乙女
「…………なっ……に……?」
終わりを予感したサーグライの掠れた声が、爆ぜた光の中で小さく漏れる。
青白い悪魔の双眸に、信じられないモノが映り込んでいた。
魔なる存在を滅する無慈悲の奔流が、己の眼前で押し止められ、轟音を奏でながら四方へ飛び散っている光景だ。
「お前ら、……何を……?」
呆けた呟きを漏らすサーグライの前。
襲い来る光の渦を真正面から受け止めて、弾き続ける二つの影が居る。
「はああああぁぁぁぁっっ!」
「ふ、うううぅぅぅぅっっ!」
黄金剣を正眼に構える義乃。
そして黒片を寄せ集めて一枚の盾として展開する闇朱。
二人の少女がサーグライの障壁となり、グエインの攻撃を防ぎ続けている。
「――闇朱!? バカッ! やめなさいっ!」
「……義乃!? 何をしているっ? 血迷いましたかっ!? ヨシノッ!」
驚愕する苺莉亜とグエインの声も聞き流し、義乃と闇朱は必死の形相で『六翼一轟』を受け止め続ける。
それが瀕死のサーグライを倒す事を優先して、力を十分に練らぬまま放たれたものだとしても。
凄まじい衝撃の余波で頬や腕が裂けて、赤い血が二人から流れていった。
「は、ハハハハハッ! こいつはイイ! メス餓鬼共が仲良く揃って、俺様を守ってくれるってかぁ!? 驚きだぜコイツはよぉ! はっはははは! 良くやったぞテメェら!」
上体を起こし、身体を仰け反らせながらサーグライは大笑いをする。
予想だにしていなかった助っ人の存在に、愉快極まりないと全身を震わせていた。
「――何をっ……勘違いしている。……《星魔》風情が、調子に乗るなっ……!」
「――バッカじゃないっ? 誰が、アンタなんかの為にっ……身体張りますかってーの!」
「……アァン? 小娘……お前ら、何を言ってやがる?」
額に汗を浮き上がらせて、前髪を張り付かせる義乃と闇朱。
二人は揃って呆れた口調になり、サーグライを罵倒し、怒らせた。
「麻宮……っ。……あさみ、やぁ! 目を覚まして! そんな下種なヤツなんかに、何時までも乗っ取られてるんじゃない!」
「拓人君! 聞こえてるっ? ……あたしの声が、届いてるっ? お願いだよ、戻って来てよ! ……っぅ、あっ……! ……そんなヤツに、負けないで……ぇっ!」
苦痛に眉を顰めながら、義乃と闇朱が必死に拓人へ呼びかける。
じりじりと踵が地面へ減り込んで、少女達の身体は今にも吹き飛ばされそうなギリギリの所で堪えていた。
「クハッ! 何を言ってやがる! この身体は完全に俺のものだ! さっきのは何のマグレか知らねぇが……もう奇跡は起こらねぇよォ! 諦めの悪い奴らだっ!」
「うっさい! そんなの、やってみなくちゃ分かんないわよっ! ……拓人君は、凄いんだから! ……アンタなんかに、絶対負けたりしないんだからーっ!」
喉を振り絞るように闇朱が叫んだ瞬間、魔人化した身体を膨大な量のプラズマが覆い尽くす。
自分の内に秘められていた魔力が溢れるのを感じて、闇朱はキッと前を見据えた。
「――そうか。今なら分かる……あたしの本当の、力の使い方! ――はああぁぁっ!!」
ハッと閃きを得た闇朱は、赤い魔力の波動でグエインの攻撃を十数秒防ぎながら、盾にしていた黒片を組み立て直し、砲筒状へと展開させた。
長大な筒の中へ両手から魔力を注ぎ込み、一か所へ充填させていく。
黒い砲身の内側で凝縮される赤いプラズマが、膨大な威力へ高められた瞬間。
闇朱は裂帛の気合と共に、収束させた赤色の魔力砲を発射させた。
一点に集められた赤いプラズマが、黄金の光へ杭を穿つように照射されていく。
「闇朱、あなた……。こんなに短期間で、そこまで《星魔》の力を引き出すなんて……」
本来であれば止めなくてはならない立場なのに、赤いオーラに包まれる闇朱の雄姿を見せつけられて、苺莉亜は感嘆の溜息を漏らしながら立ち尽くしてしまう。
「義乃! 貴女は《聖血教会》を裏切るのですかっ? 『小夜啼鳥』ともあろう者が、滅ぼすべき敵を庇う等……重大な掟違反です! 聖なる意志を汚す行為、許されませんよ!?」
「グエイン卿っ! 申し訳ありませんっ! ……仰る通り、私は聖なる教えに背きました! ……『小夜啼鳥』の称号は、相応しくないです……でもっ……!」
鋭く義乃を叱責するグエインの言葉を受けて、義乃が眉根に皺を寄せながら言葉を返す。
それでも怯む事無く真っ直ぐ前を見据えて、自分の思いを叫んでいった。
「でも、それでも私は……もう、自分に嘘はつけません! 私は、この人を助けたいっ! 麻宮を! ……麻宮の事を、助けたいんです! ――それだけしか、考えられないっ!」
義乃が声高く宣言した瞬間、黄金剣が巨大な光に包まれる。
刀身が何メートルにも伸び上がり、その衝撃で黒く染め抜かれた義乃の髪が根元から赤茶色に戻っていった。
神社で見せた時以上の灼光が大剣より溢れ、闇朱に負けぬ勢いで激しく放たれていく。
二人の少女が放つ強大な力のコラボに、『六翼一轟』が僅かに押し返されていった。
「はああぁぁぁあっ!!」
「わああぁぁぁあっ!!」
「そんなっ……私の究極の奥義が、あんな子供二人の力に押されると……!? ――有りえません! こうなれば義乃……貴女も邪悪と共に滅されなさい!」
驚愕に戦慄するグエインが、金杖を強く前へ突き出していく。首元のチャームが激しく明滅を繰り返す中で、獲物を狩る肉食獣の如き険しい表情を浮かべていった。
すると再び黄金の奔流は闇朱と義乃を押し始め、激しい重圧に少女達は晒される。
「――っく……負けるもんか! 負けるもんか、負けるもんかっ! 拓人君は、あたしが守るんだぁっ……!」
「――っ……気が合う、わね。……私も今ばかりは、その意見に賛成、よっ……!」
圧倒的に不利な状況にも拘わらず、義乃が小さく闇朱へ笑いかける。
すると闇朱も義乃の顔を横目で見つめ、小さな笑みを浮かべていった。




