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第43話 「騎士の誇りと、論理の崩壊(パラドックス)」


 【王城・地下通路「古きネズミの道」】


 カビと錆の匂いが充満する狭い通路。


 その開けた空間に、白銀の悪意が立ちはだかっていた。


 騎士団長ジェイド。


 かつての清潔感は消え失せ、汚れた鎧と血走った眼球が、彼の狂気を物語っている。


「……やはり来たか、薄汚いネズミども」


 ジェイドがゆらりと剣を構える。


 その瞬間、濃密な『威圧プレッシャー』が放たれた。


 かつて俺を膝から崩れ落ちさせた、生物としての格の違いを見せつける本能への攻撃。


 だが、俺は一歩も引かなかった。


 この数日で見てきた王都の闇に比べれば、一人の男の殺気など、恐るるに足らない。


「……行くぞ、ルミナス」


『ええ。……油断しないで。腐っても騎士団長よ』


 ドォン!!


 ジェイドが踏み込む。速い。


 だが、俺は『一般常識コモンセンス』の予測

で、その軌道を読み、紙一重でパイプで受け流す。


 ガギィンッ!!


 火花が散る。重い。骨がきしむ。


 防戦一方。やはり、まともにやり合えば勝ち目はない。


「貴様に何がわかる!」


 ジェイドが剣を振るうたび、重圧が増していく。


「民衆は弱い! 彼らは守られることを望みながら、同時に英雄という『生贄』を求めているのだ!」


 ジェイドの叫びは、ただの妄言ではなかった。


 それは、彼が騎士団長として見てきた、残酷な世界の真実だった。


「優しさだけでは守れない! 清廉潔白では救えない! 英雄は、人を守るために『怪物』になる必要があるのだ!!」


 ズンッ!


 重い一撃がパイプを弾き、俺の体勢が崩れる。


(……クソ。一理あるのが腹立つな)


 俺は奥歯を噛み締めた。


 彼の言うことは、半分正しい。


 綺麗なだけの正義じゃ、ウルフの群れ一つ追い払えない。力なき善意が無惨に踏みにじられるのを、俺もこの目で見てきた。


 彼は彼なりに、この理不尽な世界と戦うために「非情」を選んだのだ。


(もし俺が……レベル100の力を持っていたら。俺もこいつと同じ顔をしてたのか?)


 一瞬、脳裏にそんな問いがよぎる。


 力への溺愛。正義という名の支配。


 その境界線は、紙一重だ。


 ……だが。


「……だからって、あいつらの心を殺していい理由にはならねぇよッ!!」


 俺は迷いを振り払い、踏み込んだ。


 こいつの正義が「怪物」になることだと言うなら、俺の正義はあくまで「人間」として足掻くことだ。


 【スキル発動:『一般常識コモンセンス』 Lv.3】

 【対象指定:騎士団長ジェイド】

 【付与効果:『論理崩壊パラドックス』】


 俺の言葉が、ジェイドの「前提」を突く。


「アンタは怪物を演じてるつもりだろうがな……本当は、自分の弱さを隠すための鎧が欲しかっただけだろ!!」


 ピキィィンッ!!


 見えない亀裂が走る音がした。


 「私は英雄の守護者である」という前提と、「私は保身のために若者を壊した」という現実。


 その矛盾がジェイドの脳を焼き焦がす。


「う、ぐあぁぁぁぁッ!?」


 ジェイドが苦悶の声を上げる。


 普通なら、ここで思考停止スタンして膝をつくはずだ。


 だが――


「だ、黙れ……黙れ黙れッ!! 私は……間違っていないッ!!」


 ジェイドは止まらなかった。


 目から血の涙を流し、脳がショートする激痛に耐えながら、無理やり剣を振り上げたのだ。


 強靭すぎる意志。あるいは、狂気への執着。


(……マジかよ。こいつ、魂ごと燃え尽きる気か!?)

 論理が崩壊してもなお、肉体を突き動かす執念。

 だが、それこそが仇となる。


 脳は「止まれ」と叫び、心は「進め」と叫ぶ。


 その相反する命令が、彼自身の体の連携をバラバラに引き裂いた。


 振り下ろされた剣の軌道が、大きくブレる。

 致命的なエラー


「……終わりだ、ジェイド」


 俺は静かに告げ、その懐に飛び込んだ。 


 憎しみはない。あるのは、哀れなピエロへの手向けだけだ。


 ドゴォォォォォンッ!!


 全身全霊のフルスイング。


 ミスリルパイプが、ジェイドの脇腹――鎧の継ぎ目に深々とめり込んだ。


「が……はっ……」


 衝撃で体がくの字に折れる。


 鮮血が舞い、白銀の騎士は壁まで吹き飛ばされた。


 カラン、と剣が落ちる音が、やけに虚しく響いた。


「はぁ……はぁ……」


 俺は肩で息をした。


 ジェイドは壁にもたれかかり、虚ろな目で天井を見上げていた。


 即死ではない。だが、もう騎士としては終わった。


「……正しさとは……何だ……」


 ジェイドが掠れた声で呟く。


「私は……ただ……王都を……」


 その問いに答えられる言葉を、俺は持っていない。

 正義なんてものは、立つ場所によって変わるあやふやなものだ。


「……行くぞ、ジャック」

 俺はジェイドにトドメを刺さず、背を向けた。


「安心しろよ、団長。アンタが『怪物』にしちまったあいつらは、俺が直してやる」


 俺は拳を握りしめた。


「特別なギフトなんかじゃねぇ。……『ただの人間おれたち』のやり方でな」


 背後で、ジェイドが何かを言おうとして、力尽きたように沈黙した気配がした。


 俺は振り返らない。 


 この勝利は、ただの「暴力」による解決だ。


 後味は苦い。


 だが、その苦さを飲み込んででも、進まなければならない場所がある。


 俺たちは階段を駆け上がった。


 次はいよいよ本丸。


 全ての元凶、執政官ゼクスの待つ「王の間」だ。


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