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(73)ドジっ子生徒会長アイリーン乱入

「武流」エレノアが氷のような視線で俺を睨みつけた。「あなたって最低ね」


「何だって?」


「可愛い女子生徒たちに囲まれてチヤホヤされたいだけなんじゃないの?」エレノアの声は軽蔑に満ちていた。「『教えることは学ぶこと』なんて偉そうなこと言って、結局は自分が注目されたいだけでしょう」


 彼女の言葉は俺の胸に突き刺さった。確かに、この学園で多くの少女たちから慕われることに、全く魅力を感じていないと言えば嘘になる。スーツアクター時代は常に影に徹していた俺にとって、表舞台で称賛を浴びることは新鮮な体験となるだろう。


 しかし、それだけが理由ではない。俺にはもっと重要な目的があるのだ。


「お前こそ、妬いてるのか?」俺は反撃した。「俺が他の魔法少女たちを教えるのが気に入らないんじゃないか?」


「はあ!?」エレノアの顔が真っ赤になった。「なんで私が嫉妬しなきゃいけないのよ!」


「図星かもね」リリアが苦笑いを浮かべながら言った。「お姉様、すっごく嫉妬してるように見えるよ」


「リリア!」エレノアが妹に向かって叫んだ。「あなたまで何を言ってるの!」


「だって、お姉様ったら、師匠のことになるとすぐムキになるんだから」リリアがからかうように言った。


「そんなことない!」エレノアが大激怒した。「私はただ、こんな胡散臭い申し出を受け入れる武流の判断力を疑ってるだけよ!」


 その時、学園長室の扉が勢いよく開かれた。


「クラリーチェ様! 生徒会の予算案についてご相談が――きゃああああ!」


 現れたのは一人の少女だった。年齢は17歳くらいで、知的な印象を与える銀縁の眼鏡をかけている。長い栗色の髪を後ろで一つにまとめ、学園の制服を完璧に着こなしていた。


 しかし、俺の姿を見た瞬間、少女は驚愕のあまり足を縺れさせ――


「うわああああ!」


 ドンッ!


 豪快に床に転倒した。その拍子にスカートがめくれ上がり、その中が丸見えになる。


「ぎゃー! 見ちゃダメー!」


 慌ててスカートを押さえようとする少女だったが、転倒の衝撃で眼鏡が外れて床に転がる。


「あ、メガネ、メガネ......」


 少女は四つん這いになって床を這い回り始めた。手探りで眼鏡を探しているが、明後日の方向ばかり見ている。


「メガネメガネ......どこ? どこにあるの?」


 俺たちは全員、呆然とその光景を見つめていた。何だ、このマンガみたいなテンプレのメガネっ子は……。


「君、メガネならそこに......」俺が声をかけた瞬間。


「きゃああああ! 汚らわしい男性の声! 話しかけないで!」


 少女は目を閉じたまま手をばたばたと振り回した。その手が偶然眼鏡に当たり、眼鏡はさらに遠くに飛んでいく。


「あああ、メガネが......」


「ちょっとあなた」エレノアが呆れたように言った。「少し落ち着きなさいよ」


「きゃー! 女性の声! 助けて!」少女がエレノアの方に手を伸ばす。


「人の話を聞きなさい!」エレノアがツッコミを入れた。「眼鏡はあなたの足元にあるわよ!」


「あっ、ほんとだ」少女がようやく眼鏡を見つけて装着した。そして、真っ赤になって狼狽する。「私のスカートの中を見ましたね! 皆さん! 見ましたよね!」


「なんか……いろんな意味で大変な子だね」リリアが小声で言った。


「騒々しい人なのです……」ミュウの猫耳が困惑で揺れている。


「アイリーン」クラリーチェが苦笑いを浮かべながら言った。「落ち着け。誰もスカートの中は見ておらん」


「クラリーチェ様!」アイリーンと呼ばれた少女が立ち上がって声を荒げた。「なぜこのような汚らわしい男性が神聖なる学園に! 生徒会長として、このような事態を看過することはできません!」


