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(71)魔法学園の教師となる決意

「教師に?」


 俺は思わず声を上げた。この俺に、スターマジカルアカデミアの教師になれと言うのか。


 エレノアとリリアとミュウも、驚きの表情を浮かべている。俺は馬車の窓から見える学園の全容を眺めていた。果たして、この申し出の裏には何があるのだろうか。


「言いたいことはわかる。だが、まずは学園の中を案内しよう。答えはそれからじゃ」クラリーチェは余裕の笑みで言った。


 馬車が学園の正門の前で停止した。門は純白の大理石で作られ、両脇には星と月を模した彫刻が施されている。門の上部には優雅な文字で「STAR MAGICAL ACADEMIA」と刻まれていた。


 俺たちは馬車から降り、学園の建物を見上げた。その規模と美しさは、まさに圧巻だった。


「ここは魔法少女たちが学ぶ場所よ」クラリーチェが説明した。「王国中から選ばれた優秀な魔法少女たちが、ここで魔法を学び、技術を磨いておる」


「エレノアたちは入学しなかったのか?」俺が尋ねると、エレノアたちの表情が曇った。


「私たちは王族で、魔法姫だから、学園には縁がなくて……」


「ボクも……。本当は通ってみたいって思ったこともあるけど……」


「わたくし、フェリス族の魔法少女は他にいないのです。だから、入学するのに躊躇があり……」


 なるほど、3人とも学園の存在は知っていたが、入学せずに生きてきた異端児というわけか。


 学園の建物群は白い石材で統一され、中央の講義棟を中心に、左右に寮と演習場が配置されている。最も印象的なのは、学園の奥にそびえ立つ「星見の塔」だった。その頂上には巨大な魔法陣が輝き、まるで天空に浮かぶ星座のような美しさを放っている。


「すごい......」リリアが息を呑んだ。


「王宮よりも大きいかもしれないのです」ミュウも圧倒されたように呟いた。


 エレノアだけは険しい表情を浮かべている。「いくら立派でも、クラリーチェが関わっている限り信用できないわ」


「まあ、そう言わずに見学してみるがよい」クラリーチェが微笑んだ。「百聞は一見に如かず、であろう?」


 正門をくぐると、色とりどりの花壇に囲まれた広大な中庭が広がっていた。そこには多くの少女たちが歩いている。年齢は様々だが、全員が白と銀を基調とした美しい制服を着ていた。胸元には星の紋章が輝いている。


「あの子たち......」俺は中庭を歩く12歳くらいの少女たちに目を留めた。見覚えのある顔がいくつかある。


「そうです」クラリーチェの肩に止まっているディブロットが口を開いた。「先日の星祭りで魔法少女になった子たちも何人かおります」


 確かに、あの夜の儀式で星の祝福を受けた少女たちの姿が見える。彼女たちは新入生として、この学園で魔法を学び始めたのだろう。純真無垢な表情で先輩たちに指導を受けている姿は、微笑ましくもあった。


「12歳から18歳まで、希望者が全寮制でここに住んでおります」ディブロットが説明を続けた。「基本は6年制ですが、個人の能力に応じて卒業時期は調整されるのです」


 俺たちは講義棟の中へと案内された。廊下は高い天井と美しいステンドグラスで装飾され、まるで大聖堂のような神聖な雰囲気を醸し出している。教室からは、少女たちの真剣な学習の声が聞こえてきた。


「こちらは魔法理論の授業よ」


 クラリーチェが一つの教室を覗かせてくれた。30人ほどの少女たちが、黒板に書かれた複雑な魔法陣の図を熱心にノートに写している。


「魔法は感覚だけではなく、理論も重要です」ディブロットが解説した。「魔力の流れ、呪文の構造、魔法陣の意味......すべてを理解することで、より強力で安定した魔法が使えるようになるのです」


 次に案内されたのは演習場だった。体育館の数倍はあろうかという広大なスペースで、魔法の実技訓練が行われている。


 15歳くらいの少女が杖を振ると、炎の矢が標的に向かって飛んでいく。見事に的の中心を貫いた。


「素晴らしい!」指導している教師が拍手した。「魔力の集中が完璧ね。次はアイスランスを試してみましょう」


 俺はその光景を見ながら、無意識に指導者の視点で分析していた。少女の姿勢、魔力の流れ、杖の振り方——すべてが一定のレベルに達している。しかし、まだ改善の余地もある。


「あの子の足の位置がもう少し安定すれば、威力も上がるな」俺は小声で呟いた。


「え?」エレノアが驚いた表情で俺を見た。「もう指導のことを考えてるの?」


「つい、な」俺は苦笑した。


 演習場の隣には魔具工房があった。そこでは年上の生徒たちが、杖や魔法のアクセサリーを作製している。細かな装飾が施された美しい杖が、工房の壁一面に並んでいた。


「わあ......」ミュウの目が輝いた。「こんなに綺麗な杖がたくさん」


「生徒たちが自分で作るのよ」クラリーチェが説明した。「魔具は使い手の魔力と共鳴する。自分で作ったものが最も力を発揮するのじゃ」


 寮も見学させてもらった。二人一部屋の個室制で、各部屋には勉強机とベッド、それに小さな魔法実験用のスペースまで設けられている。共同のリビングでは、様々な学年の少女たちが和気あいあいと談笑していた。


「みんな楽しそう......」リリアが羨ましそうに呟いた。


「家族から離れて共同生活をすることで、魔法少女としての絆も深まるのです」ディブロットが胸を張った。


 そして最後に、学園で最も印象的な「星見の塔」を見上げた。地上から見ても、その高さは圧倒的だった。


「あの塔は何のために?」俺は尋ねた。


「天文魔法の研究と、外部との魔法通信に使っておる」クラリーチェが答えた。「それに......学園には他にも、特別な施設がいくつかあるのじゃ」


 彼女の言葉に、何か含みがあるように感じた。特別な施設とは何だろうか。


 見学を終えた俺たちは、学園長室に案内された。豪華な調度品に囲まれた部屋で、クラリーチェが大きな机の向こうに座った。


「さて、武流よ」クラリーチェが改めて真剣な表情になった。「あらためて依頼しよう。この学園の教師として、魔法少女たちを指導してもらいたい」


「待って!」エレノアが立ち上がった。「武流、聞いちゃダメよ!」


「そうだよ!」リリアも必死に訴えた。「師匠は私たちの味方でしょう?」


「この学園の理事長はクラリーチェなのよ!」エレノアの声は怒りで震えていた。「ここは彼女の都合のいい魔法少女を育てる場所に過ぎないわ!」


「ここで働くということは、クラリーチェに従うということよ」エレノアが続けた。「武流、あなたはこんな女の言いなりになんかならない! 絶対にならないわ!」


 エレノアの言葉には、俺への深い信頼が込められていた。彼女は俺を信じてくれている。俺がクラリーチェの策略に屈することはないと。


「わたくしもそう思うのです!」ミュウも猫耳を立てて言った。「武流様は、わたくしたちの大切な師匠なのです!」


 三人の必死な説得を聞きながら、俺は心の中で静かに考えていた。確かに、クラリーチェの申し出には裏があるのかもしれない。しかし、この学園には俺が必要としているものがありそうだった。


 それに、ここで学ぶ純真な少女たちの姿も印象的だった。彼女たちを正しい道へ導くことができれば――


「武流......まさか」エレノアの顔が青ざめた。


 俺はゆっくりと立ち上がり、クラリーチェを見据えた。部屋の空気が一瞬凍りついた。


「分かった。引き受けよう」

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