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勇者亡き世界に魔王は憂う  作者: 雲乃内晴
第五章・望みの果てに
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第五章・望みの果てに ⑥

 すれ違う者たちがザックかどうかを確認しながら南下をするが、人が多くて全員の確認は到底できない。更に南門前に群がる数を見て、ロウィーナの頼みを忘れようと思った。


「何かあったの?」


 一向に進まない群がりに耐えられず、長身の商人に理由を聞く。


「ん? なんでも隊商が魔物に襲われたって話だ」


 つまり大半が野次馬ということ。律儀に待つ必要はないと人波を縫って南門前で地べたに寝かされる数十人を横目に町を出ていくつもりでいたが、急遽つま足を西へ向けた。


「ザック!」


「んぁ? レイナ! どうしてここに? それに珍しく一人じゃねぇか」


「へそくりを貯めにいこうと思ってな」


「運がないなお前、街道に魔物が出て通行制限が掛かってる」


「は? 魔物が出ただけでか?」


 魔物が出たぐらいで通行に制限を掛けていてはこの世の全ての街道が通行を制限されて然るべきだ。


「一桁ならそんなことはしねぇんだけどな。報告じゃ三十はいたって話だ」


 数個の群れが纏まった形であり、確かに多いと言えるが、納得はできない。


「そうか、わかった」


 食い下がらなかったのは、自分が魔族だからこそ納得できないのだと判断したからだ。


「そうだ、ロウィーナから伝言だ。早く会いたい、だそうだ」


「え?! いや、いやでも」


 なかなかに面白い反応、貯まりかけた鬱憤(うっぷん)が晴れる。


「確かに伝えたぞ」


 踵を返して来た道を戻る。


「お、おい待てよ!」


 遠回りをしなければならない都合上、ザックに構ってやる時間はなくなった。背中を向けてまま手を軽く振って別れを告げ、大通りから路地に入って空を仰ぐ。どの町でも屋上を走るのは禁止されている、しかし一直線で東門を目指せる屋上は時間を無駄にした現状魅力的だ。捕まる事はほぼないが、容姿を記憶されて賞金首にされても面倒だ、魔力を放出して影を身に纏う。準備が出来次第 壁を蹴って屋上へ昇り、東門を目指す。案の定、外壁で番をしている兵士数名が同じように屋上を伝って向かってくるのが見える。


「そこの黒づくめ止ま――逃がすな!」


 無視して加速する俺を見て、警告は無駄だと各々の得物を抜いた。


「早いぞ! 見失うなよ!」


 このまま突っ走れば東門の兵たちも相手にしなければならない。少し早いが、路地へと降りて右折左折を高い頻度で繰り返しながら大通りを目指す。


「止まれっ!」


 振り切れると思っていたが、正面に鳥人(ちょうじん)が立ち塞がる。

 足を止めさせて仲間の到着を待つと考えれば立ち塞がるのは間違っていない。


「鳥が地上に降りて何ができる?」


 両腕が翼でもある鳥人の攻撃は足がメインであり、最も警戒しなければならないのが足だ。しかし目の前の鳥人は地上に立つ為に足を使ってしまっている。もはや障害にすらならない。右から左、左から右に揺さぶってから一際強く地を蹴り横をすり抜ける。


「なっ!」


 再び飛んで追われるのは御免だ。すれ違いざまに影を残して両手足を拘束、無様に地を這うしかできない鳥人の門兵を置き去りにする。

 大通りに出た後は身に纏う影を雲散させ、俺を探す声にも焦らず何食わぬ顔で歩けば自由の身。そのまま東門へ歩み続け、騒ぎが大きくなる前に町の外へ出ることに成功する。

 軽く東に進み南に行く予定を変更、一度要塞にもどる事を選ぶ。


「おかえりなさいませマスター」


 変わらず出迎えてくれるフランを見て口笛を吹く。これまでボロボロの侍女服を着ていたフランが、真新しい侍女服に身を包んでいたからだ。関節などの人でない部位がしっかりと隠れ、もはや人との見分けが付かない。町を歩いていても貴族の使いと見なしてもらえそうな姿だ。


「見違えたな」


「制作の許可を出してくださったマスターのお陰です」


 そんな気の利いた台詞が言えるとは、服の出来以上の驚きだ。


「さて談笑は後だ。要塞を動かしてくれ、目的地はリスタッツァの南だ」


「了解しました。また警告と推奨、ミリア様に位置の変更をお伝えするべきと助言します」


 勿論と答え、要塞を移動させに向かうフランを見送る。すぐに小さな揺れが訪れてフランが戻ってくる。


「移動している間にいくつか聞きたいことがある」


 自分のインベントリーからグリフォンの卵を取り出してフランに見せる。


「グリフォンの卵ですね」


「そうだ。これを別の要塞で見つけた。インベントリーには生物は入れられない筈だが、宝箱から出てきたんだが……理由はわかるか?」


「肯定。インベントリーに収納する際、拒否反応の有無で入る入らないが決定します。生物は須らく拒否反応を出し、インベントリーには入りません。卵もまた生物ではありますが、反応が弱い為収納可能となります。また親が近くにいる際は、弱い卵に代わり拒否反応を出しますので、収納不可となりますのでご注意ください」


