(88)猫耳先生の秘密の性癖
巨大な竜巻がミュウを包み込もうとしている。しかし、ミュウの動きは明らかに鈍かった。
「ミュウ! 何をしている!」
俺は立ち上がって叫んだ。
「どうした! お前の実力はそんなもんじゃないだろ!」
ミュウは竜巻を回避しようとするが、その動きは普段の半分以下の速度だった。風に巻き込まれそうになりながらも、なぜか満足そうな表情を浮かべている。
「先生としての実力を見せるんだ! 生徒たちが見ているぞ!」
俺の厳しい声が校庭に響く。しかし、ミュウの劣勢は続いていた。彼女は竜巻の外縁に捕らえられ、体がくるくると回転しながら飛ばされそうになっている。
「ミュウちゃん、どうしちゃったの?」
リリアが心配そうに呟く。
「ミュウ先生、明らかにヘンですね......」
「体調でも悪いのでしょうか?」
観客席の生徒たちも困惑している。普段のミュウなら、この程度の竜巻は風の制御技術で無力化できるはずなのに、なぜか必死に抵抗していない。
ステラは勢いに乗って、さらに攻撃を仕掛けた。
「追撃です! エアロ・ブラスト!」
ステラが両手で杖を構え、圧縮された風の塊を放つ。風の爆弾は轟音を立てながらミュウに向かって飛んでいく。
ミュウは竜巻から脱出したばかりで体勢が整っていない。慌てて風の盾を作ろうとするが――
風の爆発がミュウを直撃し、彼女は地面に倒れ込んだ。スカートが捲れ上がり、白い太腿が露わになる。ミュウは慌てて手でスカートを押さえながら、痛そうに顔をしかめた。
「ミュウちゃん!」
リリアが心配そうに声を上げる。
「ミュウ! 立て! そんなところで倒れるな!」
俺がさらに厳しく叱咤する。
「情けないぞ! 先生としての誇りはないのか!」
俺の叱責が響くと、ミュウの体がビクンと小さく震えた。痛みとは明らかに違う反応だった。
「お前にはもっと実力があるはずだろう! なぜそれを出さない!」
「集中しろ! 生徒たちが見ているんだぞ!」
俺の厳しい言葉が次々と飛ぶ。その度に——
ミュウの体が小さく震え、猫耳がピクピクと動いていた。
痛みではなく、何か別の感情で。
「あれ?」
俺は首を傾げた。ミュウの表情をよく見ると――
痛みに顔をしかめているはずなのに、その瞳には微かな恍惚の光が宿っている。頬も薄っすらと赤く染まっていた。
「おかしいな......」と俺。
エレノアも気づいたようだった。
「ミュウの反応、何か変じゃない?」
「確かに......」アイリーンも眼鏡を光らせて観察している。「叱られているのに、なぜあんな表情を......」
その時、俺は決定的な瞬間を目撃した。
俺が「情けない!」と叱った瞬間、ミュウの表情に明らかな恍惚の色が浮かび、猫耳がぴくんと嬉しそうに跳ねたのだ。さらに、ダメージを受けて地面に倒れ込んでいるにも関わらず、尻尾が小刻みに揺れている。
「まさか......」
俺は確信した。
「ミュウ、お前、わざと手を抜いているな?」
俺の指摘に、ミュウの体がビクンと大きく震えた。図星を突かれた反応だった。
「な、何のことでしょうか......」
ミュウが慌てて立ち上がりながら、しどろもどろに答える。しかし、その顔は真っ赤に染まっており、猫耳も恥ずかしそうに垂れ下がっている。
「トボけるな! 叱られて興奮してるんだろ!」
「え?」
観客席がざわめき始めた。
「叱られて......興奮?」
「どういうことですか?」
「まさか、ミュウ先生って......」
生徒たちが困惑している。しかし、だんだんと状況を理解し始めた生徒たちが驚愕の声を上げ始めた。
「え、えーーーっ!?」
「ミュウ先生にそんな性癖が?」
「怒られて嬉しいんですか?」
「ドMってこと!?」
ミュウが真っ赤になって立ち上がった。図星を突かれた動揺は隠せない。猫耳が恥ずかしそうに垂れ下がり、尻尾も慌てたように左右に振れている。
