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ダークシャウト  作者: 焔滴
第四章
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復活


 「……ハンッ。どいつもこいつもイカれてやがる。……だが助かったぜ。俺は一先ず退散させて貰うからよぉ! テメェらは仲良く遊んでるんだなぁ!」


 激しく力をぶつけ合う三人を尻目に、ふらつく足取りでサーグライは逃走を図った。

 しかし身体の自由が奪われてしまったかのように、再び身動きを封じられてしまう。


(――そうはさせないぞ、サーグライ!)

「――グォッ? ……んな、マジかよっ……? 何でお前が、一度ならず二度までもぉッ!」


 頭の中へ直に響く声を聞き、サーグライが凶悪に双眸を吊り上げた。

 必死に絞り出されるその声は、再び強い意志で抵抗を始めた拓人のもので。


「何なんだよ! どうしてタダの人間風情が、俺の意志に抵抗できるっ?」

(……っはぁ、……ゥッ……お前、気付いてないのか? 《聖血教会》の人が作るこの陣と、義乃の封印の力に……)

「封印、だとっ……?」


 拓人の声にハッと胸元を見下ろすサーグライ。

 そこに浮かぶ己の印を囲むようにして、いつの間にか黄金の光が小さな魔法陣となって現れていた。


(お前は義乃の封印を破った訳じゃない。封印術を身体に残したまま、力づくで覚醒したに過ぎないんだよ。……ハ、ァッ……だから俺にも、何とか付け入る隙があったんだ……!)

「――っぐ、くっそおぉ! 甘く見た! 甘く見た! たかが人間の小娘の術だと思って、俺とした事があぁッ……!」


 義乃が施した封印術は、《大星魔》であるサーグライにとって極小さなモノでしかなかった。

 巨大な身体に刻まれた、毛先程の掠り傷のように。

 しかしサーグライは己の存在が巨大であり過ぎた為に、その小さな傷に気付く事が出来なかったのである。

 堤に開いた僅かな穴が、数千体の《星魔》を捕縛する方陣の影響で広がり、拓人が意志を取り戻す為の突破口となっていたのだ。


(自分の圧倒的な強さに油断したな、サーグライ。俺達をちっぽけな存在だと侮ったのが……お前のミスだよっ!)

「ぬあぁぁ! 言うなぁっ! ならもう一度、完全に支配してやるまでだ! 宿主は大人しく、俺に塗り潰されていろオオッ!」


 わなわなと怒りに打ち震えつつ、サーグライが自身の中に居る拓人を消し去ろうと圧力をかけた。

 今度こそ完全に拓人の身体を己の物にしようと、激しく荒々しく。


(あ、ああああっ! ……っく、嫌だ、絶対に嫌だ……! お前なんかに乗っ取られて、堪るか、よおぉぉっ!)


 急に苦しみ出したサーグライの様子に気付き、義乃と闇朱の瞳に希望の光が宿る。

 拓人が必死にサーグライの意志に抗っているのだと悟って、必死に声をかけていった。


「麻宮! 大丈夫っ!? はぁっ……! 麻宮なら、絶対……勝てる! だから、諦めないで……っ!」

「拓人君! あたし、信じてるよっ! 絶対絶対、そんなヤツなんかに負けないって! だから、お願い……! 戻って来て!」


「麻宮に、聞いて欲しい事があるの! あの夜にした話の続き! ……私の気持ちを、麻宮に知って欲しい! それでまた、麻宮の考えを聞かせて欲しいの! ――だから!!」

「また一緒に、お祭りに行こうっ!? そんでそんで、他にも沢山っ……! あたし……拓人君としたい事、まだまだ一杯あるんだよっ……!!」


 一筋の光明に縋る二人の少女が、瞳を潤ませて拓人を呼び続ける。

 それぞれの胸に秘めた想いを、ありのまま素直に叫びながら、つよく、つよく祈った。願った。そして信じた。


「っぅ、……あああっ! 煩い、煩ィぞ雌ガキがぁ! グゥッ……消える、俺が消えちまう……なんで、何でこんなっ……!」

(義乃、闇朱っ……俺は、俺はぁっっ……!!)

「――――う、わあああぁああああっ!!」


 全ての闇を振り払うような雄叫びが、黒い兜の裏側から迸る。

 拓人の激しい意志が籠ったその声に振動し、ピシ、ピシッと無数の亀裂がバイザーに生まれていき……そして高い音を立てて、砕け散っていった。


「拓人君!」

「麻宮!」


 封じ込められていた意識と拓人の顔が解放されて、涙に濡れていた闇朱と義乃の表情が、大輪の花が咲いたようにぱぁっと明るく輝いた。

 拓人は疲労の色が濃く浮かぶ表情で、それでも二人へ向かい満面の笑みを広げていく。


(な、なにをぉぉっ! こんな、こんな餓鬼の意志に俺は、俺は負けるのかっ……!?)

「……俺だけじゃないよ、サーグライ。闇朱と義乃、二人の助けがあったからだ!」


 拓人は頭の中へ響いてくるサーグライの声に辟易し、頭部を覆う兜をぎゅっと掴む。

 そして強引に自分の頭から引き剥がし、力一杯に放り捨てた。


(――な、キサマアァァッッ!)


 狼狽するサーグライの意思が宿った兜が地面に転がる。

 兜を脱ぎ捨てた拓人の顔は、汗がびっしょりと滴っていた。

 その表情は精悍なものであり、拓人が前髪を払った瞬間、少女二人は一瞬見蕩れて同時に頬を赤くした。


「――サンキュなっ! 闇朱、義乃! お陰で完全復活だ!」


 満面の笑顔で拓人が二人の少女に礼を告げ、親指を立てて復活をアピールした。


「良かった! 本当に良かったよぉ……!」

「馬鹿ッ! ……心配をかけ過ぎだ、バカっ……」


 喜びでくしゃくしゃになった闇朱と義乃の顔は、黒く煤けて汗まみれにも拘わらず、拓人にとってはとびっきり綺麗に輝いて見えた。


(ケェッ! ならばこの際仕方ねぇ! 腐れ神官野郎! 身体を借りるぜ!)

「なにっ!? 貴様っ! 何をッ……をををっ!?」


 憎々しげに舌打ちをするサーグライの精神は、拓人が放り投げた兜に宿っている。

 その禍々しい兜が宙へ浮き上がり、突然グエインの頭部へ覆い被さっていった。

 狼狽するグエインだが、時既に遅し。

 サーグライは強引にグエインの意識と繋がり、彼の戦闘意欲をかき立てていく。


「――――ハアアァァァッ! 滅びろ、滅びろ滅びろおぉぉぉ!」

「きゃああっ!?」

「あ、ああああっ!?」

「――闇朱! 義乃!」


 和みかけた少年達三人を襲う、威力を増したグエインの攻撃。

 闇朱と義乃の背中を両手で支えながら、拓人は前方を睨みつける。


「もうやめて下さい! グエインって人! 俺は意識を取り戻しました!」

「煩い! 煩い! 騙されないぞ私は! 裏切り者と一緒に、この世から完全に消し飛ばしてやるっっ!」

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