世界の理屈をねじ曲げていた。
凄まじい衝撃波。
ガリウスの大剣が火花を散らし、大きく弾かれる。
レオンの体は反動で崩れ落ち、右腕はだらりと垂れ下がった。
「……ハァ、……ハァ、……っ、あ……」
勝ったわけではない。ガリウスはまだ余裕を残して立っている。
だが、ガリウスは痺れた自分の腕を一度だけ見つめ、鼻で笑った。
「……あの坊主は、お前と一緒に沈む気はなかった。……正解じゃねえからな」
ガリウスはレオンの横を通り過ぎ、空を見上げる。
「だが、テメェは違う。……一人で心中する覚悟(支配)を持った。……それでいい」
それ以上の説明はなかった。だが、レオンにはそれで十分だった。
エリアスが自分を捨てたのは、嫌いだったからでも、無能だったからでもない。
「正しすぎた」エリアスにとって、自分という「例外」は、共に歩むにはあまりに危うい劇物だったのだ。
「……行ってこい。テメェのその『欠陥品』の力、盛大にぶち撒けてこい」
レオンは、震える手で血を拭い、錆びた剣を背負った。
右腕はもう、まともに剣を握る力すら残っていない。
それでも、レオンの足取りに迷いはなかった。
【エリアス視点の幕間:回想】
王都の豪華な控室。エリアスは、目の前で完璧な模擬戦を終えたカインを見つめていた。
(……素晴らしい。カインは僕の指示に100%応えてくれる。無駄がなく、安全で、常に『正解』の範疇に収まる。……レオンとは、正反対だ)
レオン。あの、救いようのない「エラー」。
エリアスの構築する完璧な戦略を、その異常なまでの出力で常にぶち壊そうとしていた男。
(僕は間違っていない。あんな不安定な力と心中するなんて、リーダーとしての義務に反する。……天頂の塔を攻略するには、正しい選択を積み重ねるしかないんだ)
エリアスは自分に言い聞かせるように、手元の地図に「最適ルート」を書き込んだ。
だが、その指先が、ほんのわずかに震えていることに、彼はまだ気づいていない。