「わ、わたくし、そんなつもりでは......」
「ミュウ先生、正直に言ってください」アイリーンが眼鏡を光らせながら言った。「学術的興味として、その心理状態を研究したいのですが......これは貴重なサンプルケースです」
「う、うぅ......」
ミュウが観念したような表情になる。もはや隠し通せないと悟ったのだろう。
「お願いです、武流様......いっぱい叱ってください!」
戦いの最中にも関わらず、ミュウは俺に向かって両手を合わせて懇願した。その姿は戦闘中の魔法少女というより、おねだりする子猫のようだった。
「お前、こんな時になんで......」
「それが......武流様が学園の生徒たちを熱心に指導されているのを見て......つい嫉妬心が湧いてきたのです......」
ミュウの告白に、観客席がさらにざわめいた。
「みんなに優しく教えている武流様を見て、わたくしも叱られたくて......それで、わざと手を抜いて注目を集め、叱られようとしたのです......わたくし、武流様に叱られると......その......とても......」
ミュウの顔が真っ赤になり、猫耳がピクピクと震えている。尻尾も恥ずかしそうに体に巻きついていた。
「はあ......」
俺は深くため息をついた。
「どうしようもない奴だな、お前は」
「は、はい! どうしようもないダメダメな猫なのです!」
ミュウが嬉しそうに反応する。叱られることに喜びを感じているのは明らかだった。
「す、すみません......」
ミュウが申し訳なさそうに頭を下げる。しかし、その表情には満足そうな色が浮かんでいる。
「でも、武流様にお叱りいただけるのが......とても......幸せなのです......」
「分かった、分かった」俺は手を振った。「叱るのは模擬バトルが終わってからだ」
「え?」
ミュウの表情に不安の色が浮かんだ。
「今は戦いに集中しろ。お前は先生だろ。ビシッと決めろ」
俺は厳しい表情でミュウを見据えた。
「これ以上手を抜いたら、二度と叱ってやらないぞ?」
「そんな!」
ミュウの表情が一変した。猫耳がピンと立ち、瞳に強い光が宿る。尻尾も緊張で真っ直ぐに伸びた。
「それだけは......それだけはお許しください!」
ミュウが急に本気モードに入った。その変化は劇的だった。魔力の質が一瞬で変わり、周囲の空気がぴりぴりと緊張感に満ちる。
「え?」
ステラが困惑している。さっきまで圧倒的に押していたのに、急にミュウの雰囲気が変わったのだ。魔力の密度が明らかに違う。
「ちょっと待って......今の魔力波動......」
アイリーンが眼鏡を押し上げながら驚いている。
「行くのです! 本当のわたくしをお見せするのです!」
ミュウが杖を高く掲げると、校庭に強烈な風が吹き始めた。芝生が波打ち、観客席の生徒たちの髪が激しく舞い踊る。
「ウィンド・ダンス・アルティメット!」
ミュウが空中で華麗に舞い踊りながら、無数の風の刃を放つ。その美しい動きは、まさに空中バレエのようだった。緑の光を纏いながら回転し、杖を振る度に鋭い風の刃が生まれる。
風の刃はそれぞれが三日月状に湾曲し、空気を切り裂く音を立てながらステラを包囲した。その数は数十を超え、まるで羽根のように美しい軌道を描いている。
「うわあ!」
ステラが慌てて回避するが、ミュウの攻撃の精度は恐ろしく高い。風の刃が次々とステラの周囲を通り過ぎていき、髪の毛を数本ずつ切り落としていく。
「すごい!」
「ミュウ先生、本気になると......」
「さっきまでとまるで別人です!」
観客席から感嘆の声が上がる。
ステラも負けじと反撃を試みる。
「ウィンド・バリア!」
風の壁を作って防御しようとするが、ミュウの風の刃はその壁を紙のように切り裂いて通り抜けた。
