第五章・望みの果てに ④
店を出てすぐに通りから脇道へ逃げ込む。
「疲れたら言ってくれ」
「これぐらい平気ですよ」
言って聞き入れてくれるのなら楽だったが、そうでないのなら目を離さずにいよう。
「足元には気をつけろよ」
通りと違って明かりのない薄暗い路地を南下し、南区の東通りを目指す。
「ルザリーさんは大丈夫でしょうか……?」
「子供じゃないんだ、平気だろ」
ミリアと正反対で、猫人は見た目は幼く見えるが、その実それなりの年齢というのが多く、心配は無用だろう。
「いえ、そうではなくて……今一人ということが心配なんです」
「今はむしろ一人でいたいと思うが?」
仲間を失ったばかりで精神面の心配はあるが、人の持ち物に涎を垂らした直後に持ち主が後を追いかけて来られても困るだけだろう。
「……そうでしょうか?」
どう思っているかは本人にしかわからないが、どう思っていようと歩き回って探すほど親密な関係でもない。
「わかったわかった。でも探しに行くにしてもネイビルを宿に置いてからにしよう」
放置したい所だが、探したい様子のミリアにそう言うと微笑みが浮かび上がる。
「全く、最初からそう言えよ」
「だって、言ったら断らないじゃないですか」
「言わなくてもやらせるんだから変わらないだろぉ?」
少しムスッとするミリアだが、反論はなかった。
「まぁいいさ、次は俺を優先してくれれば」
元気よく了承してくれるミリアに俺も満足に頷く。ミリアの事だ、例えどんな嫌なことでも聞き入れてくれる。後はどう切り出すかだが、その時が来れば自然と言えるだろうと、深く考えずに歩いていると見慣れた大通りに出る。
「もうすぐだが変わるか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
少し辛そうに見えるが、足取りはしっかりしていた。ネイビルをミリアに任せたまま、白山羊亭に辿り着く。
「あら、おかえりなさい?」
二人ではなく三人の俺たちをケイミは首を傾げながら出迎えてくれる。
「酔っ払いを放置できなくてな、宿泊に一人追加してもいいか?」
「寝具の用意はいる?」
「いやいい」
「ならいいわよ。手伝う?」
書き入れ時に人手を奪うのは忍びない。
「それもいい。ミリア、変わってくれ」
「え? でも」
「階段は流石にきついだろ?」
無理をして階段で倒ければ怪我をするのは自分だけでは済まない。
「でしたら一緒に」
「かえって危ないだろ」
少し迷うそぶりをみせたが、ネイビルが怪我をする危険を犯す訳にはいかないと納得してくれたミリア。
「わかりました」
ネイビルの脇に首、膝裏に腕を通して抱き上げ、店で飲食する客たちから声援を受けながら階段を上る。
部屋の扉をミリアに開けてもらい、寝床にネイビルを降ろす。
「ふぅ……さて探しに行くか」
少し休みたいが、休んでいる暇は踵を返して部屋を出ようとするが、ミリアは付いてこない。
「どうした?」
「いえ」
泥酔した娘を一人置いていくのは忍びない、しかし身は一つ。
「行きましょう」
あれもこれもほしいが通用するのは、裕福な家の子供だけだと知っているミリアは、何をされても起きないだろうネイビルを置いて部屋を出ようとする。その進路を腕で塞ぐ。
「残るか?」
甘やかすつもりで聞いたのではなく、残ってくれた方が都合がいいが故に聞いてみたもののミリアが頷くことはなかった。
「そうか? ならい……ルザリー」
腕を引こうと思った瞬間、階段を上がってくるルザリーの姿があった。
「ルザリーさん!! 今から探しにいくつもりだったんですよ!」
駆け寄るミリアに驚きながらバツの悪い表情をするルザリーに普段通りの声音で話しかける。
「よくここがわかったな?」
「あうん、あの後すぐに戻っていないから匂いを辿ったの」
「そうか。よく来てくれた」
「僕、謝りたくて……」
「気にしていない。だから気にしないで入ってくれ」
少しだけ表情を緩めたルザリーを連れて、出ようとした部屋に戻った。
短くなって申し訳ありません。
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