 ようやく状況を把握したアイリーンは、俺を睨みつけた。その目には強烈な嫌悪感と警戒心が宿っている。


「確かに、この学園は男性の立ち入りは禁止しておる」クラリーチェが説明した。「しかし、この男は特別じゃ。わらわが直々に招いた客人なのよ」


「特別?」アイリーンが眉をひそめた。「いかなる理由があろうとも、規則は規則です。男性という下等生物の立ち入りは、学園の純潔を汚します!」


「下等生物って......」俺は思わず苦笑した。出会った頃のエレノアを思い出す。


「そうです!」アイリーンが力説し始めた。「男性は魔法少女の純潔を奪う邪悪な存在! 私たちの神聖な学園に足を踏み入れるなど、言語道断です!」


「アイリーン・グリモワール」クラリーチェが少女のフルネームを呼んだ。「そなたは先日の王宮での出来事を知っておるな?」


「もちろんです」アイリーンが頷いた。「メリッサ様が勝手に客人を招いて、王宮が大混乱になったとか……」


 ざっくりした説明だが、間違ってはいない。


「その時、わらわと互角に戦った男がおる」クラリーチェの視線が俺に向けられた。「アポロナイトという名の戦士じゃ」


 アイリーンの表情が変わった。眼鏡の奥の瞳が驚きで見開かれる。


「まさか......この下等生物が?」


「そうじゃ」クラリーチェが頷いた。「神代武流。彼こそがアポロナイトの正体よ」


 アイリーンは俺を改めて見つめた。その視線には、先ほどまでの嫌悪感に加えて、複雑な感情が混じっている。


「彼と、彼の弟子たちに教師になってもらうことにしたのじゃ」クラリーチェが続けた。「この学園の魔法少女たちを、より強く育てるためにな」


「私は弟子じゃないって言ってるでしょう!」エレノアが割って入った。「それに、まだ引き受けると決めたわけでもないわ!」


 アイリーンの視線がエレノアとリリアに向けられた。その目に、明らかな軽蔑の色が浮かんだ。


「この方たちが......教師?」アイリーンが信じられないといった様子で言った。「冗談でしょう?」


「どういう意味よ」エレノアが眉をひそめた。


「あなたたちは確か、三年前に王宮から逃げ出した『おもらし姫』とその妹でしたわね」アイリーンの言葉は容赦なかった。「国家の危機に臆病風に吹かれて、両親を見捨てて逃げた腰抜けの......」


「やめて!」リリアが震え声で叫んだ。


「『おもらし姫』ですって……?」エレノアの拳が震えた。


「クラリーチェ様から教わりました」アイリーンが得意そうに言った。「魔獣に襲われた時、恐怖のあまり漏らしてしまったから『おもらし姫』と呼ばれているのだと」


「そんな......。この学園、どういう教育をしてるのよ!」エレノアが怒りに震える。


「ハハハッ、すまぬ、すまぬ」クラリーチェが同情するような表情を作った。しかし、その表情の奥に狡猾な笑みが見え隠れしている。


「でも事実でしょう?」アイリーンが眼鏡を光らせながら続けた。「恐怖で震え上がり、大事な時に役に立たない。そんな人たちに、なぜ私たちが教わらなければならないのですか?」


「あの事件の黒幕はクラリーチェよ!」エレノアが勇気を振り絞って言った。「彼女が魔獣を操って王宮を襲わせたの! あなた、クラリーチェに騙されているんだわ! 目を覚ましなさい!」


 室内が静まり返った。


「はあ?」アイリーンが呆然とエレノアを見つめた。「何を言ってるんですか?」


「本当よ!」エレノアが必死に訴えた。「クラリーチェは三年前の王宮襲撃事件の真犯人なの! 魔獣を操って父と母を殺害した! 私たちは被害者よ!」


「嘘つき」アイリーンがきっぱりと言った。「そんなばかげた話、誰が信じますか?」


「嘘じゃない!」エレノアの声が震えた。「本当のことよ!」


「おやおや」クラリーチェが悲しそうな表情を作った。「エレノア、わらわに濡れ衣を着せるとは……。わらわがそんなことをするわけがないじゃろう?」


「知らばっくれないで!」エレノアが激昂した。


「クラリーチェ様が、そんなことをするはずありません」アイリーンが断言した。「きっと、自分たちの恥ずかしい過去を隠すために、嘘をついているのですね」


「違うわ!」エレノアが叫んだ。


「証拠はあるんですか?」アイリーンが冷たく問いただした。「根拠のない誹謗中傷は、名誉毀損ですよ」


 エレノアは言葉に詰まった。確かに、決定的な証拠はない。


「やっぱり、あなたは嘘つきですね」アイリーンが軽蔑の目でエレノアを見た。「恥知らずの『おもらし姫』が、責任転嫁のために無実の人を陥れようとするなんて」

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