意味①
宿へ戻る道。
司祭は口を固く閉ざしたまま、
何も言わなかった。
司教と会って部屋を出てから、
ずっとそうだった。
エリオンは下手に声をかけることもできず、
静かにその後ろを歩いていた。
やがて、
エリオンがふと足を止めた。
「そうだ」
司祭も足を止め、
振り返った。
「どうした」
エリオンは気まずそうに頭を掻いた。
「豚串です」
司祭が目を瞬かせた。
「豚串?」
「その……
トリーが帰りに買ってきてほしいって言っていたので」
司祭はしばらくエリオンを見つめてから、
小さく笑った。
「そんなことまで頼むのか」
そう言って、
懐から財布を取り出した。
中を少し確認すると、
小さく鼻を鳴らして、
またしまい込んだ。
「まあいい。
せっかくだ、買って帰るとしよう」
エリオンはためらいがちに口を開いた。
「でも……
大丈夫でしょうか」
「何がだ」
エリオンは慎重に言った。
「お金です。
司教様が十分に送ってくださるかどうか……」
司祭は呆れたように笑った。
「あの方は、
そこまでけちな方ではない。
そんな心配はせず、
さっさと買って帰ろう」
そう言って、
背を向けた。
「疲れた」
少し前まで固く沈んでいた空気が、
少しだけ和らいだようだった。
エリオンは小さく笑いながら、
その後ろに続いた。
そうして、
市場の方へ足を向けた。
市場へ向かう途中。
エリオンは困ったことになっていた。
化粧の濃い女たちに囲まれ、
どうしていいか分からずにいた。
司祭は……
少し離れたところで、
その光景を眺めていた。
「この前見かけたお兄さんじゃない?
ねえ、私といいところ行かない?」
エリオンは困った顔で、
その女を見た。
通りすがりに見かけた女だった。
田舎者をからかうように、
ウインクを投げて通り過ぎていった女。
隣の別の女が、
くすくす笑いながら身を寄せてきた。
「反応がちょっと可愛いねー。
どう?
サービスしてあげるから」
エリオンは顔を真っ赤にしたまま、
ぎゅっと目を閉じ、
どうにか振りほどいた。
「す、すみません!
恋人がいます!」
女たちは残念そうな顔をして、
くすくす笑った。
そして離れながら手を振った。
「分かったわー。
じゃあね、お兄さん」
「気が変わったら来てねー」
そうして彼女たちが離れていくと、
通りすがりの人々がエリオンを見て、
小さく笑った。
司祭も……
その輪に加わるように笑いながら近づいてきた。
「なかなか人気があるな」
エリオンは深くうつむいた。
「ここの人たちは……
開放的すぎます……」
司祭は小さく笑い、
エリオンの背を軽く叩いて先に歩き出した。
「用が済んだなら行こう」
司祭はまた笑いながら続けた。
「おかげで面白いものが見られた」
エリオンは呻き声を漏らし、
すぐに司祭の後を追った。
レアと来た時は、
まともに見て回ることができなかった。
だが今見ると、
本当に多くの品が売られていた。
食べ物や生活用品だけではない。
初めて見る菓子や、
玩具まで並んでいた。
その玩具の中には……
以前、行商人が見せてくれたものもあった。
ぜんまい仕掛けの鳥と、
銀の鈴。
エリオンは興味深そうに眺めながら言った。
「見たことがあるものですね。
あの人も、
ここで仕入れていたのでしょうか?」
司祭が言った。
「さあな……
別の土地から流れてくることも多い。
断言はできないだろう」
エリオンは頷いた。
「そうですね」
それから、
周囲を見回した。
蜂蜜菓子。
林檎の揚げ菓子。
ワッフル。
話にだけ聞いたことのあるものが並んでいた。
「ああいうものも買って帰ったら……
ベルは喜ぶでしょうか?」
そう言って、
何となく首の後ろを触った。
「少し高いでしょうか……」
その言葉に、
司祭は小さく笑って言った。
「いくつかくらいなら買って帰れるだろう」
それから少し間を置いた。
「一緒にいられる日も、
そう長くは残っていない。
少し贅沢をしよう」
そう言って、
屋台の方へ近づいた。
彼が菓子を選んで包んでもらっていると……
誰かがエリオンの肩に手を置いた。
エリオンはびくりとして振り返った。
見覚えのある男がいた。
……誰だっただろう。
その男がかすかに笑った。
「お元気でしたか」
……
その時になって、
ようやく思い出した。
道で助けた病人だった。
戸惑い。
安堵。
そして暗い影。
複雑な表情が、
一瞬のうちに通り過ぎた。
エリオンは苦労して口を開いた。
「生きて……
いらしたんですね」
病人はかすかに笑って言った。
「あなたのおかげです」
それから深く頭を下げて言った。
「本当に……
おかげで助かりました」
そうして身体を起こし、
エリオンを見た。
エリオンの表情が暗いことに気づくと……
彼は視線を伏せた。
しばらくの沈黙。
もじもじしていた彼が、
慎重に口を開いた。
「……私のせいで、
大変な思いをされたのでしょう」
エリオンは答えなかった。
ようやく塞がりかけた傷を、
また掻き返されたような気がした。
病人はためらってから、
ようやく言葉を続けた。
「長くそばにいても、
空気を悪くするだけでしょうから……」
そう言って、
懐から何かを取り出した。
金袋だった。
「こんな形でお会いするとは思っておらず、
多くは用意できませんでした。
せめてこれだけでも、
受け取ってください」
エリオンは金袋を見つめてから、
小さく首を横に振った。
「こういうものを望んで、
したことではありません」
病人も首を横に振り、
袋を差し出した。
「これだけでもお渡ししなければ、
私の気が済みません」
そう言うと、
半ば無理やり握らせ、
距離を取った。
そしてもう一度、
深く頭を下げて礼をした。
「改めて、
ありがとうございました。
いつか……
いつか、この恩を返せる日が来ることを願っています」
そうして身体を起こすと、
静かに離れていった。
エリオンはぼんやりと彼を見送った。
それから……
手の中の金袋を見下ろした。
遠くから見守っていた司祭が、
近づいてきて声をかけた。
「あの時の……
あの人だったようだな」
エリオンはようやく口を開いた。
「そう……
みたいですね」
しばらく目を閉じて考えた後、
苦しそうに笑って言った。
「早く、
豚串を買って帰りましょう」
エリオンは小さくため息をついた。
「急に……
すごく疲れました」
そう言って、
ぼんやりと歩き出した。
司祭はため息をつき、
静かに後を追った。
エリオンはとぼとぼと歩き、
串を売っている屋台の前で足を止めた。
自然に注文しようとして……
ふと、
レアのことを思い出した。
レアは……
どう注文していただろう。
ラヘンでのことを思い返して、
小さく笑ってしまった。
そうだったな……
エリオンは串を指差して言った。
「豚串を五本ください」
そう言いながら、
懐の袋に手を触れた。
主人が並べてある串を包もうとすると、
エリオンはそれを止めて言った。
「焼いてあるものじゃなくて……
新しく焼いてください」
それから、
にっと笑って言った。
「その方が……
ずっとおいしいでしょう?」
体調が悪くて遅くなりました。申し訳ありません。