 フランが俺に嘘を告げないと分かっていても嘘だと言いたくなる。


「なら寝ている人間なら収納可能ってことか?」


「不可。マスターの理解を得る為に言葉を変えます。拒否反応ではなく魔力と変更します」


 魔力と言葉を変えるとかなり理解がしやすくなり、自然になるほどと口から零れる。

 魔力は生き物であれば誰もが有しているものだ。納得はできたが、新たな問題も出てくる、魔力を有する道具の存在だ。オロチもまた魔力を持つ道具でありながら、インベントリーに収納されている。その事への疑念は俺への説明で魔力と言っただけだと、魔力に似た別の力、あるいは両方なければ収納可能だと納得する。


「ダンジョンから卵が出てくる理由はわかった」


 魔力でインベントリーを作って使っていながら知らない事があるとは思ってもいなかった。己の勉強不足を恥じてさっさと別の質問を投げることにする。


「二つ目はダンジョンに罠を設置できる否かだ」


「可能。当要塞で設定できる罠は――なんでしょう?」


 説明しようとする内容が求めているものではなく、手を振って遮る。


「すまん聞き方が悪かった。俺が聞きたいのは俺のような主がいない要塞が罠を設置するかどうかだ」


 問いに対して即答してきたフランが長らく口を閉ざす。


「……可能であると同時に不可能でもあります」


「詳しく――……」


 聞きたいところだが、要塞の移動が完了してしまう。


「詳しくはミリアと聞く。それとこの卵、孵化させられるか?」


「肯定。道具及び魔力の利用許可を頂ければ可能です」


「なら留守と共に頼む」


「畏まりました。お気をつけていってらっしゃいませ」


 衣服を整えたフランの優雅な一礼は見届けて踵を返す。

 要塞を出てすぐに周囲を見渡すが、あるのは木々だけ。現在地を確認する為にリスタッツァがあるであろう北を目指して歩くと、東西に伸びる街道に出る。リスタッツァの南に伸びる街道を進むと東に延びる街道があり、現在地はその辺だろうと当たりを付けて西を目指す。程なくすると南北に伸びる街道が見え、北を見れば町の明かりが微かに見えた。行方不明者が多発する地域はもう少し南だ、リスタッツァに背を向けて進む。


 綺麗に整えられた街道も町を離れるに連れて踏み固めただけの道に変わっていき、左右に広がる木々との距離も近くなっていき視界も悪くなっていく。街道で人を襲う時、隠れる場所に困るものだが、これは困りそうにない。


 襲撃する箇所を探し当てるのが難しく、品定めをするであろう場所を探す。襲撃者が手当たり次第でなく、襲う旨味があるかを調べる、かつ目撃者を出さずに襲撃を完遂させたいのなら、襲うと決めた獲物の前後に誰もいない事を確認できる場所がある筈だ。俺ならばと今度は東にある山と西にある連なった山二つに視線を向ける。視認できそうにない距離になるが、道具を使うか強化をすればできること。


 先に調べる方をどちらにするか、晩飯を何にするか悩む程度に考えて東を選んだその時、木の根本で何かが動いた。探している犯人かと期待してみたが、すぐにそれはないなと落胆する。


「……た助けてくれ」


 風体から襲われた隊商にいた商人と判断するが、行商人にしては肥えた体の男。


「大丈夫か?」


 よく生きていたものだと思いながら歩み寄ったが、半ばほど近づいて失敗したと足を止めた。

 俺は治癒術が扱えない。この場で治癒できないのなら連れて帰るしかない、通行制限のかかるリスタッツァ南門に。

 頭の中で何を聞かれてどう答えれば面倒を躱せるか、数十通り考えてみたが面倒は避けられそうになかった。


「た頼む礼はする!」


「……立てるか?」


 目撃者はいない、殺してしまう方が圧倒的に楽ではあるが、ミリアに合わせる顔は捨てられない。


「あいやむ無理だっ! 足が……」


 痛がる足を見ると、脹脛に複数回噛まれたとわかる痕がくっきりと残っていた。


「わかった。運んでやるから騒ぐなよ?」


 念押ししてから魔力を操作して影で持ち上げる。


「……――んんっ!」


 先入観と言うものは厄介で、闇に呑まれる彼は叫びそうになるが、約束通り自身で口を抑えてくれる。


「悪いな、我慢してくれ」


 心配そうにする彼を安心させるために微笑んで頼む。


「す、すまん感謝する」


 不安を払拭できたことを確認してリスタッツァを目指した。

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