「そんな! 私の風の壁が!」
「単純な出力だけでは、技術には勝てないのです!」
ミュウが空中で優雅に回転しながら説明する。その動きに無駄がなく、まるで舞踊家のような美しさだった。
「これが風魔法の真髄なのです! 風を『力』として使うのではなく、『技術』として操るのです!」
ミュウの杖から放たれる風は、もはや攻撃というより芸術作品のようだった。風の流れが複雑な模様を描き、ステラの周囲を螺旋状に取り囲む。
「エアリアル・トルネード・マキシマム!」
ミュウが空中で回転しながら、巨大な竜巻を発生させる。しかし、この竜巻はステラのものとは質が違った。より精密で、コントロールが利いている。竜巻の中には美しい螺旋模様が描かれ、まるで緑の光でできた柱のようだった。
「こんなに美しい竜巻......」
「技術の差が歴然ですね」
「ステラ先輩が押されています!」
観客席の評価も変わり始めた。
「こんなに強かったなんて......」
ステラが圧倒されている。ミュウの本気の実力は、想像以上だった。風の制御技術が格段に上で、同じ風魔法でも次元が違う。
ステラは必死に反撃を試みる。
「ウィンド・ラッシュ!」
風の力で加速し、竜巻の隙間を縫って突進する。しかし――
「甘いのです」
ミュウが空中で手をひらりと振ると、竜巻の形が瞬時に変化した。ステラの進路を完全に予測し、風の壁で彼女の行く手を阻む。
「うわっ!」
ステラが風の壁に激突し、バランスを崩す。
「さすがミュウちゃん!」
リリアが嬉しそうに声援を送る。
「これがミュウ先生の真の実力ですね」アイリーンも感心している。「先ほどまでは明らかに手加減どころか、わざと負けようとしていました」
エレノアも頷いている。
「ミュウの方が格上よ。ステラの風魔法は確かに威力があるけれど、ミュウの精密性には敵わない」
ミュウの怒涛の攻撃が続く。ステラは防御に回らざるを得なくなった。風の刃によって、髪留めが飛ばされてポニーテールが解ける。
「ステラ先輩、頑張って!」
新入生たちが必死に応援するが、形勢は完全に逆転していた。
「申し訳ございません、ステラさん! わたくしの力、思い知っていただくのです!」
ミュウが空中で華麗に舞いながら宣言する。
「全ては――武流様に叱られるため!」
「ええっ!?」
ステラが呆気に取られる。
「そんな理由で本気に......!」
「動機が不純すぎる!」
観客席からも困惑の声が上がる。
ミュウが空中で決めポーズを取る。両手で杖を握り、優雅に片足を上げた美しいポーズだった。
「これで終わりなのです! フェリス・テンペスト・フィナーレ!」
ミュウの最大技が発動された。校庭全体を包み込むような巨大な風の嵐が発生し、その中心でミュウが美しく舞い踊る。風は緑色の光を帯び、まるで光の竜巻のように美しかった。
風の嵐がステラを包み込み、彼女の体が宙に浮き上がった。抵抗する間もなく、風に巻かれて空高く舞い上がる。
「うわああああ!」
ステラの悲鳴が響く中、彼女の体はくるくると回転しながら飛ばされていく。そのまま校庭の端にある木の方向に向かって飛んでいき――
ガサガサガサ!
木の枝にぶつかった。太い枝が彼女の体を受け止めるが、制服のスカートが枝に引っ掛かってしまう。
「ああああっ......!」
ステラの体が上下逆さまになり、捲れたスカートから引き締まった太腿とスポーツタイプの下着が丸見えになる。
「きゃー!」
観客席の生徒たちが慌てて目を覆う。
「ステラ先輩!」
新入生たちが心配そうに駆け寄る。
「だ、大丈夫......」
ステラは逆さまの体勢のまま、力なく手を振った。
「ま、参りました......私の完敗です......」
ステラが逆さまの体勢のまま、潔く降参の意を示した。
「勝者、ミュウ!」
俺が宣言すると、観客席から盛大な拍手が起こった。